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事業所が労働法の罠に嵌まる前に読む本
中小企業経営のための労働時間,就業規則,注意指導,紛争,退職,解雇
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年7月
- 書店発売日
- 2018年7月10日
- 登録日
- 2018年6月26日
- 最終更新日
- 2018年9月3日
紹介
“労働者は秘かに労働局に相談している。”
多くの事業所は「労働法の罠」に対して無防備である。厳しい解雇規制,問題社員への注意指導,長時間労働,セクハラ・パワハラ問題,精神疾患労働者への対応等々,事業経営には様々なリスクが潜んでいる。労働法令に精通することは難しいが,問題が起こる前に労働法の考え方を知り,ポイントを絞って対応すれば,そのほとんどは予防可能である。
本書は,事業所側から見た「労働法の罠」への予防と対策を,実際の事例を挙げながら分かりやすく解説する。
目次
感 謝
■労働法の原則
労働法の「使える」基礎知識/労働基準監督官による臨検監督
採用難,雇ってもやる気はなく流出リスク…… /外国人アルバイト雇用はご用心
神職は「労働者」にあたるか/神職も僧侶も労働基準法上は労働者
十七条の憲法の視点で労働法改正を/学校教育は「人間」を育む場であることを希う
■労働時間
どこまでが「労働時間」なのか/事業場外みなし労働時間制
時間外削減は事業所を守るため/労働時間の記録と実態の乖離が許されない時代へ
長時間労働への厳しい認識と書類送検/労働時間も過労死も増加しないが社会が変わった
抜け道の無い労働時間規制
■賃 金
給与と在籍労働者の流出防止/新三種の神器,職務内容,責任程度,評価記録
「不合理な違い」にご用心/同一労働同一賃金ガイドライン
■就業規則
就業規則変更の留意事項/精神疾患労働者への対応と休職規定
退職金規定と従業員区分の定義/懲戒権行使と法律上の取扱い
国歌斉唱,筋の通らぬ司法判断
■注意指導
注意指導の3類型/書証の重要性
懲戒処分の留意点,二重処罰禁止・減給処分上限
■紛 争
「覚えてない」の考察/労働者は密かに労働局に相談している
合同労組とその対応/非正規労働者の適正管理で合同労組対策
ハラスメントに関する最高裁判例/あっせん解決金に基準は不要
報復されたら困る労働法的事情があると……
■退 職
3月退職者とリスク予防/退職勧奨の裁判例と応用
労働者による契約破棄は保護される権利/目前に迫る有期雇用の無期転換制度
転籍合意を得るための事前協議の重要性
■解 雇
厳しい解雇規制がもたらした悲劇/解雇と無罪推定
今こそ明確な解雇基準の確立を!/副業,兼業と解雇
副業,兼業をなぜ促進?/信頼関係の破壊と解雇
公務員の軽すぎる処分と民間の極端な処分/解雇金銭解決制度の必要性
あとがき
前書きなど
「あとがき」より
労働法の世界で大注目の裁判2件について,平成30年6月1日に最高裁判決が下された。長澤運輸事件とハマキョウレックス事件(81頁参照)である。いずれも,正社員と非正規社員との賃金等の格差が争点である。
長澤運輸事件は,定年後の再雇用契約において,業務内容が変わらないのに年収が2~3割減額となったため,その差額を求めた訴訟。東京地裁は,会社に対し定年前と同水準の支払いを命じたが,東京高裁は定年後の賃金減額は社会一般に行われており不合理な格差にあたらないとして請求を退けた。最高裁は,東京高裁の判断を支持し,定年再雇用後の賃金減額について理解を示したのである。
ハマキョウレックス事件は,正社員に支給される諸手当が契約社員に支払われないことが不合理な格差であるとして,契約社員が手当支給を求める訴訟。大津地裁彦根支部は,通勤手当についてのみ,正社員の下限と契約社員の上限の差額の支払いを命じたが,大阪高裁は,通勤手当の他に無事故手当,作業手当,給食手当について,不合理な格差であるとして支払いを命じた。最高裁は,高裁の判断を支持しつつ,さらに皆勤手当についても格差を認めなかった。
60歳定年後の再雇用は,定年前後の仕事内容が同じだとしても,賃金は5~6割となることは一般的なことである。そもそも,平成18年までは60歳定年後に再雇用する義務すらなかったところ,法が一方的に65歳までの雇用を義務づけたものである。その義務は,単に雇用を継続することであって,賃金を保障するものではない。実際に,減額を前提とした雇用継続給付金の制度(定年前の75%未満に減額となった場合に一部を補塡する制度)があるなど,賃金減額は社会的に広く認識された慣行なのである。
契約社員については,正社員に支給される諸手当,賞与,退職金等については支給されないか,支給される場合も限定的だというのが一般的である。契約社員は,採用当時に示された労働条件に合意して採用されたわけである。もし採用面接において正社員と同じ手当の支給等を求めたのであれば,採用自体がなかったであろう。それにもかかわらず,採用後に手当支払いを求めるなど,とんでもない話である。そのとんでもない話を,最高裁が認めてしまったのである。最高裁の判断は,契約自由の原則を無視するものであり,極めて不当である。今後多くの事業所で無用な紛争を発生させる種をまいたとしか言いようがない。
もともと解雇規制が厳しすぎるから,非正規雇用が拡大したのである。次に非正規雇用であっても正社員と同様の手当を支給しなければならないというのであれば,今後事業所がどのような対応をするのか予想できる。
まず,同一労働同一賃金だと言われないように,正社員と同じ職務をさせなくなる。手当等で相違を設けられないことは,基本給で相違を設けるしかなくなったことを意味するわけである。次に,正社員の給与が抑制される。契約社員への支払いが増大すれば,その原資は正社員の給与を削るしかないからである。最後に,雇用自体を縮小させる。AI時代が迫りつつあって,既に銀行等では大リストラが行われている。このような時代にあって,人間を雇用すること自体が何よりも大きなリスクだと気づく事業所が激増してしまうわけである。
わが国にとって,何も良いことはない。事業所にとっても,労働者にとっても,である。裁判所は,日本をどうしたいのか。
労働法は,解雇規制で縛っておいて,これから逃れて非正規雇用を増大させれば,今度はこちらを攻めてくる。事業所は,逃げても逃げても逃げ切れない。やはり王道は,労働法の考え方を知り,あらかじめ予防することである。
本書が,「労働法の罠に嵌まらない」ことに少しでもお役に立てば,望外の喜びである。
平成30年6月吉日 安藤政明
上記内容は本書刊行時のものです。