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北の美術の箱舟
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年11月11日
- 書店発売日
- 2023年11月18日
- 登録日
- 2023年11月13日
- 最終更新日
- 2023年11月20日
紹介
北のアートシーン、その奔流のなかで書き綴った美術ドキュメント
北海道立近代美術館に建設準備室当時から学芸員として関わり、以降2022年まで北海道の公立美術館で美術展開催に尽力してきた著者が、在職中の約40年間に書き綴った文章を整理。膨大なテキストのなかから、現代の美術について、北海道におけるグループ展や作家たちをテーマに扱ったものを収録した。
北海道の現代美術が同地ならではの潮流を生みだした時代に立ち会い、その流れのなかに浮かぶ舟として記した言葉をまとめた美術ドキュメント。
目次
1 現代絵画の行方
モネ《睡蓮》と現代
二十世紀美術という「物語」
二十世紀と静物画
木、そして絵画と彫刻のあいだ
存在の再生装置としての美術
ストイシズムを超えて ―韓国の絵画の現代
日本の現代美術概観
2 ブランクーシ、ピカソ、エコール・ド・パリ
無限の飛翔を夢みて ブランクーシとナッシュ
ピカソの版画世界
エコール・ド・パリの異邦人たち
パスキンとエコール・ド・パリの群像
異邦人彫刻家たちのパリ
3 北の美術をめぐって
アイヌ文様の美、その発見
北海道・炭鉱・美術
世紀末と北の具象絵画
北海道の現代美術 ―一九七〇年代後半以降の動向と作家たち―
象徴と景観、そして形のゆくえ
Sapporo Conception ―北の現代美術の網目から
4 北のグループ展に寄せる
プリントアートの今日
北海道版画協会50周年に寄せて
“日本の絵画”の創造に向けて
北海道現代具象展と“具象展”
札幌アートクロッシング ~新たなサッポロ未来展に寄せて
「生命」を描くということ
「立体表現」と北海道立体表現展の作家たち
北海道立体表現展 ~道立近代美術館の作家たち
川の起源/水脈の肖像/有限との対峙
二つの“肖像”の立つところ
素材とジャンル、その交差と交響
トランスフォームと想像力 ~交差する視点とかたちvol.3に寄せて
時間と身体のはざまで ~視点の交差とかたちvol.4に寄せて
かたちがたちあがるところ ~交差する視点とかたちvol.5に寄せて
「2+2北海道・光州美術交流展」に寄せて
「2+2」展ふたたび
前未来形、あるいはオープンソースとしてのアートへ
「チ・カ・ホ」と「つながろう展」をめぐって
5 北海道の作家たち
生と死とロマンティシズム ―難波田龍起の内的ヴィジョン―
難波田龍起と北海道《北国の家》から《たたかい》まで
《生成の詩》と春の光
対話と沈黙のイマージュ ―小川原脩の世界
中島公園と山内壮夫の彫刻
藤川叢三の彫刻 ―イタリア留学とその後
時への鎮魂とオマージュ 中江紀洋の彫刻世界
精神が形となるとき ―《意心帰》の世界
砂澤ビッキ《四つの風》をめぐって
北岡文雄 ―木版画の軌跡
音楽へのオマージュ ―渡会純价の版画世界
版のヴィジョネール 一原有徳の世界
矢崎勝美のCOSMOS
岡部昌生 ―シンクロと往還
都市/皮膚のインデックス
阿部典英、その創造のヒミツ
阿部典英 ―北の前衛の軌跡
跛行から浮遊へ ―米谷雄平・解脱への絵画
内発する平面 ―花田和治の絵画
夢の発する光 ―杉山留美子の絵画
崩壊とポイエーシス ―佐藤武の絵画世界
自在な力学の方へ ―荒井善則の仕事
端聡の近作
フットワークとしての芸術 川俣正のプロジェクトをふり返って
《林縁から》をめぐって
〈いのち〉の在処 ―下沢敏也の陶の仕事
あとがき
佐藤友哉略歴
前書きなど
あとがき
ここにおさめた文章は、北海道立近代美術館や札幌芸術の森美術館の学芸員として勤務していた間に書いたもので、美術館で行われた展覧会の図録テキストとして寄せたもののほか、求めに応じて北海道内のさまざまな展覧会のために書いたものがその主なものである。早いものでは一九八三年のものから、近年のものでは二〇二〇年のものまであるので、およそ四十年にわたって書いたものだ。
もちろんこれ以外の機会に書いたものも数多いが、今回これまでに書いた文章を網羅して新たにまとめてみると、その量はここにおさめた文章の二倍ほどになることに驚いてしまった。文章の内容や質についてはもちろん問題があろうかと思うが、それらを整理し、取捨選択し、北海道において開催された展覧会などに即しながら、現代の美術について、また北海道の美術を牽引してきたグループ展や作家たちにテーマを絞ってまとめたのが本書である。もっとも北海道の作家について書いたもののうち、今日から見ると内容の点で未熟なものは掲載を見送らせてもらった。
本書を『北の美術の箱舟』と名付けたが、特段深長な意味があってのことではない。書き連ねた文章をあらためて読み返したときにふいに立ち現れたタイトルであった。思えば約四十年のあいだに、さまざまに変化し流動してきた美術の潮流のなかを、頼りのない言葉を発しながら、おぼつかないまま漂ってきた、というイメージが「箱舟」という言葉になったのだろう。
しかしながら、この間の北海道の美術状況を振り返れば、本格的な美術館時代を迎えるなかで国内外の大規模な展覧会が数多く開催されるだけでなく、北海道の現代美術グループなどが躍進し、それにともなって北海道の作家たちが海外との交流を進めるなど、じつに伸びやかに活動をくり広げてきた時期だったように思う。とくに北海道の現代美術が、やっと中央とのギャップを乗り越えて、国際的な表現の共時性を確認できるようになったのもまさにこの時期からだったのではないか。つまり北海道ならではのアートシーンが一つの潮流を生みだした、ということなのかもしれない。
北海道の美術館学芸員として、また美術評論家としてこれらの動向に立ち会えたこと、またこうした動向にいくらかでも拙い言葉によって寄り添えることができたことは幸いなことだった。それこそこの潮流のなかに舟を浮かべることができたということなのだ。その箱舟である本書が、一つの美術ドキュメントとして何らかの役割を果たすことができるのであれば、まさに望外の喜びというべきだろう。
なお、文章の掲載にあたっては、原則として原文のままとしたが、用語や人名などの表記についてはできるだけ統一した。また国名や地名については支障のない限り現在の表記とした。
これまでさまざまに対応いただいた数多くの作家の方がたにお礼申し上げるとともに、表紙カバーに作品を提供いただいた陶芸家の下沢敏也氏、また出版ならびに編集にあたってくれた中西出版と担当いただいた小林繁雄氏にもお礼申し上げる。
二〇二三年十一月
上記内容は本書刊行時のものです。