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デフォルメ鏡
認知症者のもう一つの生き方
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年2月4日
- 書店発売日
- 2019年3月29日
- 登録日
- 2019年2月25日
- 最終更新日
- 2019年3月22日
紹介
認知症に対しては、科学的・医学的に究明する立場と、人間主義やノーマライゼイションの立場が主流であり、そこには、なお、認知症者と非認知症者という対立的関係が潜在している。著者は、認知症者と非認知症者の間の差異ではなく、その共通性の認識から認知症者を理解することによって、対立関係を最小化する第3の視点を模索してきた。このような視点から認知症者の言動に接すると、人間の埋もれている、生きる原理さえ垣間見えるようでもある。この視点には、認知症を患いながらも生きる人である〝認知症者〟を通して、人間のもうひとつの姿が映し出されている。
目次
プロローグ
認知症のもう一つの理解
生き方としての認知症/認知症を生きるとは/認知症の人の分かり方/認知症の人のなじみ
症状を活かす
仮性対話/鏡現象
症状の意味
もの盗られ妄想/帰宅言動/代表的な事例――〝誤認〟により安心と拠り処を得る/なじみの関係/代表的な事例――〝なじみ感〟で安心と居場所を得る
認知症者による集団力動
認知症の病型を活かす *4つの病型からのヒント
アルツハイマー型認知症の場合/レビー小体型認知症の場合/前頭側頭型認知症の場合/血管性認知症の場合
認知症者から学ぶもの
集まる力(動物性)/選ぶ力(生物性)/変化する力(生存性)
認知症者による表現
認知症者の道理/認知症者の哀れ/時間と自己の存在感/意識しない生き方/認知症による実存の表現
認知症の治療イメージ
流水と平衡関係/治療における現実の意義――カオスと均衡/認知症と医療
私の認知症高齢者への態度
科学的視点/人間的視点/対立関係を最小化する第3の視点
インタビュー ありのままに生きる認知症者
追録 災害と認知症者
エピローグ
謝辞
前書きなど
プロローグ
長いあいだ認知症者と関わってきた私は、お互いを鏡像の関係のように思うことがある。それはデフォルメ鏡のようなものであって、実像も虚像も、ともに同一人物の異なる姿として現れる。そして、その異なる姿は不可分のものとして、実像と虚像の一体化(ハイブリダイゼーション)が起こる。このような視点で認知症者と相対すると、自分の中で認知症者と繫がり、認知症者の中に自分を発見する。その瞬間、私(実)と認知症者(虚)の境はあいまいとなり、私はもう一人の私に語りかけることとなり、お互いは自身のこととして分かり合える気がしてくる。その時、両者の関係が揺らいでくるようである。
一方で、このような態度は客観性を失い、ミイラ取りがミイラになる危険もはらんでいるが、〝虎穴に入らずんば虎子を得ず〟の反語も浮かぶ。また、両者は静止している存在ではなく、動的状態のため両者には接点があるのみであり、確かさを欠くものにもなる。
両者の境界といえば、生物は、膜により境をされている器官の集合体であり、個体も、膜の衣服を身にまとい他から独立している。精神的存在としての人にも見えない境界があり、その人の独立性を成立させている。更に、この境界面(インターフェイス)は、人と人との関係にとって重要なものであり、自己と他者を認識するために、自己を境界に置いてみる視点や思索の態度も求められる。
私は、一介の臨床家として、認知症者や共に生きる人々のための触媒のような存在でありたいと思う。
本書では、主に、代表的な認知症である、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症について述べる。
緩やかに進行する高齢期の認知症の場合、病型としての差異はあるが、特に、認知症という病態とそれに罹患した人間との関係が対立のみならず融和の側面をも見せてくれる。若年発症の認知症、進行の早い認知症、広範な病変を伴う血管性認知症など、現実生活を大きく覆されたり、不意の発症による侵襲が個人の存在を駆逐するような病態については、災害直後の被害者にも似て、本書の高齢認知症者に対するメンタルケアがすぐに通用するものではないことは、なお、課題として残っている。
*本文では、 私の認知症者に対する視点と理解について述べた。 内容は、特に、医学的知識を求めるものではないが、必要とされる方のために、文中で使用した認知症についての医学的説明や関連用語を、本文の下段に註として付記した。
上記内容は本書刊行時のものです。