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小さな書斎から
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年12月10日
- 書店発売日
- 2023年12月13日
- 登録日
- 2023年11月28日
- 最終更新日
- 2023年12月10日
紹介
「初めに言葉があった」と聖書に記されています。思い返せば、人生の節目となったような出会いでは、いつも初めに言葉がありました──
19歳で奥飛騨から上京。佐藤春夫との出会い。40年にわたる新聞記者生活を経て作家の道へ。いま第二の故郷・横浜で、心に残るさまざまな出会いと別れを、耳を澄ますように回想し書きとめた円熟の随想集。
目次
望郷
横浜
美との邂逅
旅情
思い出すこと
生と死
前書きなど
芭蕉に「さまざまの事おもひ出す桜かな」という句がありますが、木犀の香る季節を迎えると懐かしい出会いを思い浮かべます。
小説を書いている合間に、ふと昔のことを思ったり、ときには散歩中に目にした美しく咲いたばかりの草花に気づき立ち尽くしたり、木陰を揺らす小鳥の鳴き声に心動かされじっと耳を澄まし、あれこれ思いを深めます。
本書は、この十数年にわたって、そのときどきの目に映ったもの、心に感じた思いをそのまま綴った文章を一冊にまとめたものです。人生の断片記録とでもいえましょうか。
「初めに、言葉があった」と聖書に記されています。思い返せば、人生の節目となったような出会いでは、いつも初めに言葉がありました。
奥飛驒から初めて上京するとき、駅頭まで見送りに来た母は列車が動き出す間際にひと言、「自分でいいと思う道を歩け」と告げました。東京で半年ほどしたころ、本屋の店頭でたまたま手に取った雑誌に載った佐藤春夫の短編小説「友情」をその場で立ち読みし、こんな物語を書く人は「どんな人だろう。会いたい」と思い、その足でご自宅を訪ねました。その日は忙しく、数日後に改めて訪問しました。
その日、佐藤春夫は初対面の私を前に、小説について一時間余り話されたあと、帰り際に「ひと月ほどしたら、またおいで」と告げられました。この思いもかけなかった「またおいで」のひと言が、母の告げた「いいと思う道」を歩むきっかけとなりました。
小説を書くには、とりあえず新聞記者になったらいいと思い新聞社に就職しました。取材活動に忙しくしていたころ、親しくしてくださった日本銀行の三重野康さんから、最初の出版のきっかけとなった「日本銀行の物語」を書いてもいいですよ、と告げられました。その三重野さんは、建ててまもない私の自宅を見に来られ、表札を書いてくださいました。
物書き人生を陰で何かと支えてくれた妻とは、定年後の毎夏、イタリア、フランス、スぺイン、スイス、ポルトガルなど欧州の国を一か国ずつ十日前後の旅をしました。スイスのユングフラウの展望台やパリの凱旋門の上などでは、どこでも妻は笑顔で楽しそうでした。
妻は天国へ召される間際、「元気なうちは、一人で頑張ってね」と言いました。「一人で」とは、「また逢う日までの間」だと思っています。居間の棚には妻が牡丹の花を彫った木製の皿を飾っています。目にするたびに妻の笑顔が思い出されます。
本書は妻に捧げるささやかな紙碑です。
版元から一言
産経新聞記者時代に刊行した『日本銀行物語 日銀マンの光と影』(1979年、泰流社)、『ザ・バンク 最先端を拓く三和マン』(1983年、産経新聞社)はベストセラーとして、金融業界の関係者だけでなく、広く一般の読者にも読まれました。著者は若い頃、佐藤春夫に師事したこともあり、新聞社退職後は作家の道へ進み、以降は何冊かの小説を刊行してきました。本書はこの十数年にわたって書き継いできた滋味溢れるエッセイをまとめたものです。文章の味わいをゆっくり堪能したい方にはお勧めの一冊です。
上記内容は本書刊行時のものです。
