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遠ざかる野辺送り
葬送の今昔事情
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年6月30日
- 書店発売日
- 2022年7月9日
- 登録日
- 2022年6月24日
- 最終更新日
- 2022年7月11日
紹介
白装束、位牌、四花…
かつては遺族らが長い葬列を組んで亡骸を野末に葬る〈野辺送り〉の風習があった。
葬儀の在り方が大きく変化する今、時の文学や政策などから日本人の葬送の変遷を読み解き、太古から現代の葬送を改めて考察し、後世への記録とした一冊。
『馬のいた風景』『われ壇上に獅子吼する』に続き、〈消えゆくもの〉を主題とした三編の完結作。
北海道・江別市に生まれ育った著者の父祖の北海道移住の軌跡を辿る過程や、一族の墳墓の地となった江別での葬送の実際、北海道の葬送の歴史的な側面や葬送の場で度々語られる地域性のほか、北方領土墓参、戦争や自然災害での不慮の死による埋葬など、移ろい変わりゆく葬送の様を冷静な筆致で書き記した。
目次
口絵
はしがき
第一章 文学等にみる野辺送り
第一節 童話「ごん狐」
第二節 小説「野辺送り」
第三節 戦後開拓ルポ「黄色い川」
第四節 小説「楢山節考」
第五節 映画「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」
第二章 墓地と火葬場の歴史
第一節 日本における葬送の歴史
第二節 北海道における葬送
第三節 江別市の墓地と火葬場
第四節 失われた二つの墓地
第三章 父祖の歩んだ歴史
第一節 門伝七ツ松
第二節 ルーツをたずねて
第三節 北海道移住
第四節 墳墓の地・江別
第四章 戦争と自然災害
第一節 北方領土の墓参
第二節 戦没者の遺骨収集
第三節 強制労働犠牲者の遺骨発掘
第四節 東日本大震災での仮埋葬
第五章 かすむ野辺送りの風景
第一節 無縁墓と合同墓
第二節 消えゆく土葬
第三節 葬送の行方
あとがき
写真・図表一覧
巻末資料
参考文献
前書きなど
あとがき
昭和に生まれて平成、令和と時代が移り変わり、明治生まれの俳人中村草田男が、昭和6年に『降る雪や 明治は遠くなりにけり』の名句を詠んだ心境がよくわかるようになった。
中村が句を詠んだ当時の人々は、還暦を迎えると随分と歳をとった気持ちになり、文字どおり隠居をしたであろうが、現在では政界の格言『50、60は洟垂れ小僧』が世間一般でも通用するほど若々しい。とは言え、やはり記憶力や体力の衰えはあり、何よりも若い頃に比べて1年があっという間に過ぎ去る感じがする。正に《光陰矢の如し》。
年初に64歳となった私がこの先、日本人男性の平均寿命まで生きられたとしても、あと20年足らずであることを思うと、人生が急に儚いものに見えてくるから不思議なものだ。
それでも天寿を全うできれば幸せと思わなくてはなるまい。世の中には、長く生きたいと思ってもそれが叶わなかった人が大勢いる。東日本大震災はじめ頻々と日本列島で起こる自然災害で落命することもあれば、病気や不慮の事故で亡くなることもある。やるせないのは、殺伐とした現下の日本では他人によって理不尽に命を奪われることさえ珍しくなくなってきたことだ。
江戸末期に周防国の僧月性が詠んだ七言絶句の漢詩「將東遊題壁」(將(まさ)に東遊(とうゆう)せんとして壁(へき)に題(だい)す)の第四句《人間到処有青山(じんかんいたるところせいざんあり)》は、独立の慣用句としても有名だが、知らない人にヒントとして『人間は世の中、青山は墓地という意味です。』と教えたら、『ああ、わかりました。今の世の中は物騒で、いつどこで命を落とすことになるかもしれないから、あちらこちらに墓穴が開いているようなものだ、ってことですよね。』と答えかねない世情となっている。
それでも私が厭世家にならずに済んだのは、いつもながら、これまで一面識もない多くの方から取材や資料提供等で親身にご協力をいただき、人情の機微に触れる思いをしたからである。
例えば新美南吉記念館の堀崎倫弘氏は拙稿の校閲をして下さり、奈良市教育委員会文化財課の池田裕英氏は太安萬侶(おおのやすまろ)の墓の適当な写真がないからと、わざわざ撮影しに行って下さった。
また、30年ほど前に読んだ「墓と葬送の社会史」(講談社現代新書)の著者で茨城キリスト教大学名誉教授の森謙二先生並びに高名な宗教学者で元国際日本文化研究センター所長の山折哲雄先生からもメールや手紙で親切なご教示を賜った。特に記して深甚なる謝意を表したい。
そして、中西出版の林下英二社長及び中西印刷の藤井雅之課長の両氏には、三度お世話になり、拙著〈消えゆくもの〉三部作が完結したことに心からお礼を申し上げる。
著者 令和4年6月
上記内容は本書刊行時のものです。