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建築学の広がり
12分野からみる多彩な世界
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年5月15日
- 書店発売日
- 2021年5月10日
- 登録日
- 2021年4月13日
- 最終更新日
- 2022年1月18日
紹介
人や環境と調和し、インテリアから都市・ランドスケープまで広がりつつある「建築学」の今がわかる1冊。建築学初学者の専攻選択の一助となることを目指し、幅広い「建築学」の各専攻の特徴をわかりやすく解説します。
目次
1 都市デザイン まちづくりは誰のため?
2 ランドスケープデザイン 家に庭|都市にランドスケープ
3 安全・安心まちづくり 安全・安心なまちとは?
4 環境共生 サステナブルなまち・暮らしの実現に向けて
5 建築計画 使い心地の良い建築をつくる
6 建築構造 計算より大切なこと
7 建築生産 建築の「モノ」と「コト」
8 建築設備 健康・快適空間の立役者
9 建築デザイン 建築デザインがつくる豊かな世界
10 インテリアデザイン 場の空気をデザインする
11 共生デザイン 誰でもがともに使うデザイン
12 保存・再生デザイン 古い建築の新しい魅力を引き出す
前書きなど
「 私は、建築を学ぶために大学の「建築学部」に入学しようと思う」
一見、当たり前に見える文章ですが、10 年ほど前までこうした希望を日本で実現することはできませんでした。医師になりたければ「医学部」を目指し、法曹界で活躍するためには「法学部」に進学します。近年の進歩が著しい情報分野を極めようとすれば「情報学部」を選択するでしょう。それと同じように、建築家や建築技術者などになる勉強をするために「建築学部」が当然あるのだろうと思うかもしれません。
しかし、それが今まではなかったのです。
つまりかつての日本では建築を学ぶために、大学の工学部建築学科に入りました。
その後、工学部のなかに建築を学べるさまざまな名称の学科が濫立し、そういった学科でも学ぶことができるようになりました。そして10 年ぐらい前から「建築学部」や「建築〇〇学部」といった、学科ではなく「学部」ができ始めています。「建築学部」という名称は、2011 年にできた工学院大学建築学部、近畿大学建築学部が最初でした。
どうして、このようになっていたのでしょうか。
時代は明治時代に遡ります。
近代化・工業化を推進する目的で、1877(明治10) 年に工部省は技術者育成のために工部大学校を設置します。現在の東京大学工学部の前身の一つです。そこに設置された一つの科に造家学科がありました(その1期生が東京駅丸の内駅舎を設計した辰野金吾氏です) 。学科の名称からは、まず「家を造る」ことが建築の仕事の中心だったことを推測することができます。今ほどさまざまな建築物の種類があったわけではなく、建築物の大半が「家」だったのかもしれません。後の帝国大学、さらに東京帝国大学でも、造家学科という名称が用いられていましたが、1898(明治31) 年に建築学科という名称に変更されます。東京大学建築学専攻のホームページを見ると、「『Architecture 』の訳語として用いていた技術的な意味あいの濃い『造家』という言葉を、より総合芸術的な意味を含む『建築』という言葉に「改め」たと記されています。「造家」には、単に「家」を造るだけではない意味が込められていたこともわかります。
「造家」について、もう一つの例をお示しします。
日本には日本建築学会という名称の学会があります。「建築学」の研究者や実務家が集まっている会で、会員数は約3 万5 千人に上り、日本でも五本の指に入るほど大規模な学会です。その前身である「造家学会」が設立されたのが1886(明治19) 年です。その後、前述の大学の学科名称とほぼ同時期の1897(明治30) 年に「建築学会」へと名称が変更されています。
このように、わが国では「建築」と名乗る以前に、「造家」という概念からスタートしたこと、そしてそれが富国強兵・殖産興業という明治の時代背景から、「工学」の一分野として位置付けられたことがおわかりいただけたことでしょう。
では、なぜ近年、工学部から建築分野が飛び出して「建築学部」などをつくる動きが増えているのでしょうか? ポイントは、この本のテーマにもなっている「建築学の広がり」にあります。既述したように、東京大学が「造家」から「建築」に学科名称を変更した理由として、より総合芸術的な意味を含めることを挙げているように、「建築学」にはさまざまなものが含まれます。工学的な内容はもちろんのこと、芸術的な内容、歴史学、社会学、植栽学、減災学など、多様な分野が関連しています。つまり、「工学」には含まれない多くの分野と連携してこそ「建築学」が成り立っているのです。そうした広範な「建築学の広がり」を体現し、教育する目的で「建築学部」がつくられるようになってきているのです。
本書では、そんな「建築学の広がり」の一端を体感することができます。これから「建築学」を学ぼうと考えている皆さんにも、すでに工学部建築学科で「建築学」を学んだ皆さんにも、「建築学ってこんなに広がっているのか!」と認識を新たにしていただくきっかけとなれば幸いです。
上記内容は本書刊行時のものです。