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天平の律令官人とくらし
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年10月
- 書店発売日
- 2018年10月1日
- 登録日
- 2018年8月11日
- 最終更新日
- 2020年6月1日
書評掲載情報
2018-11-21 | 中日新聞 |
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紹介
◎2018年11月21日付「中日新聞」書籍紹介
中央官人層(キャリア)VS地方官人層(ノンキャリア )
「日本的」な統治制度としての律令官人制度を見つめ直す
わが国の公務員制度の原点とも言える、中央集権国家としての奈良時代の律令体制下の支配組織に所属する官人(律令制下の役人の総称)を対象として、任官方法・勤務条件(勤務時間・給与・勤務評定・ 休暇など)・身分(位階・官職など )さらには日常生活の実態(衣食住)など、 当時の官人社会の有り様を個々具体的に理解するなかで、現行の公務員制度を新たな視点から再認識するための素材を見つけ出すことを目的としています。
目次
はじめに
凡例
■第1章 働く場所としての平城京
1,平城京遷都の動機
2,政治都市平城京の構造
3,平城京の都市景観
4,平城京の内部構造と官衙(役所)
内裏/大極殿・朝堂院/官衙
5,律令官人の居住地としての平城京
6,律令官人と平城京の東西市
■第2章 奈良時代の政治体制と法
1,律令国家の形成
2,天武・持統天皇と律令官僚制
3,大宝律令の制定
4,大宝律令の内容と養老律令
律の構成と内容/令の構成と内容/養老律令編纂の経緯
5, 律令官人と天皇
■第3章 律令官人制と行政組織
1,行政組織としての官司機構
2官8省1台5衛府/四等官
2,官司間の統属関係および序列
3,官司機構における太政官の位置
議定官/少納言局/弁官局
4,行政組織としての軍事制度
軍団制/令制の衛府制度/令制以外の軍事組織
■第4章 律令官人の種類と採用制度
1,律令官人の種類
2,律令官人の任用方法
省試―貢挙による任用/舎人からの任用/蔭位制による任用/ 勅旨による特別任用
3,献物・献金による叙位・任官
献物叙位/蓄銭叙位令
■第5章 律令官人の勤務条件とその実態
1,律令官人と勤務時間
2,律令官人と休日・休暇制度
3,律令官人のさまざま休暇理由
4,律令官人の身分表示としての制服
5,律令官人の給与体系
基本給的給与/身分的給与/職務給的給与/特殊勤務手当的給与
6,律令官人と深刻な格差社会
7,下級官人としての写経生の勤務実態
■第6章 律令官人の昇進システム
1,律令官人と人事管理
2,律令官人と勤務評定
勤務評定の前提条件/誰が評定者か/評定基準の実際/ 勤務評定の手続き
3,位階の昇進とその限界
4,キャリア官僚としての上級(貴族)官人の優位制
5,勤務評定から漏れた官人の救済措置
6,受益者負担の勤務評定
■第7章 地方社会と律令官人
1,地方支配の拠点としての国府と国司
国府とその機能/国司の地方支配
2,律令制と郡司の在地支配
律令官人としての郡司/郡司と在地支配の位置づけ/郡司の地方支配の実態
3,多賀城と大宰府
多賀城/大宰府
■第8章 律令官人の教養と実務能力
1,漢字文化の時代
2,律令官人と漢字文化の受容
律令官人と漢籍/律令官人と令文および文書類など
3,下級官人にとっての漢字・漢文の習得とは
■第9章 律令官人の生活環境とその実態
1, 律令官人の住宅事情
官人への宅地支給/班給された宅地は私有地か/上級(貴族)官人の邸宅/中下級官人の住宅
2,律令官人の日常の服装
下級官人の服装/写経所で経師などに支給された衣服/普段着と特殊な場合の衣服/下級官人と履物
3,律令官人と食生活
食生活の変化と社会階層/食料品の種類と保存食品の発達/乳製品と唐菓子の登場/律令官人の食生活の実態
■付章 律令官人と三面記事
対馬からの黄金の献上は詐欺/3度連続して双子が生まれる/皇后宮の宴会で福引が行われた/長屋王の変に起因する殺人事件/盧舎那大仏開眼供養に僧侶1万人が参加/葦原王、殺人罪により遠流/渡来系上級(貴族)官人のエース百済王敬福/尾張・美濃国境の鵜沼川の水防工事/火事から遣唐使船を救った柂師の異例な出世
前書きなど
私は、数年前に定年退職を迎えました。30有余年、その大半を教育職 (県立高等学校 )にあり、ほんのわずかな歳月を行政職として勤務しました。行政職といっても博物館の学芸員でしたので、世間一般には研究職と理解されがちですが、学芸員は職種としては行政職に位置づけられていました。そのほんのわずかな行政職の体験が、拙著執筆の動機となっ ています。同じ公務員でも、行政職と教育職とではずいぶん職場の雰囲気に違いがありました。行政職に採用され辞令を交付される際、本庁の課長から採用試験の成績順に渡されました。職場の座席も、職員室中央奥に窓を背にして課長の席があり、その両側に係長の席、その前に一般職員が向かい合って机を並べていました。その机の位置も、給料表の号給の高い順に奥から席を占め、新任である私は、廊下側の入り口に一番近い机が与えられました。出勤簿(現在は使用されていないと思いますが)も号給順に並べて綴じてありました。また、課長級の職員が部長級に昇格した時には、 紅白のお饅頭を頂いた記憶もあります。しかし、教育職に転じ高等学校の教諭に任ぜられた際の辞令は、所属長である学校長から単純に年齢順に渡されました。職員室の座席も前任者の席が与えられ、出勤簿も五十音順に綴ってあるだけでした。40 年後の現在がそうであるとは限りませんが、当時の行政職の公務員の場合、職員の序列がずいぶん重んじられていました。
そんな記憶もしばらく忘れ去られていましたが、30歳台後半に職員団体(公務員の労働組合)の役員に選出され、しばしば県庁に赴き行政職の職員と交わるなかで、その記憶が再び思い起こされました。行政職の場合、職員の職務権限が序列と密接に関わっており、職務執行の範囲も序列によって厳密に定められています。教育職の場合でも、職務権限の範 囲は定められていますが、その裁量は比較的広く認められていたのも現実です。そのあたりの事情について、かつて法的および制度的側面から考察したことがありますが(拙著『地方公務員法基礎ノート』『教育職員・労働条件の現状と改善案』)、その時点では歴史的考察にまでは及びませんでした。そこで本書では、わが国の公務員制度の原点とも言える、中央集権国家としての奈良時代の律令体制下の支配組織に所属する官人 (律令制下の 役人の総称)を対象として、任官方法・勤務条件(勤務時間・給与・勤務評定・ 休暇など)・身分(位階・官職など)さらには日常生活の実態(衣食住 ) など、 当時の官人社会の有り様を個々具体的に理解するなかで、現行の公務員制度を新たな視点から再認識するための素材を見つけ出すことを目的としています。ただし、奈良時代に公務員という概念はそもそも存在しませんので、官人 = 公務員と直線的に認識することは不可能です。しかし、 多角的視点から歴史的アプローチを試みることで、例えば中央官人層(キャリア)と地方官人層(ノンキャリア)との相克といった、ある意味で現在に脈々と連なる「日本的」な統治制度としての律令官人制を、日本社会固有の一種の文化と捉えることは可能ではないでしょうか。当時の官人社会の制度とその実情を理解するのみならず、新たな視点から日本の律令官人制度を再度見つめ直す一助となれば幸いです。
版元から一言
元名古屋市博物館勤務の著者が、奈良の律令官人とくらしについて考察。
現行の公務員制度を新たな視点から考える一助になればと思います。
追記
◎2018年11月21日付「中日新聞」書籍紹介
上記内容は本書刊行時のものです。