書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
京築の文学群像
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年8月25日
- 書店発売日
- 2020年8月25日
- 登録日
- 2020年6月8日
- 最終更新日
- 2020年8月25日
紹介
多彩な思潮と文学作品を生み出してきた京築地域(福岡県北九州市南東部、行橋市、豊前市、京都郡、築上郡)。江戸後期、明治、大正、昭和に輩出した21名の文学者を取り上げ、その文学的人脈と文献を紹介する。郷土への深い愛情と半世紀を超える研究とが織り成す書。
【京築が輩出した文学者たち:本書掲載】
村上仏山/末松謙澄/末松房泰/広瀬旭荘/吉田学軒
毛里保太郎/杉山 貞/竹下しづの女/堺 利彦/小宮豊隆
葉山嘉樹/鶴田知也/火野葦平/里村欣三/白河鯉洋
玉水俊虠/石井省一郎/緒方清渓/友石惕堂/秋満越渓/松本清張
目次
序 山内公二
まえがき
Ⅰ 京築を彩る文化と歴史
吉田学軒と森鷗外と「昭和」の元号
行橋地方の近代教育の特色
村上仏山の私塾・水哉園の教育
幕末の漢詩人たちの歴遊 広瀬旭荘の書簡と『仏山堂日記』を中心に
竹下しづの女と漢学塾・水哉園
末松謙澄と「門司新報」
葉山嘉樹の文学への出発 『葉山嘉樹短編小説選集』の出版
新資料による葉山嘉樹の父・荒太郎郡長の足跡
里村欣三をめぐる北九州出身の作家たち
プロレタリア作家・里村欣三と火野葦平の戦争と生活
鶴田知也の「謙虚」と「実践」の文学
連歌の再興に賭けた人 高辻安親宮司を悼む
Ⅱ 郷土・美夜古の文献と歴史
はじめに
郷土ゆかりの文化人たち
幕末-明治の郷土を知る
郷土史を学ぶ
紀行に見る郷土
郷土の文化を知る
つれづれなるまま
初出一覧
前書きなど
鶴田知也は明治三十五年(一九〇二)、現在の北九州市小倉北区の生まれであるが、少年期は実家のあるみやこ町豊津で過ごしている。小説家、随筆家、酪農業の指導者、労働運動の活動家、画家など、いくつもの顔を持っていた。私は生前の鶴田知也に四、五回会って、交友関係のあった作家などについて尋ねたことがある。一度は葉山嘉樹、堺利彦の調査のため東京の私宅を訪ねた。その後、葉山嘉樹の文学碑建立を記念する座談会などで会った。また、たびたび手紙のやりとりをして、大石千代子のことなどご教示を受けた。だが、鶴田は謙虚な人柄で昔のことを多く語らなかった。明朗で温厚かつ誠実な作家であったが、「過去のことに拘泥しない」で、いつも未来を見つめた作家であった。
しかし晩年、「等閑記」(一九七二~七七年に雑誌『農業・農民』に連載。のち『鶴田知也作品選』〔小正路淑泰編著、一九九二年〕に収録)を書き、自伝的な文章を発表した。これには幼年期、青年期のこと、故郷での出会いなどを意外にも饒舌に語っている。そのうちに昭和六十三年(一九八八)に逝去された。
私は資料の一部が容易に揃わないこともあったが、本格的な鶴田知也研究ができずに今日まで来た。その後、平成二十四年(二〇一二)七月、鶴田や葉山嘉樹と共通の文学運動をしていた親友・里村欣三の「生誕百十年記念講演会」が、生誕地である岡山県備前市日生町において開かれた。そして記念誌として『里村欣三の眼差し』(里村欣三顕彰会編)が発行され、そこに拙文「里村欣三をめぐる北九州出身の作家たち」を寄稿し、鶴田知也、葉山嘉樹、火野葦平を取り上げた。この時、やはり鶴田知也について書かねば申し訳ないという思いがしてきたため、この論を書く契機となった。
いつも思うのは、鶴田知也の作品には誠実で正直な好人物が登場するが、それが同時に鶴田の誠実な人柄と重なり合うということである。端的に言えば、鶴田がよく口にしていた「不遜なれば未来の悉くを失う」という言葉である。換言すれば、「不遜な人間になるなかれ」ということは、「誠実な人間たれ」という意味であろう。そして、そのことを社会で「実践せよ」とも言える。激動の時代を生き抜いてきた鶴田のこの言葉は重い。そして鶴田はこの言葉を正直に実生活、文学作品において貫いたのではなかろうか。
(「Ⅰ 京築を彩る文化と歴史」鶴田知也の「謙虚」と「実践」の文学 序文・後書きへのこだわり より)
上記内容は本書刊行時のものです。