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ワールドシネマ入門
世界の映画監督14人が語る創作の秘密とテーマの探求
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年4月1日
- 書店発売日
- 2020年4月1日
- 登録日
- 2020年2月3日
- 最終更新日
- 2020年4月13日
書評掲載情報
2020-09-19 |
キネマ旬報
2020年10月上旬号/第1850号 評者: 杉原賢彦 |
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紹介
世界映画(ワールドシネマ)の巨匠たちは、いかにしてテーマと出遭い、それを創造へと結びつけるのか?
さまざまな言葉、風土、食物、ファッション、生活習慣、信仰、音楽があふれる世界映画(ワールドシネマ)。
そこは、社会問題や歴史や民族がうずまく多様な社会です。
本書はそのコミュニティに参画するための手引きでもあります。
また、映画や映像を製作するためのモチベーションの源泉やテーマへの探求にも迫ります。
自身も映像作家である金子遊(多摩美術大学准教授)が、クリエイティブの根幹について、世界各国の巨匠や名匠14人に話を聴きました。
【対話監督一覧】
ペドロ・コスタ〈ポルトガルの世界的映画作家〉
黒沢清〈ホラーやスリラーで世界的名声を得た日本の名監督〉
トニー・ガトリフ〈ロマの血をわけたアルジェリアの名匠〉
想田和弘〈観察映画を生み出した日本を代表する記録映像作家〉
タル・ベーラ〈ハンガリーが生んだ孤高の映画マイスター〉
オタール・イオセリアーニ〈ジョージアの世界的巨匠〉
モフセン・マフマルバフ〈イランで最も人気がある名監督〉
ブリランテ・メンドーサ〈フィリピンの底辺をまなざす名匠〉
アミール・ナデリ〈世界的評価の高いイラン映画界の重鎮〉
アクタン・アリム・クバト〈キルギスの現代社会を問う名匠〉
キドラット・タヒミック〈フィリピンを代表する映画・美術作家〉
ベン・ラッセル〈アメリカの映像作家兼アーティスト兼キュレーター〉
リティ・パン〈クメール・ルージュの虐殺を、証言をもとに紐解く巨匠〉
ラヴ・ディアス〈フィリピンの怪物的映画作家〉
目次
まえがき
第1章 異文化を撮る
1リスボンのアフリカ移民――ペドロ・コスタとの対話[ポルトガル&カーボ・ヴェルデ]
2アフリカとメラネシアの民間信仰――ベン・ラッセルとの対話[バヌアツ&スワジランド]
3ウズベキスタンを旅する合作映画――黒沢清との対話[ウズベキスタン]
4アメリカ社会を観察する――想田和弘との対話[アメリカ]
第2章 ユーラシア文化の多様性
5ジプシーの人生と悲喜劇――トニー・ガトリフとの対話[フランス&ルーマニア]
6ハンガリー大平原と人間存在――タル・ベーラとの対話[ハンガリー]
7カフカースに響く人間讃歌――オタール・イオセリアーニとの対話[ジョージア]
8キルギスの伝統と近代化――アクタン・アリム・クバトとの対話[キルギス]
9動乱の中近東を見つめる――モフセン・マフマルバフとの対話[イラン&アフガニスタン]
10イラン、映画監督一代記――アミール・ナデリとの対話[イラン]
第3章 東南アジアの歴史と現在
11ポスト植民地としての群島――キドラット・タヒミックとの対話[フィリピン]
12マニラのスラム街を撮る――ブリランテ・メンドーサとの対話[フィリピン]
13フィリピン現代史の闇を暴く――ラヴ・ディアスとの対話[フィリピン]
14クメール・ルージュと生存者の記憶――リティ・パンとの対話[カンボジア]
あとがき
前書きなど
まえがき
わたしたちはふだん、さまざまな映画をシネマ・コンプレックス、テレビ番組、レンタルDVD店、動画配信サービスなどを通じて鑑賞しています。そこで見られる映画のほとんどが、ハリウッドを中心とするアメリカ映画、それから日本、韓国、フランス、イギリスなどの先進国で製作されたものばかりです。それでは、世界のほかの国々ではあまり映画は撮られていないのでしょうか。そんなことはありません。ユネスコの2016年の統計データによれば、製作本数の世界1位はボリウッドを中心とするインドで1986本、2位は中国の856本、3位は映画大国アメリカの656本、4位は日本の610本、5位は韓国で339本、以降はイギリス、フランス、ドイツ、アルゼンチン、イタリアと続きます(「UNESCO Institute for Statistics UIS.Stat」を参照。http://data.uis.unesco.org/Index.aspx)。
それでは、どうしてほとんどのインド映画や中国映画などのアジア映画、中東やアフリカや南米でつくられているローカル映画はわたしたちの手元に届かないのでしょうか。それは、日本国内における映画興行の一般公開や、商業的な映像ソフトにおいてリリースされていないからです。それでも、わたしたちは何とかミニシアター、国際映画祭、シネマテークのプログラムによって、観られる機会は限られているものの、いま世界中でつくられている映画に触れることができます。
インド、中国、アメリカ、日本、韓国、フランス、イギリス、ドイツなどの映画大国以外の地域でつくられる映画のことをここでは「ワールドシネマ」と呼びましょう。この言葉は、アジア映画、ヨーロッパ映画といった地域別に映画を分類する方法とは別に、映画研究者のあいだで使われている概念です。ちまたでエスニック(民族特有の)料理という言葉が定着してから長い時間が経ちますが、「ワールドシネマ」もまた東南アジア、オセアニア、中東、アフリカ、南アメリカといった諸地域で暮らす民族に特有の映画という意味合いでは、「エスニック映画」といえるかもしれません。
東南アジア、オセアニア、中東、アフリカ、南アメリカといった地域でいったい何が起こっているのか、新聞記事やニュース報道やテレビ番組などを通じて、わたしたちはその情報を入手します。しかし、日本社会に生きている限り情報は十分といえません。なぜなら、北米やヨーロッパから入ってくる情報に比べて、それらの地域から入ってくる情報量は圧倒的に少ないからです。戦争、テロリズム、移民や難民、自然災害、貧困、環境破壊、グロバリーゼーションによる弊害など、世界ではさまざまな問題が起きています。物語の力と映像や音声のイメージによって成り立つワールドシネマには、言語や民族のちがいを越えて、わたしたちの五感をゆさぶり、そこに住む人たちのできごとを感情に訴えってくるという特徴があります。
本書の第1章「異文化を撮る」では、ポルトガル、アメリカ、日本といった先進国の映画監督たちが、自分の属する文化とは異なる土地で撮った作品、あるいはペドロ・コスタのようにアフリカからの移民を撮った作品について、その方法論や創作の背景にある考え方を語ります。そもそも彼らがどのようにして、文化的な他者というモチーフに出会い、それを映画の主要なテーマに据えることになったのか、創作のプロセスの説明を通じて披瀝します。それを読むことで読者は、遠くはなれた世界だと感じている地域にアプローチするための、さまざまな視座を手に入れることができます。
第2章「ユーラシア文化の多様性」では、ルーマニアやハンガリーなどの東欧から、西洋と東洋の境界にあるジョージアやキルギスを経由し、かつてペルシャと呼ばれた中近東の地域へと分け入ります。インド北部からトルコを経由して最後はスペインにまで達したロマ民族の歴史を映画に撮りつづけているトニー・ガトリフや、ジョージアとフランスを往還するオタール・イオセリーニの亡命作家的な歩みから、ユーラシア大陸における映画づくりのダイナミズムが感得されることでしょう。モフセン・マフマルバフは自国イランだけでなく映画の舞台を隣国のアフガニスタンやジョージアへと広げ、アミール・ナデリはアメリカや日本やイタリアへ移動をくり返しながら映画を撮りつづけています。
第3章「東南アジアの歴史と現在」では、いままさに黄金期を迎えているフィリピン映画における巨匠たちの映画づくりの話題を中心にして、スペイン、日本、アメリカの植民地にされてきた太平洋の群島国家の現代映画史をひも解きます。そこには独立後も、マルコスの独裁政権によって傷ついた民衆の姿や、南部のイスラーム過激派によるテロの動き、都市に形成されたスラム街での庶民のたくましい生活が描かれています。七〇年代にポル・ポト率いるクメール・ルージュがカンボジアを制圧しましたが、その圧政下で人びとがどのような強制労働を強いられたか、その暗黒の歴史を映像化するリティ・パンの言葉から、今日のワールドシネマが負っている課題の大きさが伝わってきます。
そうはいうものの、世界中で起きているこうした深刻な問題において、映画が即座に何かを解決できるというわけではありません。むしろ複雑に生起する事態を前にして、映画は無力だといわざるをえないでしょう。しかし、フィクションとドキュメンタリーとを問わず、映画には少なくともそこに住む人たちの姿を映像に映しだすことができます。そして、ワールドシネマのカメラは彼(女)らのなかへ入っていき、フィクションという形でその人たちのおかれた社会の状況や家庭のあり方、彼(女)らの抱く愛情や葛藤をつぶさに見せることができます。それは社会的な事実ではなく、映画のつくり手によるイマジネーションにすぎないけれども、ワールドシネマを見ることを通して、わたしたちは文化的な他者の内面を想像するきっかけをつかめるのです。
映画にはこの広い世界で起きている問題をただちに解決する力はありませんが、そこに問題があるということを指し示し、人びとに再考をうながすことはできる、ということです。さあ、筆者による道案内はここで終わりです。この先はみなさん自身の足でこの書物のなかを踏破しながら、柔軟な感性をはたらかせていろいろなことを感じとってください。1ページ1ページをめくっていくことで、さまざまな言葉、風土、食べ物、衣装、生活習慣、信仰、音楽があふれている「世界映画(ワールドシネマ)」のコミュニティに参画することになるのです。
版元から一言
クリエイターを志している若者をはじめ、これから何かを作りだしたいと考えている多くの方々が読者対象です。
世界の映画監督14人が、自身の映像製作で得た体験から、創造する際のモチベーションの源泉について、またテーマを選ぶ際のきっかけについて縦横無尽に語っていきます。
映画製作はもちろんのこと、映画以外の創造性へのヒントにもなる言葉があふれています。
プロ、アマ問わず、すべてのクリエイターに手にとっていただきたい一冊です。
上記内容は本書刊行時のものです。