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スネーク・ピープル
ジグザグデモ、あるいは戦術の系譜
- 初版年月日
- 2025年8月25日
- 発売予定日
- 2025年8月15日
- 登録日
- 2025年7月4日
- 最終更新日
- 2025年7月7日
紹介
ジグれ!
舞え、ヘビのうねりを!
フランスデモ、座り込み(へたり込み)、洗濯デモ、棺桶デモ、ピストンデモ、円陣デモ…… かつてのデモは、驚くほど多種多様で、きわめて柔軟でもあった。しかも、状況をみて機転を利かせ、またたくまに、別のデモ形態へ移行したり元に戻ったり、バラけたりをしていた。
いずれのデモも、さまざまな弾圧や妨害やいやがらせを受けるなかで、それらをすり抜けながらデモンストレーションをおこなうために、人びとが手探りで創りだしていった戦術である。
人びとは、社会のありように危機感をもったとき、このままではやっていけないと思ったとき、ないがしろにされている自他の存在を可視化させたいとき、要求する集団の、存在の全重量をむきだしにあらわしてきたのだ。
なかでも路上を蛇行〔だこう〕するジグザグデモは、デモンストレーションの華〔はな〕であり、労働者・失業者、老若男女・色とりどりの人びとを魅了した――だれもが、ヘビになって、うねっていたのである。
このスネーク・ダンスは、その時の要求や場面に応じて、いろんな幅でうねり、ぐるぐるまわり、おそ足、かけ足で蛇行運動し、ふたたび個へとバラけていく集団行進である。それは、決められた形態を外側からかぶせられるのではなく、みずからの内側からリズムを変異させつつ、そのつどデモの形状を生成していく大衆運動なのである。
しかし、この変幻自在な乱舞のあらわれは、大衆運動を上から指導したい勢力と制圧させたい勢力とから、大衆の愚かな「はみだし」や、「騒々しい」うさ晴らし、時代遅れとして見下され、やがて猛烈にバッシングされはじめる。さらには「迷惑行為」と見なされ、デモは、規制そして自主規制されていく。
「そもそも、ジグザグデモ以上の創造物、そこにひそかに(身体に)投入された批判的知性の厚みに匹敵するような創造物が、日本の大衆運動史において、はたしてどれほどあるだろう。」(本書 249頁)
このスネーク・ダンスの誕生から姿を消すまでの、戦前から安保闘争にいたる、蛇行の軌跡を追尾する。
ジグれ! 舞え、ヘビのうねりを!
路上はわれらのものであり、主人はわれわれなのである。
目次
ジグザグ・クロニクル(年表)/ 凡例
【第Ⅰ部】 スネーク・ピープル
1960‐5・1
蛇行す〔ジグる〕べきか、蛇行せ〔ジグら〕ざるべきか?
1960‐2002‐2012
ここではやくも蛇行〔だこう〕して
1945‐49
戦争の瓦礫〔がれき〕からうねり這〔は〕いでるヘビ:4つの資料より
1948
大阪市で警察局長はヘビ退治に血道〔ちみち〕をあげる:大阪市における公安条例の誕生
1954
許可か、届出か
1960
この年、だれもが蛇行した A Year of Snake Dance
1965‐2024
座標の設定
【第Ⅱ部】 ジグザグデモの黄金時代
1950‐1954
ヘビは美しい Snake is Beautiful
1949
古都のヘビを建築家が観察し、再生ニッポンの広場を構想する
1953
この年、つぎつぎとヘビが生まれ、増殖する
1954
若者たちは、はじめおずおずと、やがて大胆に蛇行をはじめる
1954‐1960
「田舎」でもヘビはうねりはじめる
1954
ヘビはだらしない兄弟にふんがいし、膨れあがりながらうねってまわる
1954
「自由労働者」は、いついかなるときも蛇行する
1955
いまはいいけども、来るべき社会主義社会では地に足をつけてくださいね、と、作家がヘビに注文する
1956
演劇家はヘビばかりなのにうんざりしながら、空想で演出する
1956
砂川〔すながわ〕でヘビはよろこびの凱歌〔がいか〕をあげる
1957‐1958
作家は、蛇行し、批判する
1958
仲間であるはずの人たちが、人を使ってヘビに石を投げさせはじめた
1954‐1959
教師たちは、屈折しながら蛇行する
1958
われわれはヘビではない:「文化人」は一線を画す
1959
意外な人物がヘビをくさす
1959
総評議長、ヘビを擁護〔ようご〕する
1959‐12・8
ヘビが棺桶〔かんおけ〕をかついでうずをまく
【第Ⅲ部】 いつ、どこで、どんなふうに生まれたのか?
1923
「へたり込み」の誕生
1925‐1935
スネーク・ダンスの誕生を考察する
【第Ⅳ部】 ジグザグデモ――栄光と凋落〔ちょうらく〕
1960
どういう年だったのか?
1957
学生が「先駆性」を発揮して、ヘビになるのはやめよう、と呼びかける
1958‐1960
ここで批判の論理を確認しつつ、蛇行的考察を試みる
1960‐6・15
「フランスデモ」はいつ生まれたのか?:それは「ヘビの変態〔へんたい〕」だった
1968
そのうねりは想像以上に大きかった:スネーク・ダンスの国際的インパクト
【第Ⅴ部】 ヘビ退治〔たいじ〕
1960
三池〔みいけ〕、あるいは戦術の系譜
1960‐1999
ここでまたもや蛇行して、「戦術の多様性」を考える
1960
「圧縮併進〔あっしゅくへいしん〕」によるヘビ退治がはじまる
1960‐1967
丸太を投げられたヘビは黒い割れ目に消える
文献表/ あとがき/ 索 引
前書きなど
「本書の立場は、いわば「スネーク・ファースト」とでも呼ぶべきものだ。つまり、わたしたちは、なによりもこの「蛇行運動」を主役に立てたいのである。
これまでこの「蛇行運動」が多少言及されることがあるにしても、つねにこのゴタゴタぶくみの「政治」の添え物としての扱いだったのだから。もちろん、この運動は背後にある文脈なしには理解できない。が、まず指摘しておかねばならないことは、ジグザグデモそれ自体は、多かれ少なかれ自律的な集団的行動、ないし「戦術」であったことだ。
「戦術」の(相対的)自律性、これは「戦術の系譜学」をひとつの目標としている本書において重要な意味をもっている。
しかし、この「戦術」は、運動がさまざまなレベルの政治、国家をひとつの戦略上の結節点とする「支配」という意味での政治から、それに対抗する動きという意味での「政治」、そしてそうした上下左右の動きのなかで行使される「政治」に囲繞〔いじょう〕され、程度はどうあれ規定されてもいる。
蛇行運動は、こうした政治のただなかで生まれ、ただなかで死んだ。あるいは、凍結されて仮死状態におかれた。…」(本書 47頁より)
版元から一言
たくさんの写真を掲載しています。
また、本文そして引用文のなかの、読みにくい漢字や固有名詞にはすべて、読みがなルビをつけております。
さらには、年表をはじめ、用語解説や人物紹介も充実させています。
本書が、こんにちの若い読者や留学生を含めた幅広い読者にむかえられるよう、さまざまな工夫をいたしました。
上記内容は本書刊行時のものです。