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ミジッシ
- 初版年月日
- 2017年11月
- 書店発売日
- 2017年12月14日
- 登録日
- 2017年10月30日
- 最終更新日
- 2017年12月15日
紹介
文献学の専門家である山口謠司さん初めての詩集。
古典から近・現代までの文献をつぶさに見てきた著者だからこその言葉の味わいが、独特なリズムとともに紙の上を跳ねまわります。生きている私たちは毎日、「未実施」のままになっているあれこれを置き去りにし、時に鈍い痛みとともにその「未実施」を飲み込んでゆく。
記憶の押入れの片隅に押し込めていた何ものかを揺り動かすような言葉の断片たちが、読む人をしばしの心の旅へと連れ出してくれるのです。
目次
おぼろ月/潮騒よ/言い訳/こきし、寝る、寝る/ぶらんこ/読めない「彁」へ/哀しみで満ちたバルーン/こういう具合の滞積は/だだん ごご むし/子守歌/する、したい/安定飽和節/黒点のない太陽の下 鰆をさばく しなやかすぎる 春の庖丁/まぶたに重い/美育/日暮れともなれば/いずこの岸より きみは 来た?/仮にもそれを/朝焼け 胸焼け/クロスする橋々/さかな たち/一分をつぶすために/太陽は今日も休み/いつか、湖に/セアオマイコトリ/桜雨/ミルフォイユ/ひねもす/教室の一番後ろの席にいて/シャボン玉/風が雨が、霙も、雪が/復調/四月の左右/言葉も、もう/あれからすれば/鯉の中で狂いませう/時間がとまったところから/シャボン玉を飛ばしませう/うすらわびしい春の夕ぐれ/眠ってしまおう/ああ、スズメ/時間の証拠/青い橋/大きな風が吹きました/秋の空と女の顔/きみの乳房は/窓辺にて/古き森にて/ぼくの溜息/君の筆の音/鏡の中の行ったり来たり/郵便ポスト/ひたすらに/階段だとはいえ/古い道へ/病院にて/わたしたちのいるところ/時間の影へ/涙と吐息と/廊下の先の向こう側/それにしても思います/なーに、何卒/しばらく経つと/へそと筆/きみに会いに/鼻がいう/うろんな客/祖母と月/はや、おや、いや/下さい!/走ります/金の星/かたつむり/形単影隻/きみが自転車でやってくる/聖橋にて/コウモリの飛ぶ/いっぱいの言葉/星の涙/蝉の鳴き声/深海魚―名を失念/亡き友へ/跳踊/ゆりかもめ/きみへ/メガネを作る/この夏、どこへ/ぼくは赤いポストのわきに/蟻 わたる/はなしをしてね/はなしをするね/風鐸の音/眠れぬ夏の夜に/明日のざわめき/夏が来る/バラ、笑う/きこえないから/小さな影へ/カエルがかえる無/十四の時のレールの音は/五円玉/紙飛行機/涙の理由/きみへ/明日が―/聞雨/うみに/あの道、あの水/ぼくはまっていますから/ナメクジと健忘症/ひとつの言葉/跋、同封
前書きなど
だれかがミジッシ、ミジッシ……と言っているのが聞こえていた。
ぼくは、部屋がミシミシと音を立てて壊れてしまいそうな恐怖と、ミジンコのようなムシがウヨウヨと部屋に入ってきているような夢を見ながらウトウトと眠っていた。
しかし、「ミジッシ」という声は、いつまで経っても止まなかった。
ちょっと目を上げて、何を言っているのかと思って隣の人に訊くと、みんなが「未実施」のままになっていることを、リストで挙げているのだという。
そういえば、ぼくにもミジッシのものがある。
未実施のリストを書き上げてみた。
会議のために用意された紙は、ウヨウヨとぼくのミジッシでいっぱいになっていた。
そしてそれが、イモムシとなって動き出し、会議の議題を食べて大きくなり、サナギになっている。
いつかコレらが羽化して羽ばたき、どこかへ行ってしまうのだろうか。
その時、ぼくのミジッシは「ジッシ」されているのだろうか。
ジッシされずに残るミジッシは、一匹ずつ、万年筆の先で潰してゆこう。
万年筆の青いインキが、青い海を作るまでー
(「あとがきにかへて」より)
上記内容は本書刊行時のものです。