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出版者情報
在庫ステータス
取引情報
[新版]幼年画
- 出版社在庫情報
- 絶版
- 初版年月日
- 2016年8月
- 書店発売日
- 2016年8月5日
- 登録日
- 2016年7月8日
- 最終更新日
- 2023年12月21日
紹介
光の言葉に充ちた小説集
――批評家・若松英輔氏(読売新聞書評)
あの日、自分がまだ子どもだった頃
同じような風景を見ていたような気がするのは、なぜだろう
遠藤周作や大江健三郎が絶賛した小説「夏の花」の作家が、原爆投下以前の広島の幼年時代を追憶する、美しく切ない短編小説集―。広島・被爆70年という歴史の節目に話題になった、同地出身の詩人・小説家、原民喜(1905~1951)の文学を「新版」として刊行します。
原爆投下直後の広島の惨状を描いた名作「夏の花」で知られる作家・原民喜。戦後、自ら命を絶つ前に、作家本人によって編まれた短編小説の連作「幼年画」を単行本化しました。古書・蟲文庫の店主でエッセイストの田中美穂の解説を付し、原民喜の知られざる初期作品に新しい光をあてます。
「詩人であり小説家である原民喜の名前は、原爆投下直後の広島を書いた名作「夏の花」で知る人が多いと思う。……「幼年画」は、原爆以前に書かれた初期の作品集で、これまで全集にしか収められていなかった。タイトルのとおり、おそらくは誰しもが持っていたはずの「幼き日」の記憶が、春から 夏にかけての瀬戸内のやわらかな風土とともに、 せつなく美しく描かれている」(田中美穂「解説」より)
目次
「幼年画」
貂
蝦獲り
小地獄
不思議
鳳仙花
招魂祭
青写真
白い鯉
朝の礫
「拾遺」
潮干狩り
解説 田中美穂
前書きなど
杏の実が熟れる頃、お稲荷さんの祭が近づく。雄二の家の納屋の前の杏は、根元に犬の墓があって、墓のまわりには雑草の森林や、谷や丘があり、公園もあるのだが、杏の実はそこへ墜ちるのだ。猫が来て墓を無視することもある。杏の花は、むかし咲いた。花は桃色で、花は青空に粉を吹いたように咲く。それが実になって眼に見え出すと、むかし咲いた花を雄二は憶い出す。「来年は学校へ行くのだから、今のうちに遊んでおくのよ」と母は云うが、雄二は色鉛筆が欲しいと云って泣いた。大吉の石筆をもらって石に絵を描いたことはあっても、白い紙に色鉛筆でやってみたいのだ。到頭夜遅く、妹の守に連れられて、小学校の前の文房具屋へ買いに行った。帰り路の屋根の色は青く黒く、灯は黄色だった。「夜、色鉛筆使っても駄目よ、黄色なんか白と間違えるから」と姉の菊子は云う。雄二は、しかし、白と間違ってみたかった。……
版元から一言
2015年8月にサウダージ・ブックスから刊行された原民喜の小説集『幼年画』の「新版」です。読売新聞などのメディアで紹介され話題になり、多くの読者から共感の声をいただき、品切れになりました。
このたび発行元を瀬戸内人に移して、製本を並製から上製に変更し、「新装版・愛蔵版」として新たに刊行いたします。装画は、初版同様に画家・絵本作家nakabanさんの作品です。
これまでどこにも公表されなかった原民喜の手書きイラストも掲載し、資料価値の高い1冊。中高生にもおすすめしたい、日本文学の名作です。
上記内容は本書刊行時のものです。