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ふむ、私は順調に老化している
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2021年10月29日
- 登録日
- 2021年9月6日
- 最終更新日
- 2022年8月17日
書評掲載情報
2021-11-26 |
週刊金曜日
評者: 中山千夏 |
2021-11-21 |
NHKラジオ第一「ラジオ深夜便」
評者: 永江朗 |
2021-11-10 | ウィメンズ アクション ネットワーク(WAN)「女の本屋」 |
2021-11-03 |
伊豆新聞
朝刊 評者: 中山千夏 |
2021-10-28 | 伊豆新聞 朝刊 |
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紹介
コロナ渦、自粛要請、東京五輪の開催、正体不明の不安がこの国を覆う。
中山千夏、1948年生まれ。70代をのんびりと疾走する。
最近、動作が減速している。よく転ぶようになったが、それもステンと勢い良くはいかない、ゆっくりゴロンと転ぶ。
訪れる老化現象のあれこれを愉しみながら綴る、日々の発見。
前書きなど
TVで不愉快なのは、老人を対象にした薬モドキと化粧品の宣伝だ。それらはこう言う。「ピカピカしてよく動く若者の肉体こそ正しい、シワだらけでうまく動かない老人の肉体は誤りである、よって老人は若者の肉体を保つべく努力しなければいけない」
こんなCM作るやつら、並べておいて日の丸つきのハリセンで端からパチンパチンとはたきたい。どう逆立ちしたって時間は逆戻りしないという真理から、われらの目をそらせようとするフラチモノだから。
(ある日の雑記から)
版元から一言
長く生きればシワが増える、長年使った臓器はくたびれ、筋肉もくたびれ、排泄やら呼吸やら関節やらあちこちに不具合が生じる。
だから? ほっといてよ、これが人間の自然なのだから。この肉体に安住して死ぬまで楽しく生きようではないか、ご同輩!
老いたら楽しくない? 思い返してみましょうよ、いつの時代の肉体が自分にとってよかったか。私の場合、肉体が気にならなかったのは、幼児期のほんの一瞬だけ。思春期に入ると性の成熟に追いまくられて楽しいどころの騒ぎじゃなかった。みんなそうだと思うのは、若い子みんな屈託のある顔をしている。あれは人生がどうのこうのというよりは、自分の肉体を持て余しているからに違いない。
ひとが羨む女ざかりもそう楽しくはなかった。みんなが言う美形とは、どこか違っている、それが大問題だったからだ。性的魅力がなければならない、そう思い込まされていたからだ。
そんなふうに肉体と葛藤して生きてきた。そんな昔日に較べれば、ただ残りの日々を無事に過ごせるだけの体力気力があればいい、という老人期こそ、楽しく過ごすチャンスだ、と婆は思うぞよ。
とにかく老化は一生一度の経験だ。もちろん幼年期も青年期も中年期も一生一度ではある。けれど老年期には、それらには望めなかった豊富な人生経験と、長年の間に培われた洞察力が備わっている。だから楽しい。
私は最近、動作が減速している。そういえば昔見た老人たちは、みんなスローモーだった。ふむ、私は順調に老化している。よく転ぶようになったが、それも幼時のようにステンと勢い良くはいかない、ゆっくりゴロンと転ぶ。正しい老人の転び方である。心配した若い友だちが、ステキなステッキを作ってくれた。去年、嵐で折れ飛んできた桜の枝を磨いて。室内や平坦地では素手で歩くが、でこぼこ坂では愛用している。
杖のつき方を工夫する楽しみも老人期ならではだ。
(本文から)
上記内容は本書刊行時のものです。