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豊臣秀吉の系図学 近江、鉄、渡来人をめぐって 宝賀 寿男(著) - 桃山堂
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豊臣秀吉の系図学 近江、鉄、渡来人をめぐって

発行:桃山堂
四六判
232ページ
上製
定価 2,400円+税
ISBN
978-4-905342-01-4
Cコード
C0021
一般 単行本 日本歴史
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2014年7月
書店発売日
登録日
2014年11月18日
最終更新日
2014年11月18日
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書評掲載情報

2014-10-12 朝日新聞
2014-07-20 読売新聞

紹介

明治時代の国学者たちが編んだ系図集『諸系譜』(国立国会図書館所蔵)所収の「太閤母公系」によると、豊臣秀吉の母方先祖は応神天皇治下の五世紀ごろ、日本列島に移り住んだ渡来系氏族の佐波多村主で、代々の刀鍛冶であったといいます。系図研究の第一人者・宝賀寿男(日本家系図学会会長、家系研究協議会会長)と秀吉をテーマとする出版社桃山堂が提携、「太閤母公系」を手掛かりとして、豊臣一族の系譜を徹底検証しました。古代と戦国時代をつなぐ長い時間軸の中で、「鉄」をめぐって織りなされる豊臣一族の謎を考えています。

秀吉の母方、父方に加え、秀吉のイトコとされる加藤清正、青木秀以、正妻おね(杉原氏)、浅野長政、竹中半兵衛についても、種々の系図を紹介し、その系譜を探っています。『新撰姓氏録』『尊卑分脈』『寛政重修諸家譜』など公的な系譜史料のほか、『諸系譜』『中興武家諸系図』『改選諸家系譜』など一般にはあまり知られていない系図集や江戸時代の地誌、随筆からも一族にかかわる所伝を拾い集めています。

秀吉にかかわる系図や伝承を徹底調査した結果、いくつかの傾向が確認できました。父方については、ほぼすべての系図が秀吉のルーツを近江国浅井郡(滋賀県長浜市内)に求めていることです。母方では、血縁者とされる加藤清正、青木秀以をふくめて、鍛冶や「鉄」にかかわる所伝が目に付きます。一族の多くが美濃国(岐阜県南部)に先祖の地をもっており、中でも滋賀県との県境に近い大垣市赤坂町の周辺に先祖の居住地が集中しています。赤坂には、中断をはさみつつも古代から近現代まで採掘されていた鉄鉱石の山、金生山《きんしょうざん》があり、美濃の刀工集団の一大拠点でした。

史料調査と併行して、一族の系譜にかかわる土地を取材し、関係者から話をうかがいました。金生山の鉄鉱石鉱山、秀吉を神として祀る滋賀県長浜市の鍛冶屋村、織田信長の先祖伝承にかかわる福井県越前町の織田劔神社など、四つの話題を関係者へのインタビューとして紹介しています。

目次

目 次

編者によるまえがき ………
国立国会図書館の所蔵庫から/秀吉の幼なじみは刀鍛冶?/古代の視点から戦国時代を考える/インターネットと系図

第一章母方系図 渡来の残照 ………
その出づる所を知らず/父親の不在/農民、鍛冶、神官/鍛冶系図/四姉妹/謎多き『諸系譜』/ルーツは渡来人か/三池典太/奇妙なご落胤伝説

第二章父方系図 近江の血脈 ………
実の父は誰?/謎の弥右衛門/近江から尾張へ/秀吉の先祖は浅井氏と同族?/系譜仮冒にご用心/『中興武家諸系図』/小谷城と丁野/鍛冶屋奉公の伝説/刀祖天国と母方先祖の地 /越の国へと続く道

インタビューⅠ ………
なぜ秀吉は鍛冶屋の神になったのか
草野鍛冶の子孫 草野武氏

第三章加藤清正系図 刀工、陶工それとも貴族の末裔 ………
姉妹かイトコか/鍛冶の系図/藤原道長の子孫?/陶工加藤氏の系図/明智氏につながる系図も/家紋が示唆するもの/鍛冶と大工は裏表

第四章青木氏系図 鉄鉱石の山のふもとで ………
二人の大名/紀伊守秀以/甲賀五十三家/青木氏の名刀伝説/美濃赤坂の鉄鉱石/家康は秀吉母方の遠戚?

インタビューⅡ ………
福井県で継承された秀吉母方の系譜
平吹屋当主 青木完太郎氏

第五章正妻おねの系図 美濃から尾張へ ………
おねと秀吉は結婚前から親戚?/木下苗字の謎/江戸時代の豊臣氏/「某」と記されている父親/日出藩史料を見る/本姓と苗字/地域伝承から発想する/揖斐川をくだって/鉄鉱石の山の北側

インタビューⅢ ………
虚空蔵菩薩は宇宙と鉄の山をつないでいるのか
明星輪寺 冨田精運住職

第六章竹中氏、浅野氏系図 美濃の人脈 ………
竹中氏も美濃赤坂の住人か/九州から美濃への移住説/古代美濃の国府/宇佐八幡宮と刀鍛冶/おねのもうひとつの実家/浅野長政と浅井長政/善滋氏についての個人的な記憶

第七章側室成田氏の系図 関東古代氏族の末裔 ………
血統と家系/美貌の女武者/秀吉に仕えた塙保己一の先祖/「のぼう様」と成田系図/秀頼の戒名/『太閤素生記』と成田氏/埼玉古墳群そして古代の秩父

第八章木下氏系図 秀吉の苗字を考える ………
奇説、珍説/佐々木流・高島一族の木下氏/織田一族の木下氏/竹阿弥の木下系図/木下半介吉隆の一族/隣接する秀吉・おねの先祖伝承地/美濃から近江へ

インタビューⅣ ………
織田信長と古代の技術者集団
劔神社 田中範夫宮司

第九章鈴木真年と秀吉 知られざる学統 ………
明治時代の国学者/幻の木下系図/栗原信充の系図

第十章鉄の記憶 古代と戦国時代を結ぶもの ………
結節点としての美濃赤坂/近江の古代製鉄/なぜ、名古屋に秀吉の親類は少ないのか/坂上田村麻呂と秀吉



前書きなど

編者によるまえがき

国立国会図書館の所蔵庫から

国会議事堂のそば、グレーを基調とした国立国会図書館の三階。図書の受け取りカウンターがあるため、多くの人が行き交う二階のにぎやかさが別の世界のような、ひっそりとした一室があります。古典籍資料室。明治時代の和装本や江戸時代の写本、それ以前の古文書、漢籍などの貴重書を扱うこのセクションに、『諸系譜』という系図集が所蔵されています。鈴木真年ら幕末生まれの国学者たちの手になる系図集です。
『諸系譜』に所収の系図のひとつに、「太閤母公系」があります。豊臣秀吉の母方は代々の刀鍛冶で、その先祖は応神天皇のとき、朝鮮半島から日本列島に移住した佐波多村主という渡来氏族、そしてその一族は大和国から美濃国を経て、秀吉の祖父の世代に尾張国に移ったと記されています。興味深い内容ではありますが、この系図の背景について、これまで十分な検討がなされていませんでした。謎に満ちた天下人のルーツを探るため、「太閤母公系」を起点として、秀吉および一族にかかわる系図を見ていくことにします。
一般にはあまり知られていない『諸系譜』『中興武家諸系図』『改選諸家系譜』などの系図集のほか、江戸時代に書かれた地誌や随筆、各地の伝承からも系譜的なデータを拾い集めてみました。真偽不詳の情報が多く、それぞれに矛盾する内容もあるのですが、今後の議論のたたき台という意味も込めて、毛色の変わった話もあえて掲載しています。検討の柱を「太閤母公系」とするのは、両親より上の世代で、秀吉との血縁関係を確定できるのは母親だけだからです。この母親についても残された史料は少なく、「太閤母公系」は数少ない文献のひとつです。秀吉の血縁上の父親が誰かという点についてはいまだに結論が出ていません。

秀吉の幼なじみは刀鍛冶?

秀吉の家系についてはわかっていないことが多いものの、その代々は尾張国(愛知県西部)の貧しい農民かせいぜい足軽程度の下級武士であろうと見なす論者が多いようです。しかし、私たちは今回、秀吉にかかわる系図や伝承を徹底的に調査し、いくつかの傾向を確認しました。
父方については、ほぼすべての系図が秀吉のルーツを近江国浅井郡(滋賀県長浜市内)に求めていることです。母方では、血縁者とされる加藤清正、青木秀以をふくめて、鍛冶や「鉄」にかかわる所伝が目に付きます。血縁によって秀吉にかかわる一族の多くが美濃国(岐阜県南部)に先祖の地をもっていることも、種々の系図から読み取れることです。岐阜県の中でも、滋賀県との県境に近い大垣市赤坂町の周辺に、一族にまつわる先祖伝承が集中しています。赤坂には、古代から近現代まで採鉱されていた鉄鉱石の山、金(きん)生(しょう)山(ざん)があり、美濃の刀工集団の一大拠点でした。
系図史料ではありませんが、ある程度の史実を踏まえていると見なされている『太閤素生記』(『太閤秀吉出生記』など異題あり)によると、若き日の秀吉を織田信長に紹介して仕官させたのは、同郷の友人「がんまく一若」であったといいます。
国立国会図書館所蔵の写本には、

そのころ信長公の小人頭にがんまく一若と云ふ者あり。かの一若、中中村の者なり。猿、父猿ともによく知りたり。

と書かれています。ガンマクとは「岩卷」と書き、室町時代半ばから江戸時代初期にかけて、美濃国の揖斐川流域を拠点としていた刀鍛冶の一派です。岩(がん)卷(まく)氏信をはじめ、岩卷の銘をもつ刀が伝来しています。仕官の話が本当かどうかは別としても、秀吉の友人に美濃鍛冶の一族とおぼしき人物がいるとしたら、「太閤母公系」をはじめとする鍛冶系図を無視することはできないことになります。『太閤素生記』には、少年期の秀吉が木綿を縫う針を売りながら旅をする話が出ていますが、これも「鉄」にかかわる所伝です。
全体を見通すキーワードとして、「近江」「鉄」「渡来人」という三つを掲げてみました。しかしこの三つは、本書が提示する結論でも答えでもありません。秀吉にかかわる種々の系図が私たちに示している「謎」であり、議論の出発点です。秀吉関連の系図はいずれも真偽不詳、玉石混淆のやっかいな代物ではありますが、混沌とした史料群のなかに一筋の道を見出すべく、読者の皆さまにも知恵を絞っていただきたいと思います。

古代の視点から戦国時代を考える

著者の宝賀寿男は、日本家系図学会、家系研究協議会という在野の研究者団体の会長を兼務しており、系図研究の世界のご意見番です。現役の法律家(弁護士)であり、もとは大蔵省(現在の財務省)のキャリア官僚、富山県の副知事を務めたこともあります。幕末生まれの系譜学者、鈴木真年の再評価の先駆けとなった『古代氏族系譜集成』(昭和六十一年刊行)の編著者であるといえば、系図に関心のある方なら、ぴんと来るはずです。実は、宝賀寿男は秀吉の母方を代々の鍛冶とする「太閤母公系」の再発見者です。近年、この系図は注目されるようになり、高澤等氏の『戦国武将 敗者の子孫たち』(洋泉社歴史新書)をはじめ一般の書籍でも言及されていますが、『古代氏族系譜集成』以前、その存在を知る人は皆無でした。
この点において『古代氏族系譜集成』は秀吉の系譜研究においてひとつのエポックをなしますが、同書はさらに重要な問題を提起しています。それは、幕末生まれの国学者たちの研究の中で、秀吉の系譜を古代氏族につなげる情報が示されていることです。これについても実りのある議論が展開されたとはいえません。私たちはこれから、秀吉やその一族の系図を見ていきますが、常に古代を視野に入れています。古代と中世の戦国期をつなぐ長い時間軸のなかで、秀吉とその一族の来歴を考えてみようということです。これが本書の基本スタンスで、秀吉をテーマとする他の著作や論考と異なる点です。
本書の刊行目的は、ふだん系図史料を見る機会のない一般の方々に、秀吉およびその血縁といわれる人たちの系図や系譜的な所伝についての情報を伝えることにあります。「紹介」に比重があるため、個々の系図をめぐる議論は詳述できませんでした。専門的な系図学的分析を知りたいという方は、宝賀寿男を中心として運営されているインターネットサイト「古樹紀之房間」のほか、巻末に記すブックガイドをご参照ください。
『豊臣秀吉の系図学』は、宝賀寿男と桃山堂の共同著作物です。総じていえば、この本の「頭脳」は宝賀であり、桃山堂はその「手足」という役割分担かもしれませんが、両者の長時間の議論と調査の成果物というところです。宝賀の研究成果や新たなアイデアをもとに、桃山堂が現地取材、資料収集を重ね、原稿をまとめました。テキストを何度もやりとりして、最終的に宝賀が加筆、修正しました。
『豊臣秀吉の系図学』の制作過程では、一族の系図に記載されている土地に足を運び、調査を重ねましたが、その際、その地の歴史をよく知る方や関係者にインタビューをお願いしています。秀吉の母方縁者とされる青木秀以の子孫である青木完太郎氏ら四人の方の証言を、関連する章の末尾に収めています。

インターネットと系図

手書きされた系図は複雑に線が引かれ、細々とした書き込みも多いため、最も活字化が難しい文字史料です。系図が歴史研究の共有財産となっていないのは、こうした活字印刷文化との相性の悪さが一因です。しかし近年、インターネットによって、古い手書きの系図を画像として公開する動きが加速しており、研究環境は様変わりしています。本書で取り上げている系図の多くを、ネット上でご覧いただけます。活字化されたものではなく、実物に近い系図に目を通しながら、本書を読み進めていただければ、議論の展開をより立体的に楽しんでいただけると思います。
系図や古い文献をインターネットで見ることができる場合は、該当の箇所がわかるよう、具体的に紹介しています。系図史料の多くは、東京大学史料編纂所、国立国会図書館のウェブサイトでネット公開されています。すでに利用されている方も大勢いらっしゃるとは思いますが、誰でも自由に閲覧でき、系図研究においてたいへん有意義なものです。例えば、本書の中で、

『美濃国諸家系譜』にある竹中家譜[東大史料 第6冊 0400.tif ]

と書かれている場合、東京大学史料編纂所のウェブサイトの「所蔵史料目録データベース」のページで、「美濃国諸家系譜」を検索、第六冊を選んで、0400.tif 以降の画像を閲覧すれば、竹中半兵衛重治の系図を見ることができます。.tif は画像データフォーマットの拡張子です。本文で言及している箇所を探し出すのが困難なケースもあるので、便宜上、拡張子の四桁の数字を目印とします。ただし、二〇一四年四月現在の情報ですので、変更の可能性があります。tifというファイル形式による公開があと何年つづくのかも不透明ですが、公開そのものがとりやめになることはないと思われるので、参考情報のひとつとして記載しています。国立国会図書館など他のサイトについても、公開方法などに変更の可能性があることをご了解ください。
ネット上に該当の系図がない場合、本書を出版している桃山堂株式会社のウェブサイトに掲載し、本文のうえでは[桃山堂ウェブサイト]と示しています。
系図は虚実混淆した史料で、読み手による解釈が大きな比重を占めています。本書で述べていることもひとつの解釈ですので、ぜひ、インターネットで公開されている系図関係の史料を見ながら、本書を読み進めていただければと思います。同じ史料を見ても、当然ながら、違った解釈や発想があるはずで、そこから議論が深まることを期待しています。
古い史料からの引用については、読みやすさを考慮し、漢字を平仮名に改めたり、送り仮名を補っている箇所もありますが、それ以外は原文通りに紹介しています。
桃山堂は、秀吉の「謎」にまつわる本/電子書籍をゆるやかなシリーズとして刊行します。伝説、伝承の領域にも踏み込んで、豊臣秀吉の深層に迫りたいと思います。

上記内容は本書刊行時のものです。