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贈与と共生の経済倫理学
ポランニーで読み解く金子美登の実践と「お礼制」
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年1月15日
- 書店発売日
- 2019年1月22日
- 登録日
- 2018年12月3日
- 最終更新日
- 2025年2月25日
書評掲載情報
2020-09-13 |
読売新聞
朝刊 評者: 小川さやか(文化人類学者) |
2020-07-01 |
土と健康
7月号 評者: 吉川成美(県立広島大学大学院) |
2019-06-24 |
日本農業新聞
朝刊 評者: 行友弥(農林中金総合研究所特任研究員) |
2019-03-25 |
東洋経済ONLINE
評者: 橋本努 |
2019-03-17 |
京都新聞
朝刊 評者: 平川克美 |
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紹介
有機農業の里として知られる埼玉県小川町の有機農業者、金子美登氏が始めた「お礼制」。消費者に農作物を贈与し、消費者は各々の「こころざし」に基づいてお礼をするこの仕組みは金子や地域にどのような影響を及ぼし、どんな意義があるのかを調査対象者の詳細なライフストーリーをもとに分析。さらにこの仕組みが秘めた可能性をカール・ポランニー、玉野井芳郎、イリイチ等の議論を参照しながら解明する。経済効率だけが追い求められる新自由主義社会において、信頼とは、責任とは、自由とは、共に生きるとは何かを問う意欲作。
哲学者・内山節氏はこう評する。「有機農業によって自然と和解し、価格をつけない流通を成立させることによって貨幣の呪縛から自由になる。それを実現させた一人の農民の営みを見ながら、本書は人間が自由に生きるための根源的な課題を提示している」。
目次
はじめに
序章 「お礼制」と人間的解放
第1部 一人の決意が地域を変えた
第1章 挫折から復活へ―金子美登の物語
1 「有機の里」霜里農場の特色
2 霜里農場前史
3 金子美登の原点
4 生態系農業の確立を目指して
5 自給区構想と会費制
6 会費制のスタートと失敗
7 「お礼制」のはじまり――農夫の再スタート
第2章 消費者はなぜお礼制を求めたか―尾崎史苗の物語
第3章 開かれた「地域主義」―霜里農場を取り巻く人びと
1 地域とは何か
2 遊びと仕事と生きがい―酒蔵の旦那、中山雅義
3 関係性の見える仕組みづくり――豆腐屋の後継ぎ、渡邉一美
4 地域を変えた村の長老――集落の慣行農家、安藤郁夫
5 法人格という人格をもつ企業―― OKUTA社長、山本拓己
第2部 「お礼制」の可能性
第4章 生業からみる「お礼制」
1 農家生計の歴史的連続性からの視座と禁忌作物
2 市場《交換》/非市場《贈与》の関係性
第5章 「お礼制」が農民にもたらした二重の自由
1 自然との関係性における自由
2 人との関係性における自由――農産物の価格と値づけ
第6章 「お礼制」の仕組みと意義―生産[者]と消費[者]の関係
第7章 人間の動機と経済合理性―ヴァルネラビリティというつながりの起点
1 弱者の生存戦略としてのモラル・エコノミー
2 変容する人間の動機――生存から生きがいへ
3 合理的経済人を問い直す
4 ヴァルネラビリティ――不確実性を抱えて生きる
5 地域に根差すこと、ふたたび埋め込まれること
第3部 「お礼制」に埋め込まれた「もろとも」の関係性
第8章 ポランニーの「埋め込み命題」と「もろとも」
1 環境と経済の相互作用をめぐる経済学的アプローチ
2 宇沢弘文とポランニーの共通点
3 「もろとも」が意味するもの
4 経済を社会関係に埋め戻す――ポランニーの思想
第9章 責任・自由・信頼
1 非対称的関係性を乗り越えるための「もろとも」
2 技術と時間
3 「もろとも」の関係性における責任をめぐって
4 「覚悟して受け入れること」と自由
5 「埋め込み」から「もろとも」へ
おわりに
注
謝辞
文献
版元から一言
経済効率だけが優先される現代社会にあって、国家と資本の論理により踏みつぶされる人々が世界中にいます。しかし、人々はただやられているだけではありません。世界中でさまざまな抵抗運動が展開されています。埼玉県の有機農業者、金子美登さんが実践してきた「お礼制」も、その抵抗の1つです。市場を通さず、消費者と直接つながる。しかも農産物の価格をつけず、贈与する。それに対する返礼は消費者しだい。それによって金子さんは貨幣の呪縛から解き放たれ、人間的な解放を感じたといいます。
権力はそうやすやすと変わることはありません。完全に市場経済から自由になることも不可能です。しかし、たとえ一部であっても、市場、すなわち権力の横暴とは異なる「非市場」の世界とつながっていれば、それは人々を生き延びさせることができるのです。
この不安な時代にあって、さまざまな論者からつながりの重要性が指摘されています。いかにつながるのか、いかに他者と共に生きるのか。金子氏をはじめとする人々のライフストーリーの分析と、経済学、倫理学、社会学、歴史学、民俗学などのさまざまな知見をもとに提起しています。
この本の中から印象的なフレーズを抜粋します。
Resignation(覚悟して受け入れる)ということは、如何ともしがたいこの世の悲惨や社会の状況、例えば放射能汚染を単に受け身で受け入れて諦めてしまうことでもなければ、それに順応し、何ごともなかったかのように思考停止して生きる道でもない。そのように私たち自身が何かを放棄してしまうこととは異なるのだ。その社会の現実を認識したうえで、受け入れなくてはいけないと一旦諦めにも似た境地を通りながらも、なおかつ悪に対しては、否と言い続ける力を持ち続け、より善き生き方を模索する人間の姿勢を言うのだろう。そこには、絶望ではなく、希望がなくてはいけない。ポランニー が「希望の源泉」という言葉を使ったのは、希望なきところには、そのような方向へ舵を切り、一歩を踏み出すことができないことを自らの第一次世界大戦の苦悩、そして第二次世界大戦の悲劇の中から学び取ったからであろう。覚悟して受け入れるとは、決して飼いならされて長いものにまかれることではなく、絶望的な現実を認識しつつ、にもかかわらずかすかであっても 希望を捨てずに前進するという積極的な力の源泉となるのである。
上記内容は本書刊行時のものです。