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沖縄-奄美の境界変動と人の移動 野入直美(著) - みずき書林
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沖縄-奄美の境界変動と人の移動 実業家・重田辰弥の生活史

社会科学
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発行:みずき書林
四六判
368ページ
上製
価格 2,800円+税
ISBN
978-4-909710-16-1   COPY
ISBN 13
9784909710161   COPY
ISBN 10h
4-909710-16-7   COPY
ISBN 10
4909710167   COPY
出版者記号
909710   COPY
 
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2021年2月20日
書店発売日
登録日
2021年1月7日
最終更新日
2021年3月5日
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書評掲載情報

2021-04-03 沖縄タイムス  朝刊
評者: 南風原朝和

紹介

奄美にルーツを持ち、満洲で生まれ、沖縄で育ち、東京で起業し、国境を越えたITビジネス・ネットワークを築いた実業家・重田辰弥(1940~)。そのライフヒストリーは、戦前と戦後、米軍統治時代と復帰後、そして現代のグローバル時代まで、個人史であると同時に、ひとつの沖縄現代史ともなっている。
インタビューと論考から、〈生きられつつある現代史〉が浮かび上がる。

目次

巻頭口絵

序章 〈沖縄―奄美〉という視点と重田辰弥さんのライフヒストリー

第一部 ライフヒストリー篇

第1章 現在の重田辰弥さん―会社の承継、ガン発症とブログ発信
第2章 沖縄―本土就労の流れをつくる―起業と沖縄からの雇用
 コラム1.元社員@沖縄 川満勝一さんのお話
 コラム2.元社員@大阪 松下令子さんのお話
 重田辰弥さん寄稿2.「社長辞任について」
 重田辰弥さん寄稿2.「経営と人材採用のリスク」
第3章 在琉奄美人の決断―琉球大学を辞めて早稲田大学へ
第4章 移動の中で育つ―満洲、奄美、沖縄
 重田辰弥さん寄稿3.「安謝中同窓の誉れ!“渡嘉敷守良”襲名」
 コラム3.安謝 小・中学校後輩・花岡勝子さんのお話
 重田辰弥さん寄稿4.「米軍統治時代を振り返る」
第5章 沖縄と海外をつなぐ―WUB東京・初代会長として
 重田辰弥さん寄稿3.「大会を終えて」

第二部 論考篇

第1章 島を出る女性―本土出稼ぎという「冒険」
第2章 島人(しまんちゅ)の同族結合―出郷する弟、家守の兄
 コラム4.古仁屋コラム 重田さんの従姉妹 上原リツ子さんのお話
 重田辰弥さん寄稿5.「女房との出会い」
第3章 奄美の漁業と本土・沖縄文化
第4章 人口流出の島―奄美・瀬戸内町のいま
 コラム5.須子茂 重田さんの大叔母 泉シマ子さんのお話
第5章 米軍統治下の奄美から沖縄へ 
第6章 境界の動態―奄美/琉球/日本
第7章 雇用主から見た沖縄ー本土就労
第8章 「世界のウチナーンチュ」という現象 
第9章 結語

文献リスト
資料
謝辞
索引

前書きなど

この本では、戦後の沖縄社会を、「人の移動」と「境界変動」に着目して、とくに《沖縄―奄美》という視点でとらえなおしていく。縦軸となるのは、「移動する人」・重田辰弥さんの生い立ち(ライフヒストリー)である。そして横軸となるのは、《沖縄―奄美》という視点でとらえていく沖縄の境界変動である。
第二次世界大戦後、奄美群島と琉球諸島はともに米軍統治下に置かれたが、奄美群島は一九五三年に、沖縄に先立って、施政権の日本政府への返還(本土復帰)がなされた。沖縄の本土復帰は、それから十九年後の一九七二年となる。このふたつの本土復帰に挟まれた期間、米軍統治下の沖縄に働きに来ていた約三万八〇〇〇人の奄美籍者は、期せずして沖縄の人びとより先に「日本人」となった。その多くは沖縄を離れたが、沖縄に残った奄美籍者は「非琉球人」として選挙権・被選挙権を失い、公務員への就任、軍雇用、国費による国立大学への留学や米国留学、海外移民から制度的に排除されるということが起こった。
沖縄そのものが、日本の敗戦、米軍による占領、合衆国による信託統治を経て、領有権は日本政府に、施政権は合衆国にあるという、帰属がきわめて不明瞭な地域となっていた。本書は、そのような変動を、沖縄固有の経験としてではなく《沖縄―奄美》という視点で、米軍統治下の沖縄で生きた奄美出身者の経験に引き寄せてとらえなおす。
ただし、本書に登場する重田辰弥さんは、「沖縄で苦労した奄美籍者」という枠組みには収まりきらない人である。重田さんは、米軍統治下の沖縄から上京し、大学進学、多職転々の職業移動を経て、IT起業を成し遂げた。自分が移動することによって、境界変動をきわめて能動的に生きてきたのである。経営者となってからは、沖縄からの雇用とIT人材の育成を行い、製造業に偏っていた沖縄―本土就労に新しい道筋をつくった。さらに、沖縄系のビジネス交流の主要な担い手となり、二〇一六年には奄美籍者として初めて、沖縄県功労賞を受賞している。自著『おきなわ就活塾』は、沖縄出身のIT企業家によるビジネス書として、類のないものとなっている。
重田さんの生活史は、サクセス・ストーリーにも終始しない。創業の会社を承継した後に、ステージ4という重度の進行状況でガンが発見された。重田さんは、罹患と闘病の過程をブログ発信するというネットワーカーならではのやり方で、危機的な状況を生きていく。重田さんの起業、経営、承継と闘病の物語は、沖縄や奄美にさほど関心のない人にとっても、興味をかきたてられるものである。本書は、ひとりの実業家の一代記、ユニークなガン闘病記でもある。


重田辰弥さんの《生》は、戦前と戦後、米軍統治時代と復帰後、そして現代のグローバル時代にまで及んでいる。それは、個人史であると同時に、ひとつの沖縄現代史ともなっている。
本書を、ひとりの実業家の一代記として読み進んでいったとしても、《沖縄―奄美》の境界変動が、いかに人の移動と深く関わり合いながら沖縄現代史を成り立たせてきたのかが感じ取れるであろう。個人によって生きられた移動史は、その人をとりまく社会の境界変動と呼応しあってきたのだ。その過程を、《沖縄―奄美》という視点によって提示することが本書の社会学的な課題であるのだが、それは、歴史や空間の広がりの中にいる「個」の軌跡によってもたらされる。「個」は、しばしば歴史や空間の中で制約され、影響されるが、必ずしも「歴史に翻弄された」というような受動態にはとどまらない。
重田さんという「個」の軌跡は、この本を読んでいるあなたの「個」とどこかで重なり、響き合うかもしれない。その共鳴の中で、あなたの「個」もまた、生きられつつある現代史となり、歴史や空間の広がりの中に再発見されていくだろう。

著者プロフィール

野入直美  (ノイリ ナオミ)  (

野入直美(のいり・なおみ)
1966年生まれ。琉球大学人文社会学部人間社会学科准教授。主な著書に、『異文化間教育のフロンティア』(共著、明石書店、2016年)、『ハワイにおけるアイデンティティ表象――多文化社会の語り・踊り・祭り』(共著、御茶の水書房、2015年)、論文に「主観と愛着の沖縄アイデンティティ――「世界のウチナーンチュ大会」調査に見る海外沖縄県系人の意識」(『移民研究』14号、2018年)などがある。

上記内容は本書刊行時のものです。