書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
叫びの都市
寄せ場、釜ヶ崎、流動的下層労働者
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年9月
- 書店発売日
- 2016年8月31日
- 登録日
- 2016年8月5日
- 最終更新日
- 2024年8月1日
紹介
夜の底、うねり流れる群れ ―――
流動する労働者(流動的下層労働者)たちは、かつて、職や生存を求め、群れとなった。かれらは、都市空間の深みを潜り抜けたのだ。山谷‐寿町‐笹島‐釜ヶ崎を行き交う、身体の群れ。その流動は、いかなる空間を生み出していったのか。
私たちはすでに「釜ヶ崎的状況」を生きている。「寄せ場〔よせば〕」の記憶は、今を生き残る術〔すべ〕を手繰りよせるための、切実な手がかりなのだ。地表を横断する群れとなれ、君みずからの「寄せ場」をつくれ ―― 過去からの声は、そう私たちに耳打ちしている。
目次
序 章
● アスファルトを引き剥がす
釜ヶ崎という場所
過程としての空間
本書の問い ―― 線を追跡する
第1章
● 戦後寄せ場の原点 ―― 大阪港と釜ヶ崎
一九五〇‐六〇年代の港湾労働の地理
港湾における労働者階級の状態
国策と資本の矛盾
封じ込められた例外
第2章
● 空間の生産
一九六〇年・釜ヶ崎の社会空間
場所の構築 ―― 焦点とフレーム
空間改造
植民地的空間の犠牲者たち
第3章
● 陸の暴動、海のストライキ
対抗の地勢
陸から海への線
海から陸への線
失われた地勢
記憶のリストラクチャリング
孤島から群島へ ―― 流動的下層労働者の像
第4章
● 寄せ場の生成 (1) ―― 拠点性をめぐって
暴動とは何であったのか
暴動の活用 (1) ―― 全港湾西成分会の議会内闘争
階級の形成 ―― 流動的下層労働者
暴動の活用 (2) ―― 釜共闘の直接行動
拠点としての寄せ場
第5章
● 寄せ場の生成 (2) ―― 流動性をめぐって
寄せ場の労働者になる ――I氏の流動
寄せ場とはどこか
複数の寄せ場
飛び火する運動 ―― 「山谷‐釜ヶ崎」
あらたに飛び火する運動 ―― 寿町
さらに飛び火する運動 ―― 笹島
寄せ場とはなにか ―― 流動と過剰
終 章
● 地下の都市、地表の都市
社会の総寄せ場化
寄り場なき都市空間
私営化とジェントリフィケーション
寄り場のゆくえ
● あとがき/文献一覧/索 引
前書きなど
アスファルトを引き剥がす ――
労働者の相貌を現す都市空間誌 ――
「…… 2000年代以降、「社会の総寄せ場化」や「釜ヶ崎の全国化」という言葉が唱えられるようになった。かつて「日雇労働者」と呼ばれたプレカリアートには、いまや「フリーター」という名前があてがわれ、雇用や生活の不安定性は社会全体に拡大された。釜ヶ崎はもはや例外ではなく、その状況は日常生活の隅々に浸透している。……
[中略]
…… 地図を描くとき、ひとは天空から地上を見下ろす視点にたつ。このときひとは身体の拘束から解き放たれ、ただ視覚だけを特権化させる。だがそれと引き換えに、眼に映るものしか見えなくなる。これに対し本書では、アスファルトを引き剥がし、嗅覚と土地勘とを頼りに地下を掘り進めていくような記述を試みたい。このように土地の深みへと潜っていくのに、まさか手ぶらで臨むわけにはいかない。記憶を展示物と化す事態を避け、地中の声を蘇らせたいと願うならば、なおさらである。このとき問われるのは、空間を論じる視座であろう。次節で述べるように、私たちにとって、空間とは過程でなければならない。本書の試みは、空間を〈動かす〉ことでもあるのだ。……
[中略]
…… 自分自身がいまどこに立っているのかを深く理解するためにこそ、あえてアスファルトを引き剥がそうとするのだ。いまのところ過去からの声は、くぐもって聞き取ることができない。おそらく私たちは、テレビやケータイの液晶画面の明るみに慣れてしまったせいで、聞き取るための身体能力を劣化させてしまったのだろう。もし寄せ場と呼ばれる時空間を再構成することができたならば、私たちはきっと、これまでになくはっきりとした声で、地中の叫びを耳にすることになる。寄せ場の記憶に触れ、あらためて地上を振り返ったとき、まわりの風景はその眼にどう映るだろうか。過去からの声は、現在を生きる私たちの耳元に、なにをささやきかけるのだろうか。」
(本書の30, 32, 45頁より)
版元から一言
流動する労働者の群れを、
だれも統御することはできなかった。
労働者の流動性は、
つねに〈過剰〉であった。……
だが、かれらは
挫折の苦悩のなかにあってさえ、
みずからが引き受けた過剰を
かたくなに肯定したのである。
それは、見えざる道を拓〔ひら〕き、
新たな空間を生み出しつづけるために、
決して絶やしてはならぬ種火だったのだ。
(本書、第5章より)
上記内容は本書刊行時のものです。