- ISBN
- 978-4-908736-05-6
- Cコード
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C1011
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教養 単行本 心理(学)
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年7月
- 書店発売日
- 2017年8月2日
- 登録日
- 2017年6月14日
- 最終更新日
- 2018年2月26日
書評掲載情報
2017-08-27 |
毎日新聞
朝刊 評者: 大竹文雄(大阪大学教授・労働経済学) |
紹介
社会は心の健康にどう取り組むべきか。精神疾患に苦しむあらゆる人が適切な心理療法を受けることができれば,人生や社会はもっとよくなり,国の財政も改善する。心理療法アクセス改善(IAPT)政策でタッグを組んだ経済学者と臨床心理学者が,イギリス全土で巻き起こった幸福改革の全貌を明らかにする。
目次
第1部 問題は何か?
第1章 何が問題か?
第2章 精神疾患とは何か?
第3章 どれだけの人が苦しんでいるのか?
第4章 援助は得られているのか?
第5章 精神疾患は生活にどう影響するのか?
第6章 経済的負担はどれくらいか?
第7章 精神疾患の原因は何か?
第2部 何ができるか?
第8章 治療は有効なのか?
第9章 治療法はどのように発展したのか?
第10章 どの治療法が誰に効くのか?
第11章 心理療法を提供する経済的余裕はあるのか?
第12章 心理療法アクセス改善(IAPT)政策はどう生まれたか?
第13章 子どもと若者に対する効果的な治療法は何か?
第14章 精神疾患を防ぐことができるのか?
第15章 よりよい文化は助けとなるのか?
第16章 この苦痛を止められるか?
前書きなど
はじめに
私たちは、一人が経済学者で、もう一人は臨床心理学者である。一〇年前に出会い、時を経ずして、私たちの社会にあるとんでもなく不正義なことについて話すようになった。不正義というのは、身体疾患のある人は治療を受けることができる一方で、精神疾患のある人は、精神疾患に対して効果の高い治療法があるにもかかわらず、治療を受けられないことだ。
それから私たちは意気投合してイギリス政府にロビー活動をおこない、ついに心理療法アクセス改善(IAPT)政策という記念すべきプログラムが動き始めることになった。IAPTプログラムが始まると、私たちは二人ともそのアドバイザーになった。まだまだ道のりは長いけれども、IAPTはこれまでに何千人もの人生をよりよく変えることができた。『ネイチャー』誌の言葉を借りれば、これは「記録的な」達成であり、この成果を自国にも役立てようと、世界中の国々からIAPTを見学にやってきた。
この本では、メンタルヘルスの事業を立ち上げ、政策を着実に発展させていくために、私たちが何をおこなってきたのかを伝えようと思う。また、エビデンスにもとづく心理療法を必要とする何百万もの人たちに提供しようと奮闘してきた現場の人たちのおかげで、この本はできあがった。
どのような問題があり、その問題はどのくらい大きく、どのような活動をおこない、どのように解決してきたかを、この本では提示している。身体疾患のある人が治療を受けられるのと同じように、精神疾患のある人も治療を受けることができなければならない。それこそが倫理的に正しく、また経済的にも社会機能のうえでも必要なことなのだ。
この五〇年間に、多くの面で社会は大きく進歩した。しかし、不幸はまだ残っていた。人間の内側にある心理的なことが原因となって苦痛が生まれることに、私たちは対処してこなかったのだ。二一世紀に何より挑戦すべきなのは、人間の内側に目を向け、苦痛を克服することなのだ。
版元から一言
うつ病や不安障害は非常にありふれた心の病です。近年、精神疾患に対して治療効果の高い治療法(心理療法)が多く見出されています。しかし、身体疾患をもつ人は治療を受けられるのに、精神疾患をもつ人は適切な治療を受けられていません。
うつ病や不安障害をもつ人は、労働人口に多いため、彼らが心の健康を取り戻すことができれば、しっかりと働くことができるようになるので、福祉給付が節約できます。
また、精神疾患をもつ人は身体医療を悪化させることが多いので、心の健康を取り戻すことができれば、身体医療にかかる費用も軽減されます。
したがって、心理療法を提供することにかかる費用は、「取り戻す」ことができ、社会的な費用負担は実質的になくなります。
そして何より、治療を受けることで多くの人が充実した、幸福な人生を送ることができます。
そうした治療を、希望する人に提供することは、国や社会の果たすべき役割なのではないか。そうした思いから、イギリスでは、経済学者と臨床心理学者がタッグを組み、2000年代後半から「幸福改革」ともいうべき心理療法アクセス改善(IAPT)政策が実施され、大きな成果をあげています。
日本では新しい国家資格として公認心理師が誕生します。国や社会が心の健康の問題にどう取り組めばよいのか、多くの示唆が得られる本です。