書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
巧拙無二
近代職人の道徳と美意識
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年2月6日
- 書店発売日
- 2020年1月31日
- 登録日
- 2019年9月6日
- 最終更新日
- 2020年1月31日
紹介
事理一致の近代職人に学び、現代の日本人が失いつつある職業文化の精髄を掘り起こす。
「見える化」ばかりを追い求め、「出来る化」が置き去りにされている昨今――。
近代には、先達から技術と理論を受け継ぎ、さらなる高みを体現した職人たちが存在した。
彼らが仕事へ注いだ心血は、同時に自らの生命をも高みへ導いただろう。
その仕事振りは、今の世に言う「ワーク・ライフ・バランス」を根本から揺るがすものだ。
しかし、仕事と生命を相即不離とした職人たちは、有形無形の文化的財産を遺している。
一体、我々は次世代に何を残せるというのであろうか?
千代鶴是秀や長谷川幸三郎、嶋村幸三郎、伊藤宗一郎、野村貞夫ら、鍛冶屋や鉋台屋、大工など、知る人ぞ知る名匠たちの超絶技巧を伝えるエピソードに内包された、近代職人の道徳や美意識、仁義、矜持を、武術研究者・甲野善紀と、土田刃物店三代目店主にして、伝統木工具目利き人・土田昇という、異業種の奇才ふたりが語り尽くす。
働き方を変えるのではなく、生き方そのものを変えてしまう、現代人にとって真に貴重な対談。
目次
まえがき――甲野善紀
仕事道具に触るのは感覚が育ってから
道具鍛冶の名工・千代鶴是秀の修行はじめ
「お前が本で学んだ事ではない、お前の一言を言ってみよ」
職人の「恥」
職人の思い入れと伝統
重い金床を片手でヒョイッ(玄能鍛冶・長谷川幸三郎)
職人と素人の違い
「こいつなら、いけるかもしれない」
手裏剣術が玄能作りのヒントに?!
墨掛け粗掘り五分(鉋台屋・伊藤宗一郎)
理想的な鉋台
名人大工と名人鍛冶の職人仁義合戦
野村貞夫棟梁の美意識
マサカリ遣いとゴルフのフォーム
息の根を止められた鋸鍛冶
職人の「老い」
これからの職人の生き方
本当の名刀とは
職人の仁義
土田一郎、千代鶴是秀に出会う
清忠問答
穴大工の玄能の柄
「名工」たる所以
【追記対談】授業科目は、国語と歴史と体育だけ
あとがき――土田昇
前書きなど
◆徐々に絶えていく日本の職人
日本に職種のレッドデータブックが存在すれば、確実に載るであろう数多くの職人たち。
後継者不足にあえぐ職人は今や絶滅危惧職種といっても、決して大袈裟ではありません。
「現在の日本に存在する49%の職業がAIやロボットなどに代替される可能性がある」という予測もありますが、みなさまもご存じの通り、それ以前から職人は瀕死の状態にいるのです。
なんと嘆かわしい現実でしょう。
多くの先達が編み出し、後進に伝え遺してきた職人の品や技、道徳、美意識、仁義、矜持――。
現代に生きる私たちはそれら偉大な有形無形の財産を、あって当たり前、まるで空気のように身の回りにして日々を過ごしてきました。
しかし、職人の流した汗、職人の絞り出した智慧に、一体誰が気付いたでしょうか、感じたでしょうか。
私たちは、職人が作ってきたモノコトを無為に費やしてきてしまったのかもしれません……。
今のままでは取り返しがつかなくなってしまうと思い至った時、職人から贈られたこの恩恵を、私たちの世代で失うわけにはいかない、そう考えるのは少しもおかしくはないはずです。
職人が会得した究極の心技体を、できる限り未来の人たちへ譲り渡していきたい。
そんな願いは、どのようにすれば叶うのでしょうか?
◆コアな対談原稿を手にして
答えは、ありました。あったのです。
2018年の師走に入って間もないある日、武術研究者の甲野善紀氏から送られてきた、対談原稿『巧拙無二』の中に。
すでにタイトルまで決まっていたその企画は当初、刊行する出版社の目処すら立っていないまま、甲野氏と土田刃物店店主である土田昇氏のふたりでスタートさせたそうです。
次いで、文字起こしや構成、ライティングなどで加わったのが、フリーランスライターの平尾文氏。
3人は、数年の時をかけて原稿をまとめ、複数の出版社に持ち込んだものの、結局どこにも採用されませんでした。
なにしろ、ただでさえ数寄な著者ふたりが、無垢な子どものように無我夢中で語り尽くした、「専門知識満載」「知る人ぞ知る」という内容なのですから。
たしかに、この対談原稿『巧拙無二』は、専門知識がなければ、なかなか通読するのが難しいことは否めません。
売れ行きを考えれば、出版社が避けて当然といえば当然の、マニアックでコアな企画です。
それでも、世に送り出す価値はあると思うのです。そう、絶対にあるはずです。
専門知識がまったくなくとも、職人が「いかに尋常でない超絶技巧を身に着けていたか」「常識はずれとも言えるくらいに仁義や恥を重んじた粋な人たちであったか」など、それらのエピソードは、誰にでも十分読み応えあるものですし、いずれにも大きな感銘を受けるに違いないでしょう。
効率化の荒波にさらされて、いくら技術は廃れていくとしても、仁義や恥、美意識、矜持まで手放す必要はありません。
今まさに、日本人の掌からこぼれ落ちつつある「なにか」を掬い上げるためのひとつの方法論が、この対談で語られる「職人道徳」に内包されているのです。
◆未来の世界に「粋」を伝えたい
もちろん、この対談『巧拙無二』は、職人にまつわる膨大な情報量のうちの、ほんのわずかな断片を遺せるだけにすぎませんし、生のまま、次代に伝えられるわけでもありません。
ですが、本書をきっかけとして、職人の道を志す方、職人の品や技などの復元を試みる方が現れるはず、そう信じられるほどの質が担保されていると思います。
もしも、未来の子どもたちが住む世界に職人が存在しなかったとしたら?
それは、なんとも味気のない、気の抜けた世界――粋を失くした世界なのではないでしょうか。
職人が存在するだけで、世界は豊潤になり得ます。
世界が豊潤さを失わぬよう、古くから受け継がれてきた職人文化を未来へ繋いでいけたなら……。
◆クラウドファンディングが繋いだ職人文化の未来
モノコトに対して自主的であればあるほど、一心不乱であればあるほど、不撓不屈の強靭さが備わっているものです。
その証しに、クラウドファンディングに挑戦した本書は、多くのご支援者のお力添えにより、目標を達成することができ、未来の職人、未来の子どもたちに願いと信頼が託された書籍に姿を変えて世に送り出されることとなりました。
そう、より強固で大きな願いは繋がります。未来へと繋がります。
この拙文をご覧になっているみなさまも、粋を感じられる未来作りに加わっていただけないでしょうか。
版元から一言
◆支援から生まれた書籍
序盤の斬り結ぶような緊張感のある問答から、終盤へ向かって胸襟を開いてゆく軽妙な会話がいたく魅力的な本書は、間違いなく、対談本でありがちな「予定調和」「暗黙の了解」が見られない、真剣勝負の内容です。
奇才ふたりが全身全霊で挑んだ、濃密でとてつもなく熱い対談であると自信を持っております。
◆著者ふたりの圧倒的熱量を世の中へ
実は、この対談原稿を預かった際、同時に出版社の起業を決断しました。
現在、出版界史上、空前絶後の不況下にあると言われていますが、どうにか書籍化したいとの一心からです。
異能のふたりが、心ゆくまで語り明かした本書を、ぜひ手に取っていただけないでしょうか。
職人に対する、ふたりの圧倒的熱量を感じていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。
上記内容は本書刊行時のものです。