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犯罪・非行からの離脱(デジスタンス)
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年12月31日
- 書店発売日
- 2022年1月18日
- 登録日
- 2021年12月6日
- 最終更新日
- 2022年1月17日
紹介
離脱(デジスタンス)の多面的で深い理解へ
犯罪や非行をしなくなること,しなくなっていくプロセス――犯罪・非行からの離脱――が近年注目されている。離脱を多面的に深く理解するために,気鋭の社会学者たちが集結。離脱に関する言説の分析,インタビュー調査を用いた実態の分析,離脱や犯罪・非行に関する理論的な検討を平易に紹介する。
目次
第1章 犯罪・非行からの離脱――研究の展開と背景
第1部 犯罪・非行からの離脱に関する言説
第2章 新聞報道記事に見る「立ち直り」
第3章 犯罪ないし非行からの立ち直り言説に関する歴史的検討――社会を明るくする運動を通して行われた法務省の活動に注目して
第2部 犯罪・非行からの離脱の態様
第4章 少年院ではどんなことがなされているのか――少年院処遇の現状と課題
第5章 「離脱」の過程で保護観察が果たす役割――保護司の処遇実践に着目して
第6章 更生保護施設における処遇の専門性――薬物処遇重点実施更生保護施設で勤務する薬物処遇専門職員へのインタビュー調査を通じて
第7章 「問題者」を越える実践としての家族の記述――更生保護施設入所女性に着目して
第8章 薬物依存からの「回復」をめぐる困難――長所基盤モデルが見落としているもの
第3部 「犯罪・非行からの離脱」を問い直す視座
第9章 「離脱」研究における規範的定義論の不在を問題化する――ハームリダクション批判を通した覇権政治と境界政治の可視化
第10章 犯罪定義の批判的検討――離脱すべき「犯罪」は自明か
前書きなど
本書の構成がほぼ固まったのは、二〇一八年春であった。基本的には、研究グループ「『立ち直り』に関する研究会」(略称「立ち研」)のメンバーが進めてきた―グループとしての研究に加えてメンバー個人が行ってきた研究も含まれる―研究の成果を紹介する一般向け・初学者向けの書籍とすることが、この時点で決まっていた。
コンセプトは二つあった。一つは「オルタナティヴな『立ち直り』のあり方」を明らかにするような志向性である。二つ目は「犯罪・非行からの離脱の責任は、不正を胚胎する刑事司法や差別・排除を許容する地域といった『社会』に対して要請されなければならない」という点である。
内容的には、以下の四つの柱を立てた。ただし、立ち研のメンバーだけではカバーすることができないテーマもあったので、研究会外からも参画を呼びかけた(仲野氏、伊藤氏、加藤氏)。
① これまでに学術研究が犯罪・非行からの離脱をどのように扱ってきたのかを整理して提示する
② 日本において離脱がどのように語られてきたのかを振り返る
③ 少年本人、少年院、更生保護施設等のそれぞれのアクターに着目して、犯罪・非行からの離脱がどのようになされているのか(なされることが目指されているのか)を明らかにする
④ 「犯罪・非行からの離脱」という発想そのものがもっている前提を批判的に問い直す
以下、各章の内容をごく簡潔に紹介したい。
第1章では、まず犯罪・非行からの離脱に政策的な関心が集まっている背景、そして離脱とその類似概念の用いられ方について解説される。そのうえで、犯罪学者が離脱をどのように定義し、離脱についてどのような理論を構築してきたのかについて、主要な研究知見をもとに概説される。離脱というイシューにはじめて触れる方が、全体の見取り図を得るための章という位置づけである。先述の二つのコンセプトにも触れられる。
第2章、第3章(第1部)は、離脱に関する言説がテーマであり、第2章は新聞記事、第3章は論文、雑誌記事、書籍が分析対象である。前者では、離脱に付随する規範すなわち「離脱はかくあるべし」という社会的な力の存在について、後者ではそれに加えてどのような時期にどのようなアクターの動きによって離脱に関する言説が広がりを見せたかについて検討される。
第4章~第8章(第2部)では、犯罪・非行からの離脱がどのようになされ、また、なされることが目指されているのかが詳述され、同時にそこから導かれる課題が明らかにされる。第4章は少年院という場がテーマである。研究があまり進んでいない領域であるが、この章では最新の政策・実務の動向の紹介とともに、少年院処遇の課題が詳述される。第5章の主題は、保護司が活躍する保護観察である。保護観察制度が有する再犯リスクのコントロールという目標と実際の処遇との距離が、主たる検討課題である。第6章、第7章では更生保護施設が扱われる。第6章では主としてこの施設の職員の専門性のあり方が考察対象とされ、離脱における「安全な場」の確保の重要性が指摘される。第7章では施設に入所した非行経験のある若年女性の語り、とりわけ家族との関係性に関する語りから、リスクを抱えた若者を「問題者」としてではなく問題を乗り越えようとする主体として捉えることが試みられている。第8章では民間施設ダルクに入所する当事者へのインタビューに基づいて、薬物依存からの「回復」をめぐる困難が記述される。
第9章、第10章(第3部)は、「犯罪・非行からの離脱」という本書のテーマそのものについて、批判的な問い直しを迫る章である。第9章では離脱に関する規範的な定義、すなわち「べき論」の展開を回避する諸研究の問題性とそれを乗り越える研究のあり方が、ハームリダクションと呼ばれる薬物統制戦略への批判的議論の展開をたどることによって、提案される。第10章では離脱研究が「犯罪」の概念を自明視していることの問題性を俎上に載せて、刑法犯による犯罪定義を手放し、ハームという概念を導入することの積極的な意義が主張される。
基本的には自由に読んでいただいてかまわないが、初学者の方には、第1章から順番に読まれることをお勧めしたい。また、各章で引用されている文献はいずれも必読の文献なので、さらに理解を深めたい方の読書案内として利用していただければと思う。この分野の議論にすでに触れている方には、各自の関心に沿って各章を独立した論文として読んでいただいて差し支えない。一一名の執筆者のスタンスが微妙にあるいはおおいに異なることに、すぐに気づくであろうが、それを離脱研究の多様な展開の証と捉えるか、首尾一貫性のなさと捉えるかは読者の判断を待ちたいと思う。
版元から一言
犯罪・非行からの離脱が注目を集めています。犯罪や非行を起こした人が、再び犯罪や非行を起こすのか、それとももう起こさなくなるのかは、本人にとって、そしてまわりの人や社会にとっても大きな分かれ目となります。離脱は新聞や雑誌等のメディアの中でどのように捉えられているのか、少年院、保護観察、更生保護施設、民間施設などはどのような役割を担っているのか、当事者は何をどのように語るのか、そもそも離脱や犯罪・非行をどのように捉えることができるのかといった、離脱を深く多面的に理解するために幅広い論点について、気鋭の社会学者が集結しました。
上記内容は本書刊行時のものです。