倭建命物語論
古事記の抒情表現
- ISBN
- 978-4-909832-02-3
- Cコード
-
C3095
-
専門 単行本 日本文学、評論、随筆、その他
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年2月28日
- 書店発売日
- 2019年3月8日
- 登録日
- 2019年2月21日
- 最終更新日
- 2019年4月26日
紹介
歌は物語の中でどのような役割を果たしているのか
ヤマトタケルの物語にみえる、個々の歌とその歌い手を中心とする登場人物の関係性とを考察。『古事記』に独自の表現や記事配列を踏まえて物語全体の中に位置づける。
歴史的事跡である国土平定が、なぜ一人物の抒情的物語として描かれたのか―享受者の記憶に定着させ、「語り継がれるための工夫」を見出す。
目次
はじめに
本書の概要
凡例
序論 『古事記』の倭建命物語
Ⅰ 倭建命西征と神話
Ⅱ 倭建命東征の表現
Ⅲ 倭建命の名について
第一章 倭建命の「建荒之情」―被派遣者の資質―
はじめに
一 「建荒之情」の先行研究
二 「建」の解釈
三 「荒」の解釈
四 倭建命の「建荒之情」
おわりに
第二章 出雲の掌握と刀剣讃美―「さみなし」歌の解釈から―
はじめに
一 出雲建討伐条の先行研究
二 「さみなし」の解釈
三 「出雲建が佩ける大刀」と「あはれ」
四 『古事記』における大和王権と出雲
おわりに
第三章 弟橘比売命入水条の表現―象徴化の方法―
はじめに
一 倭建命物語における入水条の記載意義
二 「さねさし」歌の記載意義
三 「さねさし」歌と「覆奏」
おわりに
第四章 酒折宮問答歌の時間意識―月立問答歌への展開―
はじめに
一 酒折宮問答歌の先行研究
二 倭建命の時間意識―記25の表現―
三 記26の表現効果―東征のとじめを告げる歌―
四 酒折宮問答歌の位置づけ
おわりに
第五章 月立問答歌の敬語表現―男女唱和の視点から―
はじめに
一 倭建命と美夜受比売の物語
二 「月立たなむよ」の解釈
三 男女の唱和歌における敬語表現
四 倭建命物語における「期」の文脈
おわりに
第六章 白猪神への「言挙」―「言向」から逸脱する倭建命―
はじめに
一 言向と言挙
二 伊服岐能山の「白猪」と五十葺山の「大蛇」
三 皇命の言向と倭建命の言挙
おわりに
第七章 「一つ松」歌の役割―疲弊と思慕とを語る歌―
はじめに
一 「一つ松」歌の解釈
二 倭建命と松樹との対比
三 尾張に向かう一つ松と「御刀」の表現
おわりに
第八章 思国歌にみる倭建命の忠心
はじめに
一 思国歌の先行研究
二 記31の解釈
三 倭建命物語における記31の位置づけ
おわりに
第九章 倭建命辞世歌の役割―東征の終焉を告げる歌―
はじめに
一 記33の周辺に関する先行研究
二 「嬢子の床辺」歌の解釈
三 「嬢子の床辺」歌の役割
おわりに
第十章 倭建命葬送条における「倭」と「天」
はじめに
一 倭建命葬送条の先行研究
二 妻子による葬送の意義
三 八尋白智鳥の行方―「天」の解釈―
おわりに
結論
初出一覧
あとがき
英文要旨
索引(事項・引用文献・歌番号)
前書きなど
本書では、従来の「倭建命物語」に対するイメージに囚われないように心掛けた。そのうえで、個別論として各章をまとめつつ、物語全体の中での位置づけを常に意識した。そこから見えてきたのは、『古事記』の倭建命物語における記事配列の重要性だ。たとえ『日本書紀』と同じ歌を含み持っていても、記事配列がわずかに変わったり、記事・表現・描写がひとつ増減したりすることで、物語全体に大きな変化がもたらされるのである。
『古事記』の倭建命物語は、記事配列や歌などの表現によって、倭建命が成し遂げた「国土平定」事業―いわば国家の歴史を、「倭建命」という一人物の生涯と紐づけし、抒情的な物語に仕立てあげたものと考える。
本書が、そのような物語が求められた理由を読み解く端緒となれば、幸いである。……「はじめに」より