書店員向け情報 HELP
情報分析官が見た陸軍中野学校
- 初版年月日
- 2021年5月
- 書店発売日
- 2021年5月10日
- 登録日
- 2021年4月21日
- 最終更新日
- 2021年4月21日
紹介
中野学校は教育機関であってスパイ組織ではない──創設から廃校までわずか七年の歴史であったが、卒業生は二千人以上に及び、世界の至る所で秘密戦や遊撃戦に従事した。その教育方針は諜報・謀略技術の修得よりも、情報勤務者としての判断力や行動力の養成にあった。尋常でない秘密工作に携わる彼らには、孤独を生き抜く強靭な思想と柔軟な精神が求められた。アジア諸国の「民族解放」教育も行なわれ、中野学校で培った「無私の精神」で現地軍に身を投じる者もいた。防衛省情報分析官、陸自調査学校教官を長く務めた著者が、中野学校教育を分析・評価し、秘密戦の本質に迫る!
目次
はじめに 1
第1章 秘密戦と陸軍中野学校 17
秘密戦とは何か? 17
目的が秘密である戦争手段/秘密戦とは「戦わずして勝つこと」/秘密戦と遊撃戦の違
い/極秘マニュアル『諜報宣伝勤務指針』
秘密戦の四つの手段(諜報・防諜・宣伝・謀略)25
「諜報」は秘密戦の基本である/「宣伝」は秘密戦の中で最も知力を要する/秘密戦の主
体は「謀略」/消極的防諜と積極的防諜の違い/防諜は防御的であって最も攻撃的
中野学校に関する誤解の背景 37
秘匿された中野学校の存在/映画『陸軍中野学校』の影響/小野田少尉帰還からの誤解
第2章 第一次大戦以降の秘密戦 44
第一次世界大戦と総力戦への対応 45
総力戦思想の誕生と秘密戦/不十分だった日本の秘密戦への対応
国際環境の複雑化と国内の混乱 47
複雑化する国際環境/二・二六事件と軍部の影響力増大
共産主義の浸透 51
ソ連共産主義の輸出/日本共産党の活動/対日スパイ活動の増大
盧溝橋事件勃発と支那事変の泥沼化 55
盧溝橋事件の勃発/支那事変の泥沼化
第3章 陸軍の秘密戦活動 60
陸軍中央の組織 60
参謀本部第二部の全般体制/陸軍省兵務局の設置/第八課(謀略課)の新編
秘密戦関連組織 64
陸軍技術本部/「陸軍第九技術研究所」(登戸研究所)/関東軍防疫給水部本部(第七三
一部隊)
対外秘密戦の運用体制 70
極東方面での対ソ秘密戦活動 72
特務機関の設置/満洲事変後に関東軍の情報体制を強化/対ソ諜報の行き詰まりとその打
開
中国大陸での対支那秘密戦活動 78
満洲事変以前の対支那秘密戦活動/満洲事変による開戦謀略/土肥原、板垣の謀略工作/
失敗したトラウトマン工作
第4章 中野学校と学生 87
中野学校の沿革 87
防諜機関「警務連絡班」が発足/岩畔中佐の意見書「諜報・謀略の科学化」/後方勤務要
員養成所長、秋草俊/養成所創設に向けた思惑の相違/中野学校創設に反対した支那課
中野学校の発展の歴史 97
中野学校の四つの期/創設期(一九三八年春~四〇年八月)/前期(一九四〇年八月~
四一年一〇月)/中期(一九四一年一〇月~四五年四月)/後期(一九四五年四月~四五年八月)
中野学校の学生 109
入校生の選抜要領/入校学生は主として五種類に分類/各種学生の概要
中野学校および同学生の特徴 116
第5章 中野学校の教育 121
創設期の教育方針と教育環境 121
秘密戦士の理想像は明石元二郎/準備不足の教育・生活環境/校外教官─杉田少佐と甲谷
少佐
創設期の教育課目の分析 130
一期生が学んだ教育課目/判断力の養成を重視/科学的思考を意識した教育/危機回避能
力の取得/実戦を意識した情報教育/実戦環境下での謀略訓練/自主錬磨の気概を養成する
太平洋戦争開始後の対応教育 146
占領地行政と宣伝業務/遊撃戦教育への移行/遊撃戦の基礎となる候察法
中野学校の問題 150
情報理論教育は不十分/秘密保全が情報教育を制約/軍事知識の欠如
中野教育の特徴 158
第6章 なぜ精神教育を重視したか 160
「秘密戦士」としての精神 160
名利を求めない精神の涵養/生きて生き抜いて任務を果たす/自立心の涵養(二期生、原
田の述懐)
楠公社と楠公精神 167
「楠公社」の設立/記念室での正座と座禅/楠公精神を学ぶ
秘密戦士の「誠」173
「誠」とは何か?/民族解放の戦士となれ/武士道と秘密戦との矛盾克服
楠公精神はなぜ重視されたのか 181
第7章 中野出身者の秘密戦活動 184
長期海外派遣任務の状況 184
第一期生の卒業後配置/一、二期生の海外勤務
国内勤務の状況 192
満洲事変以後に諜報事件が増大/軍事資料部での活動/神戸事件と中野出身者
北方要域での活動 196
不透明なソ連情勢/中野出身者の活動
中国大陸での活動 200
和平に活路を求めた政治謀略/日の目を見なかった政治謀略/中野出身者の活動/六條公
館の活動消滅
南方戦線での活動 208
南方戦線の状況/南機関による対ビルマ謀略/「F機関」などによる対インド謀略/蘭印
での中野出身者の活動/豪北での中野出身者の活動/失敗した少数民族工作/人間愛を貫
いた中野出身者の活動
本土決戦 223
沖縄戦と中野出身者の活動/義烈空挺隊と中野出身者/終戦をめぐる工作
第8章 中野学校を等身大に評価する 231
「替わらざる武官」とは何か 231
過大評価が生み出す悪弊/中野学校の創設がもう少し早ければ?/「替わらざる武官」と
は何か/国家としての政戦略がなかった
中野学校への誤解を排斥する 244
秘密戦の誤解を解く/根拠不明な謀略説を排除する/情報学校は中野学校の相似形ではな
い/謙虚にして敬愛心を持つ
インテリジェンス・リテラシーの向上を目指して 255
秘密戦の研究は排除しない/批判的思考で発信者の意図を推測する/インテリジェンス・
サイクルを確立する/愛国心を涵養する/新時代の人材育成のあり方
おわりに 265
主要参考文献 270
上記内容は本書刊行時のものです。