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社会的葛藤の解決
原書: Shakaikagaku niokeru Ba no Riron
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年12月
- 書店発売日
- 2017年12月23日
- 登録日
- 2017年11月14日
- 最終更新日
- 2018年2月26日
書評掲載情報
2018-06-02 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 林春男(防災科学技術研究所理事長) |
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紹介
社会の実際問題をどのように把握し,解決の道筋を見出すことができるのか。レヴィンの実践的洞察の到達点。心理学に多大な足跡を残したクルト・レヴィンの古典的名著が待望の復刊!
文化と再教育の問題,家族や工場での小規模な対面集団における葛藤の問題,少数集団,特にユダヤ人集団の社会心理的諸問題など,社会生活の実践的な問題の「診断」や解決策の探索を扱っています。
第2巻『社会科学における場の理論』と同時刊行です。
目次
◆第1部 文化の変更に関する諸問題
第1章 アメリカとドイツとの2,3の社会心理学的差異
第2章 文化の再建
第3章 ドイツの特殊例
第4章 行為,知識,および新しい価値の受容
◆第2部 対面集団における葛藤
第5章 社会的空間における実験
第6章 結婚における葛藤の背景
第7章 時間的展望とモラール
第8章 産業における慢性的葛藤の解決
◆第3部 集団間の葛藤と集団所属性
第9章 少数集団の心理社会学的諸問題
第10章 危機にのぞんで
第11章 ユダヤの児童の養育
第12章 ユダヤ人の自己嫌悪
第13章 アクション・リサーチと少数者の諸問題
前書きなど
◆パブリッシャー注記
クルト・レヴィン(Kurt Lewin: 1890-1947)は間違いなく,心理学の歴史上最も創造性にあふれ,論争を呼んだ人物の1人であった。レヴィンが残した学術的な業績は,学習,発達,退行,達成動機,社会化,認知的不協和,グループ・ダイナミックス,そして実験室,学校,産業におけるグループ・ダイナミックスの応用といった広範な研究に,はっきりと残されている。
1948年に,クルト・レヴィンによる2巻本の論文集の1冊目『社会的葛藤の解決』(ゲルトルード・ヴァイス・レヴィン編)が,ハーパー・アンドー・ローから刊行された。2冊目の『社会科学における場の理論』(ドォウィン・カートライト編)は,1951年に刊行された。2巻ともレヴィンがアメリカに住んでいた15年間に著した論文を,読みやすいように編纂したものだった。その後,2巻とも品切となったが,1976年に『社会科学における場の理論』がシカゴ大学出版局からミッドウェイ再版シリーズの1冊として刊行された。その後,その再版も品切となってしまった。
クルト・レヴィンが現代の社会心理学に対して,どのように知的に貢献したのかを広く知ってもらうために,アメリカ心理学会はクルト・レヴィンの娘であるミリアン・レヴィン博士の協力を得て,2つの書目を1冊にまとめた形で再刊することにした。1冊として再刊することにしたのは,ドォウィン・カートライトが序で記しているように,この2つは統合的に関連したレヴィンの業績だからである。『社会的葛藤の解決』にまとめられているレヴィンの論文は,社会的葛藤の性質や原因への実践的な関心や,社会的葛藤の予防や解決法に関するレヴィンの調査など,応用心理学者としての業績が反映されている。一方,『社会科学における場の理論』においてレヴィンは,社会科学者として,個人や社会を理解するための概念的・方法論的ツールに関心を寄せている。
レヴィンのアイデアは,当時支配的であった単純な行動主義とは異なっており,物議をかもしつつも,新鮮なものだった。個人に対するレヴィンの心理学的な理論は1940年代以降それほど進展しなかった。というのも,レヴィンの関心が,場の理論の社会科学への応用,特に集団過程やアクション・リサーチに移ってしまったためである。これらの2巻を1冊にまとめることで,読者はレヴィンの思索を幅広く知ることができるだろう。現代の学生たちが,レヴィンの業績に新たに関心をもってくれることを,アメリカ心理学会は期待している。
ゲイリー・R. ファンデンボス,Ph. D.
パブリッシャー アメリカ心理学会
◆訳者あとがき
この訳書のテキストは次の通りである。Lewin, K.: Resolving Social Confllicts: Selected Papers on Group Dynamics (New York: Harper, 1948).
これは著者レヴィンがアメリカ在住の15年間に折にふれて発表した数多くの論文を,彼の死後にまとめたものである。本書に収められなかった比較的理論的な論稿はのちにカートライトの編集で同じ書院から『社会科学における場の理論』という表題を付して公刊された。この2つの論文集は晩年のレヴィンの考え方や関心を知るのにはなはだ便利である。
後者が心理学における科学論的問題の考察,あるいは,学習,発達,社会心理学,グループ・ダイナミクックスなど,多方面にわたる問題の理論的考察を中心として編集されているのに対して,この集には,例えば文化と再教育の問題,家族や工場での小規模な対面集団(face-to-face group)における葛藤の問題,あるいは少数集団(minority group),特にユダヤ人集団の社会心理的諸問題等,主として社会生活のより実践的な問題の「診断」や解決策の探索を中心的なテーマとする論文が集められている。レヴィンの叙述はここではきわめて平明に,また興味深く,問題や事例の自然な構造に即しつつ進められているので,心理学の特殊問題や著者の思想体系そのものに別段関心や予備知識をもたない一般読者にも,この書物は面白い読み物になっていると思う。なお,本書の内容や特徴については,G. W. オールポートの「まえがき」が短文ながら的確で要を得た解説の役割を果たしていると思われるので一読をおすすめする。
著者クルト・レヴィンはゲシュタルト心理学者の中でも異色のある存在であった。彼の生活空間の場の理論やトポロジーならびにベクトル心理学の構想はすでに早くからわが国の学界にも紹介されている。また,第2次大戦勃発の前後からこの著者の指導のもとに急速に発展してきたグループ・ダイナミックスやアクション・リサーチの構想と研究の成果とが戦後紹介されるに及んで,この著者の名は再び大きくクローズ・アップされることとなった。
クルト・レヴィンは1890年,ドイツのモギルノに生まれた。フライブルク,ミュンヘン,べルリン等の大学に学び,1914年,ベルリン大学で学位を受けている。その後,第1次大戦に従軍。そのときの経験から「戦場の景観」(1917年)という小論をものしている。これは戦場という特殊な状況において経験される世界の現れ方について叙述したものである。戦後べルリン大学に帰り,ナチ政権の台頭以前の10年間をこの大学で送っている。当時べルリン大学にはゲシュタルト派の心理学者たちが集まっていたが,レヴィンもその有力なメンバーの1人であった。
この間における彼の学問上の興味はおおむね2つの中心のまわりに集まっている。その1つは比較科学論に関する研究であり,他は情意および行動の心理学に関する分野の開拓であった。もちろんこの2つの領域は互いに独立に研究されていたわけではなく,前者の研究は後者に対する方法論的支柱となり,後者の問題は前者における研究の方向を規定していた。比較科学論の研究は彼においては常に新しい分野の研究を進め,理論体系の構成を誤まりなく進展させるための有力な方法論的基礎となった。「比較科学論の理念と課題」(1926年),「心理学における法則と実験」(1927年),「現代心理学におけるアリストテレス的思考様式とガリレオ的思考様式との葛藤」(1931年)等はいずれもこのような線に沿う労作であって,のちの力作『トポロギー心理学の原理』(1936年)や『心理学的力の概念的表現と測定』(1938年)の素地はすでにこの頃から準備されていたといえる。
一方,「動作および情緒の心理学の研究」(Untersuchungen zur Handlungs- and Affektpsychologie)という共通の表題のもとにPsychologische Forschung 誌上に発表された一連の研究も,多くはこの時期に行われたものである。彼自身,あるいはその指導を受けた直接の弟子たちの手になるこの20の実験的研究は指導的な心理学者としてのレヴィンの声価をますます揺るぎなきものにした。「意図,意志,および要求」(1926年)や,のちの『パーソナリティの力学説』(1935年)によって読者はこの一連の研究の理論的背景と研究成果の概要を知ることができる。
さて,ユダヤ人の血を受けたこの心理学者はその後ナチのユダヤ人迫害の手を逃れてアメリカヘ亡命した。著者をめぐるこうした運命を思うならば,本書にしばしば散見されるナチ・ドイツに対する激しい語調での言及やユダヤ人に対する共感の口吻がいっそうよく理解されるであろう。しかしそうした問題を取り扱う場合にも,激しい感情が彼の知性の眼を曇らせることはなかった。
渡米後,コーネル大学などで教鞭をとったこともあるが,彼の死までの在米15年の間に最も安定的な研究の拠点を彼に提供したのはアイオワ大学付属の児童福祉研究所であった。べルリン大学でもそうであったように,ここでも彼のもとには多くの弟子たちが集まって精力的な研究活動が続けられた。「トポロジーおよびベクトル心理学の研究」(Studies in Topological and Vector Psychology)として世に問われた3巻の研究報告の中には,リピットの民主的ならびに専制的集団雰囲気の効果に関する実験的研究,バーカー,デムボーおよび著者によるフラストレーションとリグレッションに関する実験,フレンチによる体制化された集団と体制化されぬ集団との反応の差異に関する実験等,興味深い研究が収められている。
アメリカでの研究生活を通して彼の関心は社会心理学とグループ・ダイナミックスの方向へと急速に移っていった。本書に収められた諸論文はこの当時の彼の関心と傾向とを反映して,明らかに強い社会的強調を帯びている。食習慣の変更に関する研究,工場の生産に及ぼす集団決定の効果に関する研究,リーダーシップの研究とその訓練の問題等に着々成功を収めたレヴィンとその一派は,1945年にマサチュセッツ工科大学に招かれてグループ・ダイナミックス研究センターを創設し,レヴィンはその初代所長に就任した。この研究センターはグループ・ダイナミックスの研究とその社会生活への応用を目的として発足し,コネチカット州におけるコミュニティ・リーダーの訓練のためのワークショップや集団発達訓練ラボラトリ等を開設してコミュニティにおける人間関係の研究とリーダーシップの技能の訓練とに多大の貢献をしてきた。レヴィンの急逝(1947年2月)はこうした活動に大きな打撃を与えたが,直接間接に彼の影響を受けた人々はアメリカ各地において,また,社会生活のあらゆる分野において,この新しい研究と実践の仕事を推し進めている。(なお,グループ・ダィナミックスの生いたち,特徴,成果等については,拙稿「グループ・ダイナミックス」―金子書房,児童心理,7巻7号および8号―に概説しておいたから参照されたい)。
ドイツにおいてもアメリカにおいてもこのように活発な研究活動の中心となって常に指導的な役割を演じてきたことは,著者がユダヤ系のドイツ人として社会的に必ずしも歓迎されない運命を担っていたことを考えるとおそらく異例のことではないかと思われる。このことは彼の知性の高さとともにパーソナリティの魅力をも物語るものであろう。トールマン(Tolman, E. C.)はこの著者のパーソナリティについて,著者自身の「アメリカ的パーソナリティとドイツ的パーソナリティとの差異に関する考察」(本書第1章)に言及しながら,「この分析に従えば,レヴィン自身はむしろアメリカ的な性格のもち主である。彼は他人との交渉において驚くほど解放的であり,身分や地位への考慮からまったく自由であった」と述べている。また……理論の鋭さやアイディアのオリジナリティにおいてはむしろドイツ的な性格をもっていたともいえようが,理論に対する非生産的な執着を免れるだけのユーモアのセンスと柔軟性とに恵まれていたので,最も基本的な意味において,彼はプラグマティックであった。したがって理論に対する彼の態度そのものはドイツ的性格とアメリカ的性格とのhappy compromiseを示していた。すべての理論の究極の目標はfruitfulであることだと彼は考えていたように思われる……とも語っている。彼自身および彼の直接の弟子たちによる実験研究だけでも70に上るという事実はトールマンのこの言葉を強く裏書きするものといえよう。初期の研究では情意や行動の分野を,晩年にはグループ・ダイナミックスやアクション・リサーチの分野を着々と開拓していった彼のオリジナリティとエネルギーとは,理論的見解において必ずしも彼に同調しない人々でさえも,これを承認せざるをえないであろう。「臨床家としてのフロイト,実験家としてのレヴィン―この2人は心理学をはじめて現実の個人と現実の社会に適用しうる科学たらしめたことのゆえに長く想い出されるであろう」というトールマンの追憶の辞は,亡き著者への単なる「餞けの言葉」にすぎないのであろうか。
版元から一言
長らく入手困難となっていた心理学の古典的名著が2巻本として再刊。社会心理学,グループ・ダイナミックスの巨人の思索が装いも新たによみがえります。第1巻では,人間はまわりの状況や環境からどのように影響を受けているのかを,現実の社会場面をもとに実験的に考察していきます。
上記内容は本書刊行時のものです。