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マーシャル、父の戦場 大川 史織(編) - みずき書林
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マーシャル、父の戦場 (マーシャル チチノセンジョウ) ある日本兵の日記をめぐる歴史実践 (アルニホンヘイノニッキヲメグルレキジジッセン)

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発行:みずき書林
A5判
縦210mm 横147mm 厚さ30mm
416ページ
並製
価格 2,400円+税
ISBN
978-4-909710-04-8   COPY
ISBN 13
9784909710048   COPY
ISBN 10h
4-909710-04-3   COPY
ISBN 10
4909710043   COPY
出版者記号
909710   COPY
Cコード
C0020  
0:一般 0:単行本 20:歴史総記
出版社在庫情報
不明
初版年月日
2018年7月
書店発売日
登録日
2018年6月17日
最終更新日
2019年5月16日
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受賞情報

山本美香記念国際ジャーナリスト賞・奨励賞受賞

書評掲載情報

2021-03-27 東京新聞/中日新聞  朝刊
評者: 安田菜津紀(フォトジャーナリスト)
2018-12-29 朝日新聞  朝刊
評者: 寺尾紗穂(音楽家、文筆家)
2018-11-25 東京新聞/中日新聞  朝刊
2018-09-08 日本経済新聞  朝刊
2018-08-18 毎日新聞    朝刊
評者: 竹内麻子
2018-08-01 山陽新聞    朝刊
2018-07-31 中国新聞    朝刊
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紹介

楽シイ時モ 苦シイ時モ
オ前達ハ 互ヒニ 信ジ合 嬉シイ事 分チ合ヒ――
1945年、南洋のマーシャル諸島で多くの日本兵が餓死した。
そのなかのひとり、佐藤冨五郎が死ぬ直前まで綴った日記と遺書は、戦友の手を経て息子のもとへ渡り、73年の時を超えて解読されることになる。
そこには、住み慣れない島での戦地生活、補給路が絶たれるなかでの懸命の自給自足、そして祖国で待つ家族への思いが描かれ、混乱と葛藤のなか、自身も死へと向かう約2年間が精緻に記されていた。
〈70年以上前に・南洋で・餓死した〉日本人といまをつなぐ、〈想像力〉の歴史社会学。

大林宣彦監督インタビュー収録!!
「読むというより体験してほしい。できるだけ想像力を働かせて」


第6回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞・奨励賞」受賞!

目次

口絵
はじめに 大川史織
巻頭特別寄稿  名もなき人びとへの想像力 大林宣彦

第1章 冨五郎をめぐる歴史
 近代日本と南洋群島 波多野澄雄

第2章 南洋と日本をつなぐ―日記解読のはじまり
 父の日記と父の島 佐藤勉
 偶然の出逢いが日記をつなぐ 仁平義明

第3章 冨五郎日記に導かれて
 わたしの〈タリナイ〉 大川史織

第4章 ドキュメンタリー映画『タリナイ』誕生
 あなたに関係のある島 藤岡みなみ
 ゴジラ少年の南洋へのまなざし 水本博之

第5章 兵士としての冨五郎の心理
 従軍日記・遺書に見る日本兵の死生観 一ノ瀬俊也

第6章 冨五郎日記を体験する
 佐藤冨五郎、39年の生涯 大川史織
 日記全文翻刻
 年表
 地図
 戦友リスト
 戦没状況比較集計

第7章 古代史と現代史をつなぐ――日記解読のおわり
 「佐藤冨五郎日記」を映し出す 三上喜孝

第8章 マーシャルをめぐる世界と私
 誰が海を閉じたのか? グレゴリー・ドボルザーク
 マーシャル諸島と核、環境 竹峰誠一郎
 マーシャルへの片思い 末松洋介
 マーシャルへの手紙 森山史子
 マーシャル追想──米国大使との銀輪談議 安細和彦

第9章 歴史をつないでいく意志
 日本と南洋 寺尾紗穂
 映画的歴史実践 三上喜孝

あとがき 大川史織

前書きなど

はじめに
 
 ――コイシイワ アナタワ
 太平洋のとある南の島で、コイシイワとはじまる歌を耳にしたのは、一一年前のことです。たまたま耳にした歌でしたが、それからはどこにいても、その島を近くに感じています。この歌の話を家族、友人、願わくばもっと多くの人としたい――。歌の背景をたずね回りながら、カメラを回し始めました。そうして気づいたら、三年のあいだ私は島で働きながら暮らしていました。
 その島は、かつて大日本帝国のマーシャル群島とよばれていました。
 現在はマーシャル諸島共和国とよばれる珊瑚礁の島々です。いったいどこにあるの、とまず訊かれます。グアムとハワイのあいだといっても、地図で見つけるのもひと苦労です。ゴジラやスポンジ・ボブの島といえば、大半の人が驚きます。ビキニの由来を知って、ショックを受ける人のほうが多いかもしれません。
 たった七〇年前「南洋は満洲より近い」といわれていました。八〇年前には島民の人口より多くの人が日本から南洋へ移住しました。赤道に近い南の島々を近くに感じた時代があったのです。コイシイワと歌われるアナタも、海をわたり南のマーシャルを目指したひとりでした。
 約一○○年前、日本からやってきたアナタとマーシャルの女性は恋に落ちました。ところが突然、アナタは日本へ帰ってしまいます。戦争がはじまったからです。この歌は、そのふたりの出会いと別れの歌でした。戦争がはじまるまで国語として日本語を学んだマーシャル人の女性が、戦争で引き裂かれ、アナタを恋しく想う女性の気持ちを汲んで歌にしたのでした。戦争が終わっても、遠く離れて二度と会えなくなってしまったアナタに気持ちが届くことはなかったでしょう。それでも――それゆえか、今日もマーシャルでは、だれかが陽気にこの歌を口ずさんでいます。陽気にというところが、きっとだいじです。
 本書で紹介する宮城県出身の佐藤冨五郎さんの日記は、アナタが日本へ帰った頃、敗色が濃くなったマーシャルのウォッチェ環礁で書かれました。冨五郎さんは三七歳で召集されるまで、東京の街を走るバスの運転手として働きながら妻と三人の子どもと暮らしていました。遠い遠いウォッチェで飢えとの闘いを強いられた冨五郎さんは、どうか家族のもとへ届くようにと、文字を書くことも困難な状態で遺書も書きました。遺書と召集時から書き綴った二年間の日記は、戦後奇跡的に家族に届き、息子勉さんの日記全文を解読したいという強い願いがさまざまな運を手繰り寄せ、こうして本になるまで数奇な運命をたどりました。日記がたどった軌跡と一緒に、遠くなりつつある(いや近づいているかもしれません)戦争――冨五郎さんしかり、あの時代を生きた人びとの命がたやすく奪われ、生き残った人も生き方を大きく変えざるをえなかった戦争をあらためて捉えなおすこと。そして、すっかり遠くなってしまったマーシャルと日本を再び近く感じられる本にしたいと考えていたら、こんなにも多彩な方々が冨五郎さんの日記を読み解き、声を寄せてくださいました。
 日記は、決して読みやすいものではありません。文字はできるかぎり読めるままに拾いました。若い方にも読んでもらえるように、旧い漢字は常用漢字になおしました。注やコラムもあわせて読むことで、少しでも冨五郎さんが生きた時代と見た景色を思い描く手がかりになればと願っています。今となっては誰ひとり知らない冨五郎さんと戦場ウォッチェを、どこまで近くに感じられるでしょうか。日記と遺書は、他者への想像力を押し広げてくれる力があると信じています。
 日記のまわりには、補助線となる多様な声を配しました。インタビュー、論考、エッセイとさまざまな形式があります。それらを組み合わせ、歴史的背景、日記をつなげようとした人たちの思い、マーシャルの現在など、日記をめぐる視点ごとに章を構成しました。章を飛び越えて交わり、複数の声が響きあう瞬間を、どこから読みすすめても、あちらこちらで感じることができると思います。
 日記がご家族のもとに届いたのは、戦後しばらくしてからのことでした。冨五郎さんとの約束を守り、日記を届けてくれた数少ない生き残りのひとり――無二の戦友であった原田豊秋さんから、日記をめぐる歴史の旅ははじまります。日記に添えられていた原田さんの手紙を、冨五郎さんの帰りを待ちわびる当時五歳の勉さんとともに受け取ったと想像してみてください。(編者)

版元から一言

本書の目的意識は、「いまだ語られることの少ない、南洋(マーシャル諸島)における戦争をとらえ直す」点にある。
さらに言えば、「その歴史を知ろうとするときに、想像力は有効である」ということを示す点にある。
なぜ想像力かというと、本書の中心には外交文書や公文書ではなく、佐藤冨五郎という一兵士が遺した日記・遺書があるからである。
上級士官やジャーナリストといった発信力の強い人物ではなく、無名性・匿名性の強い一兵卒が遺した日記を読みこむことで、〈73年も前の〉〈異国で〉〈餓死した〉日本人に、可能な限り想像力を働かせてみること。通史を読んでも絶対に出てこない文章を中心にして、歴史を考えようと試みること。


私たちには、知っておいたほうが望ましい歴史と現在がある。
それを知ろうとする際に、ロジックや批評の力・知識量ではなく、想像力を中心に据えてみること。
政治や外交・通史といった大きな入口から入るのではなく、死者と私たちの関係性という小さな語りから始めてみること。
そのようなかたちで、「いまだ語られることの少ない、南洋(マーシャル諸島)における戦争をとらえ直す」という目的にアプローチしてみたい。

著者プロフィール

大川 史織  (オオカワ シオリ)  (

1988年生まれ。神奈川県出身。高校生の春休み、マーシャル諸島で聴いた歌に心奪われる。2011年慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、3年間首都マジュロで暮らす。ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)初監督。国立公文書館アジア歴史資料センター調査員(非常勤職員)。

上記内容は本書刊行時のものです。