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釜ヶ崎
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年8月
- 書店発売日
- 2017年8月1日
- 登録日
- 2017年7月24日
- 最終更新日
- 2019年12月26日
紹介
戦後ニッポンの繁栄を支えた
労働者の街、大阪・釜ヶ崎。
国内最大の“寄せ場"が放つ
強烈な磁場にひかれ、
街に移り住んだ写真家が、
15年以上にわたって活写した ディープタウンの光と影。
前書きなど
あとがき
釜ヶ崎は、多くの日雇い労働者が仕事を求めて全国から集まる日本最大の“寄せ場”(日雇い労働の求職者とその手配業者が多数集まる場所)である。現在は大阪市西成区萩之茶屋1~2丁目の一部となっているが、特に簡易宿泊所が集中しているエリアは「あいりん地区」とも呼ばれている。
かつて釜ヶ崎は、高度経済成長期の日本を支える大きな労働力を提供していたが、バブル崩壊後、求人数は減少し、中高年層を中心に多数の失業者を生んだ。労働者の大半は、頼れる身内や生活保障を持たない漂泊的な境遇のために路上生活を余儀なくされ、新たな雇用先も見つけられないまま、釜ヶ崎に留まってきた。
現在、彼らの高齢化はさらに進み、ドヤ街(「宿」を反転させた逆さ言葉)の林立するまちは、労働者のまちから福祉のまちへ、そして国内外の旅行者やビジネスマンも利用する格安のホテル街として、さらに大きく変わりつつある。
ことわっておきたいのだが、僕の写真は、そうした時代の変化や社会的な意味を伝えようとしたものではなく、むしろ変わることのない、彼らの“人となり”に焦点を当ててきたつもりだ。
(中略)
通い始めた頃は、カメラを提げていたことでよく怒られた。その度に、ここでの撮影は無理なのではないかと感じながらも、がむしゃらに日々歩き廻っていたのを憶えている。今思えば、きっと呆れられたのだろう、次第に向こうから声をかけてもらい、話を聞かせてもらえるようになり、少しずつシャッターが切れるようになっていった。後で彼らにプリントを手渡すと、宴会に呼ばれたり、酒やコーヒー等をご馳走してもらうこともあり、徐々に知り合いも増え、馴染んでいくことができた。
彼らの何気ない言動を通して、その個性的な性格を知るにつれ、そこで過ごす時間が居心地よく感じられるようになった。自分自身も自然でいられるようで、路上からの景色がいつしか“日常”として見えるような気がしてきた。
とは言っても、このまちの実情を前にすると、安易にレンズも向けられないことも多かった。何より、彼らのまっすぐな人間性に向き合ったとき、反省することや、考えさせられることが度々あった。一番驚いたのは、自分の先入観や価値観をいい意味で覆されたことだと思う。過去や生い立ちは問わずに横の繋がりで成り立っている人間関係、日常の困難を受け入れつつもユーモアを持ち続ける人としてのあり方、派手な生活を望むこともせず日々を生きる姿勢…。確かにそうした見方は、彼らのある側面だけを捉えたに過ぎず、きれいごとみたいだが、それでも僕は、複雑な問題を抱える環境の中で生き続ける彼らから、そんなことを感覚的に学ばせてもらったように思う。
(後略)
上記内容は本書刊行時のものです。