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エトセトラ VOL.8 鈴木みのり(特集編集) - エトセトラブックス
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エトセトラ VOL.8 (エトセトラボリュームエイト)

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A5判
縦210mm 横148mm 厚さ8mm
重さ 180g
144ページ
並製
価格 1,300円+税
ISBN
978-4-909910-16-5   COPY
ISBN 13
9784909910165   COPY
ISBN 10h
4-909910-16-6   COPY
ISBN 10
4909910166   COPY
出版者記号
909910   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
書店発売日
登録日
2022年10月19日
最終更新日
2023年4月14日
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重版情報

2刷 出来予定日: 2023-01-20
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紹介

特集:アイドル、労働、リップ

「アイドル」を含めたいろいろな人たちが、心身ともに健やかでいられるには--
「アイドル」の表象、労働、消費について考える、これまでなかったことにされてきた必要で切実で多様な声を集めた特集号

フェミニズムを身近なテーマから考えるマガジン「エトセトラ」8号目の特集は、「アイドル」。自身がアイドルの和田彩花、アイドル文化を含めた表象について執筆を重ねてきた鈴木みのりを特集の編集に迎え、労働、心身の健康、ボディイメージやライフスタイルの消費、SNSを巡る諸問題に向き合い、そしてアイドルから得られる希望や喜びとは何かを探る。1408もの声が集まった「アイドルの未来のためのアンケート」も!

特集外も、ジュディス・バトラーへのロングインタビュー、「オープンレター 女性差別的な文化を脱するために」原文掲載など、残しておきたい記録に満ちた一冊。

目次

特集:アイドル、労働、リップ

特集のはじめに 鈴木みのり・和田彩花

【エッセイ】
菅野つかさ「少女時代を通して出会った世界」
野中モモ「『街いちばんのナイス・キッドたち』によせて」
藤野可織「私はいかにしてアイドルの恋愛に一喜一憂するようになったか」
犬山紙子「ファンと消費」 

【創作】
岩川ありさ「わたしはこぶしを握りしめる」

【論考】
ハン・トンヒョン「矛盾に満ちた『推される人』たちにかかる負荷が少しでも減ることをいつも願っている」
上岡磨奈「アイドルとあなたとは何も変わらない、同じ人間である」
田中東子「アイドルたちは何を開示しているのか?」

【写真】
藤岡亜弥「熱狂の広島、オバマがヒロシマに来た日」

【インタビュー】
竹内亜矢子「〈自分の身体と折り合いをつける〉ために試してみたいエクササイズとストレッチ」
寺嶋由芙「好きなことを好きでいるために、アイドルの問題を話していきたい」
内藤忍「働くすべての人の『労働』が、守られるために知りたいこと」


【アンケート】
わたしの“アイドル”
イ・ラン/宇垣美里/エミリー/太田莉菜/温又柔/カナイフユキ/近藤銀河/佐久間裕美子/佐野亜裕美/柴崎友香/周司あきら/岨手由貴子/仲西森奈 /羽佐田瑶子/valknee/潘逸舟/丸山美佳/宮越里子/森栄喜/WAIFU

1408の声が集まった
「アイドルの未来のためのアンケート」

特集のおわりに 鈴木みのり・和田彩花 

************************************************************
【インタビュー】
ジュディス・バトラー「反ジェンダー、反多様性にフェミニズムは抵抗する」
(聞き手:清水晶子/ 翻訳:西山敦子(C.I.P. Books)/ 企画・写真:間部百合)

【アーカイブ】
「オープンレター 女性差別的な文化を脱するために」を記録する

【寄稿】
北原恵「イトー・ターリが遺したもの――追悼展示会報告記」

【フェミリポート】
下郷さとみ「ブラジルの政治を、先住民族の女性・マイノリティの手に」

【連載】
「編集長フェミ日記」(2022年8月~10月)鈴木みのり・和田彩花  
「ふぇみで大丈夫」ナガノハル/vol.4:ちゃんみな大好き
「ここは女を入れない国」伊藤春奈(花束書房)/第6回:炭鉱と女人禁制
「Who is she?」大橋由香子/第5回:日雇いで働くニコヨンの彼女
「LAST TIME WE MET 彼女たちが見ていた風景」宇壽山貴久子
私のフェミアイテム:須藤はる奈
NOW THIS ACTIVIST :門田亜里砂
etc. bookshop通信

【訂正とお詫び】
鈴木みのりさんの「はじめに」冒頭で、時系列に間違いがありました。「この内容は、ジョンヒョンさんと、同じ事務所所属で同じく自死した、IUの友人だった元f(x)のソルリのことも念頭にあったのでしょう。」の一文は、2つ目の段落の最後に入るものでした。ここに訂正とお詫び申し上げます。

前書きなど

特集のはじめに  鈴木みのり


今年の十二月、韓国のアイドルというかKポップのボーイズグループ、SHINeeのメンバー、ジョンヒョンさんの五周忌が訪れます。命日の翌月、二〇一八年の一月、韓国のグラミー賞といわれるゴールデンディスク賞で大賞を受賞した際、ソロアイドル的な立場でデビューした、卓越したシンガーソングライターであるIUがスピーチでこう述べました。〈アーティストは皆誰かを慰める仕事をしています。でも、人間として自分のことを先に考えて慰めてほしいです。表に出してはいけないと思って、逆に病気になったりつらい思いを絶対にしたりしないで欲しい〉(1)と。

その後二〇一九年十一月にIUがリリースした、傑作EPの表題曲『Love poem』の歌詞はきっと、スピーチを昇華した内容だとわたしは思いました。例えば、〈嬉しい時には喜んで悲しい時には泣く、自然なことが自然に表現できて、受け入れられてほしい〉というスピーチに対して、自然体でいるのは難しい、言葉にできない/ならない声なき声の代わりに歌は響きます。またEPで、この曲の前に置かれた『자장가』(Lullaby)は、件のスピーチの際の受賞曲『밤편지』(夜の手紙)と共に、夜を巡り、眠れない孤独に向けられていると感じられます。この内容は、ジョンヒョンさんと、同じ事務所所属で同じく自死した、IUの友人だった元f(x)のソルリのことも念頭にあったのではないでしょうか。

SHINeeのキーくんが、今年八月に出したアルバム収録の、みずから作詞したダンスポップ「I Can’t Sleep」をわたしはどう聴いたらいいのか戸惑います。かつてその時刻のキーくんのインスタライブをわたしも見たことがあったように、外が明るくなる朝四時になっても眠れないという、その歌。屋根のある部屋があること、不安なく布団にくるまれること、朝を迎えられること。そうした安全を誰もが求めているはずと思ってきたけど。

この企画でアイドルと呼ばれる存在は、歌ったり踊ったりするいわゆる「アイドル」だけでなく、特に日本や韓国のテレビ番組、音楽、映画などメディアを通して、ファンや視聴者からイメージを偶像化され、消費される、芸能産業で働く人々をわたしは想定しています。ただ、共同で特集を編集してくれた和田彩花さん、それからエトセトラブックスの松尾亜紀子さんとの協働を通して、その範囲を定めようとは考えませんでした。

エッセイ、論考、散文のような創作のような内容、健康のためのエクササイズ、労働者としての法的な権利、それぞれにとっての「アイドル」、そしてアイドルである/だった人たち、その周囲で働く人たち、活動を応援したりその表現を楽しんだりしてきたファンの人たちの声を集めたアンケート。アイドルと見なされる人々を含めたいろんな人々が、心身ともにできるだけ健やかでいられる状況が目指されるために、必要と考えられるいろんな声を集めたつもりです。読者のみなさんが考えたり休んだり、出入りしたりしやすい内容を目指したので、ささやかでも、きっかけになるとうれしいです。


(1)Kstyle「SHINee ジョンヒョンさんへの想い…IUのメッセージに涙が溢れた「第32回ゴールデンディスクアワード」」
https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2085549

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特集のはじめに  和田彩花


10歳からアイドルの研修生をはじめ、16歳から25歳までアイドルグループで活動した。

アイドルになりたいという気持ちはそれほど強くなかったため、特に研修期間は習い事の延長線上で楽しんでいた。

15歳でアイドルグループとしてデビューしてから、駅やコンビニの雑誌で自分たちを見かけるようになった。メンバーが卒業すると、大人の(当時10代半ばだった私から見て大人だった)ファンの方が目の前で泣いていた。そういった出来事から社会に出たこと、影響力というものを知った。

その後、グループはどん底といわれる時期が続いた。日本中のライブハウスを回った。お客さんが集まらず、ファンの方が会場を楽しそうに走り回っていた姿を思い出す。

それまで大きな会場でコンサートをしたいと夢を語ったけれど、ライブハウスを巡ってからは数とか大きさでは決められない価値を知った。それから、初めて自分の心がおかしくなってしまう気がしたけど、幼い頃から聞かされていた「何があってもステージに立つ」という根性論で乗り越えた。

20歳前後、どうしたら大人になれるかを考えていた。前髪を伸ばした。周囲は、当たり前のように理想の恋愛や結婚観を語り始めたけど、私は当たり前のように恋愛や結婚に興味がなかった。そして、なぜ恋愛の歌(それも多くは異性に向けられた)を歌わなければいけないのかわからなかった。

グループ名が変わった。人も入れ替わった。ここまで結構頑張ったと思っていたけれど、あるとき私の根性論が間違っていると言われた。10代から周囲に言われるまま根性論を叩き込んできたのに、私が責められた。よくわからなくなってしまって、もう一つの居場所であった美術の世界とアイドルの世界を見比べてみた。ああ、いろいろ間違っていた。

最初はうまく言葉にできなかったので、与謝野晶子さんの『「女らしさ」とは何か』をスタッフの方に送って心のモヤモヤを代弁してもらった。そうこうしているうちに心が壊れて、人の痛みを知った。そうなってもなお、根性論から抜け出せず助けを求められなかったので自分の首を締め続けるしかなかった。

アイドルグループを卒業して、行きすぎてしまった思考をリセットした。ときどき、消化できなかった出来事を書き出しながら、痛みに向き合っていくようにもなった。

ここまでの出来事は、ファンを敵に回すためでも、何かの団体の広告塔になっているわけでもない私の悩みの全てであり、避けられなかった現実だ。

今回、アイドルが抱える問題について様々な立場から関心を持ち続けてくれた皆さまの力をお借りしながら、アイドルという職業について考える場をいただいた。

アイドルについて考え始めると、いくつもの偏見や差別が重なること、はっきりと答えを出せない場面にも直面し、秩序を保ったステージで輝くアイドルの姿との対比に何度かくらくらした。

まずは、これまで考えることとされてこなかったアイドルにまつわる様々な出来事を知ってほしい。それらを踏まえた上で、もしよかったら一緒にアイドルの未来に向けて一歩を踏み出してくれたら嬉しい。

著者プロフィール

鈴木みのり  (スズキ ミノリ)  (特集編集

1982年高知県生まれ。ジェンダーやセクシュアリティの視点、フェミニズム、クィア理論への関心から小説、映画、芸術などについて「i-D Japan」「キネマ旬報」「現代思想」「新潮」「すばる」などで執筆。2018 年、範宙遊泳『# 禁じられたた遊び』に出演。近刊に『「テレビは見ない」というけれど』(共著/青弓社)。『早稲田文学増刊号 「家族」』(筑摩書房)に短編小説を寄稿。

和田彩花  (ワダ アヤカ)  (特集編集

1994年群馬県生まれ。アイドル。2009年アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。10年「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。19年アンジュルム、およびHello! Projectを卒業し、アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。

上記内容は本書刊行時のものです。