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地域の基層と表層 八戸地域から考える
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年3月
- 書店発売日
- 2020年4月10日
- 登録日
- 2020年4月9日
- 最終更新日
- 2020年4月10日
紹介
八戸地域をフィールドにした学際的な地域研究。
八戸地域の産業、生活、福祉、食、宗教、政治等に顕現する諸事象(表層)の根底に存在し、その基礎を形づくっている構造的ないしは史的な基盤(基層)を、人文系、社会科学系、自然科学系の諸専門領域から洗い出し、新しい視点から八戸地域の特性を重層的、複層的に浮かび上がらせた仕事。
10人の著者の共著で、10人がそれぞれの分野で八戸地域を研究した成果をまとめたものです。
目次
地域の基層と表層 八戸地域から考える
はじめに
目 次
第1章 人々の暮らし
第1節 戦後八戸市経済の展開 田中 哲
第2節 八戸市で暮らす自立的な高齢者に対する調査研究―高齢者のプロダクティブ・
アクティビティとその関連要因― 小柳 達也
第2章 漁業と流通の諸相
第1節 地域における水産物流通消費の変化の実相
―八戸地区の昭和40~50年代の考察― 中居 裕
第2節 鮫地区の沿岸漁業と漁家の食生活 久保 宣子・加来 聡伸
第3節 三八地方の行商 ―女性行商人の活動を通して― 堤 静子
第4節 地域ブランド化をめぐる「地域」概念と商品設計 中川 雄二
第3章 研究課題の多様性
第1節 奥州菊を作った男たち 橋本 修
第2節 八戸のハリストス正教徒パウェル源晟 木鎌耕一郎
第3節 八戸地域研究の系譜 髙橋 俊行
おわりに
執筆者紹介
奥付
前書きなど
はじめに
本書が目指しているのは、八戸地域をフィールドにした「学際的な地域研究」である。本書に掲載された諸論考は、八戸地域の産業、生活、福祉、食、宗教、政治等に顕現する諸事象(表層)の根底に存在し、その基礎を形づくっている構造的ないしは史的な基盤(基層)を、人文系、社会科学系、自然科学系の諸専門領域から洗い出そうとしている。
「地域」という対象は、まことに広範な領域である。地域に暮らす人々は、生身の人間たちから構成されており、当然ながら複合的で偶発的な側面をもっている。さらに、気候や風土、周辺地域や中央との関係性など、さまざまな要因が人々の暮らしや思想を彩ることになる。このような複雑な対象を研究しようとするとき、一本のメスだけで切り込むことはとうていできない。おのずと地域研究は、さまざまな学問領域にまたがる視点が必要となってくる。したがって、本書が企図する専門的な諸学問による「学際的な地域研究」は、斬新な発想ではなく、研究対象によって求められているごく自然な手法である。
本来であれば、地域に関する諸課題について諸学問の専門家が研究会などを通して多様な視点から議論を深めた上で、論文をまとめていくことが理想的である。残念ながら諸々の制約があって、本書に収めた論考はそのようなプロセスを経ることはできなかった。とはいえ、特定の地域について、常にまとまった数の複数の専門分野の研究者が目を向けているとは限らない。その意味で、今回、八戸地域の様々な事象に「おもしろさ」を見いだした、出身も専門も異なる複数のメンバーがつながりあい、その研究成果を収めることができた本書の存在は、ひとつの奇跡である。本書が、さらに多くの領域の研究者たちによって八戸地域研究が進展するための「呼び水」になることを願いたい。
以下に、本書の構成についてごく簡単に紹介する。
第一部「人々の暮らし」の「第1節 戦後八戸市経済の展開」は、全国的な地域開発計画「全国総合開発計画」の展開と八戸市総合計画による地域づくり構想の展開を追いながら、戦後期における八戸経済を整理している。「第2節 八戸市で暮らす自立的な高齢者に対する調査研究」では、社会福祉学の分野から「プロダクティブ・アクティビティ」と自立的高齢者の関係に着目した調査結果を報告したもので、八戸地域の高齢者対策に重要な提言を行っている。
第二部「漁業と流通の諸相」では、八戸地域の伝統的基幹産業の一つである水産業について扱っている。「第1節 地域における水産物流通消費の変化の実相」では、八戸地域の水産物の地域における流通と消費のあり方が昭和40 年代から50 年代にかけて大きな転換期にあったことを、データをもとに裏づけている。水産業が近代化する陰で、これまで顧みられなった伝統的な沿岸漁業に可能性を見いだしたのが「第2節 鮫地区の沿岸漁業と漁家の海藻食」である。鮫浦地区における漁業の固有性や食生活を紹介している。「第3節 三八地方の行商」は、「いさばのかっちゃ」の姿で知られるかつての女性行商人の実態を各種の調査から掘り起こしたものであり、これもまた新しい着眼点と言える。また、地域活性化を考える上で「ブランディング」はホットな用語である。「第4節 地域ブランド化をめぐる「地域」概念と商品設計」では、地域ブランド化の対象となる商品に係る「地域」概念の整理を行い、「ポートフォリオ」という概念を用いて、地域資産をベースとした地域ブランド商品の設計の方法と課題を整理している。
第三部「研究課題の多様性」の「第1節 奥州菊に魅せられたひとびと」は、南部地方で常食される食用菊の歴史を扱っている。これほど詳細に奥州菊について検証した論考は他にないであろう。「第2節 八戸のハリストス正教徒パウェル源晟」では、明治初期という比較的早い時期に八戸で宣教したハリストス正教(ロシア正教)を取り上げる。最初期の信徒が、政界のリーダーとして手腕を発揮しながら、時代の流れの中で受難に陥った様子を跡づけている。最後の「第3節 八戸地域の産業研究の系譜」は、先人たちの地域研究の動向を整理したものであり、八戸地域研究の未来のために貴重な情報源となろう。
本書は、これまでにない新しい視点から八戸地域の特性を重層的、複層的に浮かび上がらせることで、これまで積み重ねられてきた八戸地域研究の諸成果に、新たな知見や研究の視点を加えることができたと考えている。読者の皆様には、関心のあるタイトルから自由に読み進んでいただき、忌憚のないご意見を賜ることができれば幸いである。
本書の出版は、「平成31年度学校法人光星学院のイノベーションプログラム(基金)」による助成を受けて実現した。関係諸氏、とりわけ本書の完成が助成年度を越えることに理解をいただき、便宜を図って下さった八戸学院大学事務局に深謝申し上げる。
2020年3月
編者/木鎌 耕一郎
加来 聡伸
上記内容は本書刊行時のものです。