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学問と裁判
裁判所・都立大・早稲田大の倫理を問う
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2022年8月1日
- 登録日
- 2022年6月23日
- 最終更新日
- 2022年8月3日
紹介
学術界に衝撃を与えた「剽窃事件」に、
裁判所は学問的に正しい判決を下せたのか。
学術の存立を脅かす研究不正に対し、
大学は学問の独立に基づく審査を貫けたのか――。
その責を問う!
目次
序 本書の構成
第一部 裁判所への批判
第一章 最高裁判所への批判
第一節 裁判での学問判断 先例「中国塩政史研究論文事件」の教訓
1 事件の概要
2 判決の注目すべき点
3 この判決が示唆する教訓
第二節 最高裁に提出した補充書の無視とその重大性:二つの論文盗用事件の明確な証拠を無視(筆者・堀 和生)
1 原朗「小林英夫氏盗作行為の帰結」の提出と無視
2 早稲田大学学術研究倫理委員会の対応
第三節 本件の最高裁決定をめぐって
1 「最高裁調査官」の存在とその役割
2 最高裁決定と「確定判決」
3 最高裁と下級裁判所
第二章 高裁・地裁判決批判――「訴状」の問題性と被告の「相当性」
第一節 判決の基礎となる言語と論理の誤謬
1 判決の基礎となる「言語」への恐るべき無理解
2 判決における事実認定と論理の誤謬 3 「剽窃」の「定義」の裁判官による「私物化」
第二節 「訴状」の誤読という決定的失策
1 判決における誤った「事実認定」の破滅的な結果
2 地裁の「相当性」論
3 高裁の「相当性」論
第二部 東京都立大学への批判
――大学における研究倫理審査の形骸化(一)
第一章 東京都立大学の厳格な判断と日和見的結論
1 経緯
2 都立大の調査結果の概要――厳格な判断と紛糾回避的結論
第二章 東京都立大学の学位論文調査報告の二重性――研究不正排除の流れに抗って
1 学界における研究不正に関する対応
2 厳格な学術的調査・検証
3 都立大学調査報告の詭弁と隠蔽
4 都立大学は、この調査報告を何故公開しないのか?
第三部 早稲田大学への批判
――大学における研究倫理審査の形骸化(二)
第一章 早稲田大学学術研究倫理委員会の第一の盗用認定
――元山ゼネスト論文の盗用認定と処分結果の隠蔽
1 盗作の発覚と早稲田大学への通報
2 早稲田大学学術研究倫理委員会による調査と結論
第二章 盗用の正式認定とその後の意図的隠蔽
1 早稲田大学の不当な後続措置
2 剽窃が明らかになった図書の出版責任
3 早稲田大学への原「通報書」提出の前提
――早稲田大学学術研究倫理委員会の第一の盗用認定
第四部 早稲田大学への「通報書」(全文)
本通報の趣旨
(通報書)第一部 小林英夫氏著書における盗用行為について
第一 小林氏による盗用行為と通報者との関係
第二 小林氏による裁判所への本件の提訴
第三 法律的判決と学問的審査
(通報書)第二部 小林英夫『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』における盗用箇所
――小林氏著書における原論文からの大量の盗用とその方法
第一 盗用事例の検証 (1)~(15)
第二 総括的な評価
第三 「小林著書の構成・盗用一覧」 多色刷総括表
附 「通報書」提出後の早稲田大学との応答
一〇月三日付 通報者原から早稲田大学学術研究倫理委員会への書簡
一〇月八日付 通報者原から早稲田大学学術研究倫理委員会への不服申立書
早稲田大学から通報者への回答など
第五部 本裁判に寄せられた書評・書評論文(前作『創作か盗作か』をめぐって)
〈1〉 石井寛治 原朗著『創作か盗作か――「大東亜共栄圏」論をめぐって』が提起するもの(東京大学『経済学論集』)
〈2〉 堀 和生 学術剽窃と司法裁判(中部大学『アリーナ』)
〈3〉 疋田康行 偽装盗用の摘発と防止のために(『立教経済学研究』)
〈4〉 柳沢 遊 本棚 原朗著『創作か盗作か』(『月刊東京』)
〈5〉 西川純子 「論文の作法」(東京大学経友会『経友』)
〈6〉 萩原 充 五〇年前にさかのぼる事件(Web版『週刊読書人』)
〈7〉 老川慶喜 研究倫理と研究不正 (「日本経済評論社『評論』)
〈8〉 高橋泰隆 土地制度史学会の頃 (『守護するのか破壊するのか―行田須加熊野神社』)
〈9〉 岩田昌征 一読後感――小林版も読みたい(サイト「ちきゅう座」)
第六部 裁判記録に見る小林英夫氏の主張
Ⅰ 小林氏の裁判提訴への経過:なぜ提訴したのか、小林氏は語る
1 発端―サンフランシスコでの「衝撃」
2 原朗氏による「攻撃」開始
3 政治的イデオロギー的なバッシング
Ⅱ 一九七〇年代半ばの当該領域の研究状況
Ⅲ 裁判での論争の具体的な事例
1 一九七四年学会(土地制度史学会秋季学術大会)
2 「満州第二論文」の受け渡し
3 小林が自著の論理構成を作成した時期
4 「共貧圏」概念・用語の盗用
Ⅳ 原朗氏が盗作を指摘した理由(動機)
[補 論] 本裁判の社会的反響・裁判支援運動と学会での動き (原朗を支援する会)
あとがき
前書きなど
〈本書は「学問」と「裁判」についての一般論を述べようとしたものではない。学問による「真理」の追究と、裁判による「正義」の追求を、一般論として問うことも可能であり、非学問的判決に対する根本的批判として一般的裁判論を展開し、司法が堅持すべき最小限の節度をも無視している現代司法制度の徹底的批判をおこなって、「真理」と「正義」との関係を理念的に論ずることもできよう。大学などの学術機関は「真理」の追求のため誠実に勤務する学者たちによって支えられてきたし、裁判所など司法機関も「正義」あるいは「公平」の実現のため高度に品位ある裁判官や弁護士たちの尽力によって成り立ってきたはずである。しかし、「真理」と「正義」が必ずしもつねに共存しているとは限らない。両者が厳しく衝突することも起こりうる。現代日本の学問と裁判について、「真理」と「正義」の背反を問い「学術」と「司法」あるいは「大学」と「裁判所」が衝突するとき、どのような問題が発生するか。この問題は非常に広範な視野を必要とする。学問と倫理、哲学と宗教、政治と経済、国家と歴史、科学と技術等々。無限に真理を追求するべき学問に対して、本来は研究不正の害毒を摘発して正義を司るべき法律や裁判・法制度とが、現状追随・自縄自縛・制度疲労・劣化により、目に余る惨状を呈しつつあるとき、これらについての一般論的・原理論的基準を示す試みは十分に意義があり、すでに歴史上古くから法学者・法哲学者により精密な議論がなされてきたところである。
しかし、一般論を基礎づけるにはやはり具体論が必要であろう。一般論なくして具体論は位置づけにくいであろうが、生きた具体論がなければ一般論の内容は空疎になる。このように考えて、本書で私は一般論には詳しく立ち入らず、まず具体論に徹することとした。本書はあくまでも私が実際に体験した一連の具体的なプロセスに即して、具体的な、裁判所で裁判官たちが「公平」な裁判を行ったか否か、大学や学会における「研究倫理」の審査が、それを担う研究者・学者によって厳格になされたか否かに重点を置いたことを、ここであらかじめ述べておきたい。〉(「序 本書の構成」より)
上記内容は本書刊行時のものです。