書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
帝国日本の漁業と漁業政策
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2016年10月
- 書店発売日
- 2016年10月21日
- 登録日
- 2016年4月26日
- 最終更新日
- 2024年12月14日
目次
水産史研究叢書
帝国日本の漁業と漁業政策
はじめに
総論
Ⅰ.近代漁業への模索(伊藤康宏)
Ⅱ.近代漁業の成立と展開(小岩信竹)
Ⅲ.近代漁業の再編(片岡千賀之)
制度・基盤
1章 日本と植民地の漁業制度(小岩信竹)
2章 近代日本の漁業政策と漁業組合-島根県を中心に-(伊藤康宏)
3章 戦前漁港修築国庫補助制度研究の到達点と課題(望月理生)
北洋・北海道漁業
4章 蟹工船との断片的「対話」-『漁業発達史 蟹缶詰篇』をもとに-(大海原宏)
5章 戦間期樺太のニシン漁業(植田展大)
6章 戦前期における塩鮭鱒の市場と流通-露領漁業産鮭鱒を中心に-(中居裕)
内地・植民地漁業
7章 近代におけるイワシ産業の発達(片岡千賀之)
8章 日本統治期初期の朝鮮水産開発構想-庵原文一を中心に-(藤井賢二)
水産業振興・開発・人物
9章 明治の博覧会と水産業改良-水産巡回教師-(中野泰)
10章 明治日本の遠洋漁業開発と人材養成(佐々木貴文)
11章 カツオ漁業の南洋進出-黎明期における原耕の南洋漁場開拓事業を中心に-
(福田忠弘)
12章 国司浩助の「経営構想」(足立泰紀)
前書きなど
本書は水産史研究会が10周年を迎えるのを機に企画された。水産史研究会は、水産史の研究者が少なく、発表する機会も研究交流をする機会も限られていることから2007年に立ち上げた。年1回、集まりやすく、情報蒐集に便利な東京またはその周辺に集まり、5~7人の報告と討議を重ねてきた。内容は、水産史に関わるすべての事項、時期が対象で、事項は漁場、資源、漁業・養殖業、水産物流通、水産物貿易、水産加工、漁業者・水産人、水産政策、水産高等教育・研究、国際関係に及び、時期は近世、近代、現代に広がっている。参加者の専門領域は漁業経済学、歴史学、民俗学、地理学等と多彩である。漁業史研究に大きな業績を残された二野瓶徳夫氏の研究を批評したり、神奈川大学国際常民研究プロジェクトに参加したこともあった。
各々の報告は、各自が属する学会誌や研究機関誌等に投稿掲載されているが、研究会として冊子にはまとめていない。今回、10周年を前に、比較的報告の多い近代の水産業をまとめることにした。
近代(明治初年~太平洋戦争)の漁業は、一言でいえば近代化=資本主義化の過程であった。漁業法制が確立し、目覚ましい漁業技術の発展があり、資本制生産様式が普及し、生産高は高まり、水産物市場が国内外とも拡大した。漁業の近代化によって日本は世界最大の漁業国となったが、漁業は沿岸、沖合、遠洋に、漁業制度は沿岸漁場における漁業権制度と沖合・遠洋漁業における許可制度で構成された。漁業者は広範な自営漁民の存在、賃労働者の形成、中小資本漁業の台頭と躍動、特定漁業を独占する巨大漁業資本の成立といった重層構造が形作られた。漁業の近代化は日本社会の近代化を基盤としており、漁業政策によるところが大きいことはいうまでもない。
さて、本書「帝国日本の漁業と漁業政策」を企画するにあたって留意した点は2つある。1つ目は、対象地域を日本の植民地・半植民地を含めた帝国日本の版図としたことである。従来の水産史研究は、帝国日本の水産業全体のなかで植民地・半植民地漁業が正当に位置づけられ、扱われなかったという反省に基づいている。帝国日本の版図は拡大し、植民地・半植民地に内地の漁業が移植され、内地の漁業政策が準用された。千島・樺太交換条約に始まり、日清戦争による台湾領有、日露戦争による樺太割譲、関東州の租借権獲得、日露漁業協約による露領出漁、朝鮮併合、第一次大戦の結果、日本の国連委任統治領となった南洋群島では日本人漁業が主導的役割を果たし、内地への水産物の供給基地、水産物の需要地となった。
2つ目は、本書を総論と各論の2部で構成し、総論では時期を3期の発展段階に分けて、漁業の近代化過程を概説したことである。各論だけを並べても全体の流れ、構造が読めないからである。総論は以下のように要約される。
「Ⅰ.近代漁業への模索」(伊藤康宏)は明治初年から資本主義の萌芽期にあたる1900年頃までを対象とし、沿岸漁業は転換期を迎え、慣行を基礎とした漁業制度が確立する時期である。水産業の発展は、無動力漁船段階にあって、西欧技術の導入と在来技術の改良発展が並行しつつ、新旧漁法の交替、定置網漁法や養殖技術の改良が進行した。水産業振興策として博覧会・共進会の開催、巡回教師制度の創設、水産調査の推進があった。漁業制度では、海面官有借区制の布告したが、混乱が生じたので借区制を取り下げ、慣行漁場利用に基づくものとした。その後、各府県ごとの資源保護措置、漁業組合準則による漁業調整、旧明治漁業法の制定で漁業権制度が確立し、その管理主体としての漁業組合の設立をみたことが概説されている。
「Ⅱ.近代日本漁業の成立と展開」(小岩信竹)は1900年頃から第一次大戦終結までの資本主義の成立・発展期が対象である。漁業では綿糸漁網の普及、動力漁船の登場、沖合・遠洋漁業の形成と許可制度の制定、露領漁業の発達、水産物流通・加工では製氷・缶詰技術の発達、工場制機械生産の出現、中国向け輸出から欧米向け輸出への転換が進んだ。本論では漁業人口、漁業生産高、漁船数の動向を概観し、技術発展では各府県水産試験場の設立、漁船の動力化、綿糸漁網の機械編みを、漁業政策として遠洋漁業奨励策と明治漁業法の制定と植民地への準用を取り上げた。
「Ⅲ.近代漁業の再編」(片岡千賀之)は第一次大戦から昭和戦前期が対象で、第一次大戦後不況、昭和恐慌、軍国主義化を強めながら日中戦争、さらに太平洋戦争へと突き進む波乱の時代である。漁船動力化の普及、漁業組合の経済事業の進展、卸売市場の整備、植民地漁業の本格的発展、金輸再禁止以後の水産物輸出の拡大、漁業経営体の階級・階層分解の急展開がみられた。日中戦争後は戦時体制が組まれ、輸出市場を喪失し、漁業生産力は急速に縮小した。本論では、漁業生産高、各種漁業の発展、外地の水産業、水産製造業、水産物流通と貿易の拡大、巨大漁業資本の形成、戦時体制下の水産業を要約している。
各論は12章から構成され、テーマ別に「制度・基盤」(1~3章)、「北洋・北海道漁業」(4~6章)、「内地・植民地漁業」(7~8章)、「水産業振興・開発・人物」(9~12章)に大括りした。簡単に紹介しておこう。
「1章 日本と植民地の漁業制度」(小岩信竹):明治漁業法の確立過程とその植民地への準用について考察した。明治漁業法は欧米の漁業関係法規を参考にしたことで普遍性をもったこと、樺太、朝鮮、台湾への明治漁業法の適用にあたって、その地域の漁業、漁業制度を取り込んだことを論証した。
「2章 近代日本の漁業政策と漁業組合-島根県を事例に-」(伊藤康宏):近代における漁業組合制度と政策を4期に分けて概説し、1933年の漁業法改正以降の漁業組合制度確立期を対象に、一般的な漁業組合を事例にその組織と事業活動を考察した。
「3章 戦前漁港修築国庫補助制度研究の到達点と課題」(望月理生):戦前には漁港修築に関する根拠法がなく、1918年、1925年、1929年の3つの国庫補助制度があったに過ぎない。それぞれの国庫補助制度が目指したものと結果を時々の政治経済状況と漁業の発展段階に則して評価した。
「4章 蟹工船との断片的「対話」-『漁業発達史 蟹缶詰篇』をもとに-」(大海原宏):岡本正一編著『漁業発達史 蟹缶詰篇』(1944年)に依拠しつつ、母船式カニ漁業の生成発展過程を辿り、母船と独航船との関係、漁場・資源問題、従事者の階級制度を概観し、領海問題、苛酷な船内労働・生活を幅広い視点で捉えることを提唱した。
「5章 戦間期樺太のニシン漁業」(植田展大):1920~30年代の樺太の漁業をニシン漁業を基幹とする地域とその他漁業地とに分け、両地域のおける漁業展開や漁獲物の利用形態の変化と樺太庁の移住漁業者の定着に重点を置いた政策との関連性を考察した。
「6章 戦前期における塩鮭鱒の市場と流通-露領漁業産鮭鱒を中心に-」(中居裕):露領漁業は明治40年代に本格的発達を遂げるが、缶詰加工よりも量的に多い塩鮭鱒の生産と流通、市場を取り上げた。国内では市場開発によって販路は全国に広まったが、過剰分は台湾、中国に輸出されたことを、集散地の函館、消費の広がり、新製品の開発、輸出の面から実態的に解明した。
「7章 近代におけるイワシ産業の発達」(片岡千賀之):イワシは内地及び朝鮮における最大の漁獲魚種で、漁獲変動が大きく、また漁獲物のほとんどは肥料、魚油に加工された。漁獲動向を概観した後、漁獲能力の増強、消費需要の拡大の両面から動向を把握し、自主統制、戦時統制について言及した。
「8章 日本統治期初期の朝鮮水産開発構想-庵原文一を中心に-」(藤井賢二):庵原は朝鮮水産行政官で、彼が活躍した朝鮮通漁時代から移住漁村建設時代への移行期の水産政策について、漁民移住と関連して漁業法の制定、北東岸の漁業開発、西岸からの清国漁船の排除を考察した。
「9章 明治の博覧会と水産業改良-水産巡回教師-」(中野泰):明治中期までの勧業政策には水産博覧会、水産共進会・水産品評会の開催、水産巡回教師制度の創設があり、それぞれについて概説するとともに相互の関連性を考察した。水産巡回教師制度についてのまとまった論考は初である。
「10章 明治日本の遠洋漁業開発と人材養成」(佐々木貴文):水産教育機関は1890年代以降、中央に水産講習所、地方は水産試験場と並立して水産講習所が整備された。遠洋漁業奨励法の制定を契機に遠洋漁業練習生制度が設けられ、遠洋漁業の拡大を担ったことが考察されている。
「11章 カツオ漁業の南洋進出-黎明期における原耕の南洋漁場開拓事業を中心に-」(福田忠弘):南洋カツオ漁業の創出に生涯をかけた異能な人物・原耕の事蹟を追った。徹底した取材によって、資源調査、餌料の確保、開発資金の調達、漁業根拠地・蘭領東インド政庁との交渉に至るまでが活写される。原の事業は南洋カツオ漁業のその後の隆盛に影響を与えた。
「12章 大手水産企業と国司浩助」(足立泰紀):共同漁業の国司浩助といえば、トロール漁業の創始者であり、技術革新を推進し、戸畑に一大水産コンビナートを形成し、国内外に販売ネットワークを張り巡らせた人物として著名である。国司の「経営構想」を近代産業としての水産業、水産業の工業化、広い社会問題にかかわる経営哲学として取り上げた。
2016年5月
水産史研究会を代表して 伊藤康宏、片岡千賀之、小岩信竹、中居裕
上記内容は本書刊行時のものです。