紹介
日本での台湾原住民文学への関心と紹介は、時間と空間の環境の差異により、台湾エスニックグループ意識や国家アイデンティティといったもめごとにとらわれず、原住民文学の作品のなかにあらわれた「生存を求める」強い意志を行間から直接汲みとっている。もう一人の「他者」である日本の読者に、「わたし」の台湾原住民の生命世界に飛躍するチャンスを与えているのかもしれません。(孫大川・序より)
日本での台湾原住民文学への関心と紹介は、時間と空間の環境の差異により、エスニックグループ意識と国家アイデンティティのしがらみにとらわれず、直接原住民文学の作品のなかにあらわれた「生存を求める」強い意志を汲みとっています。一字一句の翻訳、一編一編の詳細な読み込みは、もう一人の「他者」としての日本の読者として、あるいは、さらにチャンスがあれば、「わたし」の台湾原住民の生命世界に飛躍しようとしています。(孫大川・序より)
「他者」によって語られた台湾原住民文化・文学論である。原住民族にとっての「他者」である漢族系台湾人たちは、原住民族の文化・文学の出現をどのように受けとめ、とらえたのだろうか。
目次
楊渡_原住民に母語で詩を書かせよう/彭小妍_族群エクリチュールと国民・国家/陳昭瑛_文学の原住民と原住民の文学/傅大為_パイランの森に住む文字の猟人/杜国清_山海の世界/楊翠_アイデンティティと記憶/魏貽君_アイデンティティの戦闘位置/彭瑞金_迷霧を払って祖先の魂を取り戻せ/廖咸浩_「漢」夜いまだ懼るるべからず、なんぞ炬を持ちて遊ばざらんや/王應棠_言語、生命経験、文学創作/邱貴芬_原住民は文学「創作」を必要としているか。/陳雨嵐_出版される台湾原住民/李壬癸_台湾オーストロネシア諸語の分布と民族移動/台湾原住民族文化文学年表_山海文化雑誌社林宜妙編
【解説】「他者」は台湾原住民文学をいかに読むか_下村作次郎
前書きなど
台湾原住民文学の可能性の扉は開けることができるのか_
かつては日本語、つづいて漢語という押しつけられた文字符号という媒介がなければ、原住民文学の創作はどうなるのか。また原住民各族言語の深刻な流失現象という文学創造の危機のなかで原住民文学の可能性を探求する代表的論究。
版元から一言
台湾漢族系台湾人による代表的言説/台湾原住民文学の可能性を探る
著者プロフィール
孫 大川ほか
(そん だいせん ほか) (著)
楊渡/彭小妍/陳昭瑛/傅大為/杜国清/楊翠/魏貽君/彭瑞金/廖咸浩/王應棠/邱貴芬/陳雨嵐/李壬癸
下村 作次郎
(しもむら さくじろう) (編集代表)
1949年和歌山県新宮市生まれ。関西大学大学院博士課程修了。文学博士。天理大学国際文化学部教授。中国現代文学・台湾文学・台湾原住民文学。訳書に『悲情の山地』(田畑書店)、共訳『バナナボート』(JICC)、『抗日霧社事件』(日本機関紙出版センター)などがある。著書に『文学で読む台湾』(田畑書店)、共著に『よみがえる台湾文学』(東方書店)、『台湾原住民族の現在』(草風館)、『〈外地〉日本語文学論』(世界思想社)ほかがある。本選集全体の企画・編集・翻訳に従事。
石丸 雅邦
(いしまる まさくに) (共訳)
1973年広島県呉市生まれ。台湾政治大学大学院博士課程在学。台湾政治・先住民政治及び社会運動。翻訳に「台湾原住民族誌ドキュメンタリーの今昔」(『台湾原住民の現在』草風館、2004)、論文に「台湾921大震災における台湾原住民の状況報告」(『台湾原住民研究』第3号、風響社、1999)、「戦後国民党統治下の台湾先住民族の政治的地位の変遷―1980年代以降―」(『現代台湾研究』第19号、2000)、「戦後における日本統治時代の「理蕃政策」関連文献をふりかえって─日本と台湾の比較」(『台湾原住民研究:日本と台灣における回顧と展望』風響社、2006)などがある。
井手 勇
(いで いさむ ) (共訳)
1964年福岡市生まれ。台湾国立成功大学歴史語言研究所卒業。文学修士。天理教海外部アジア二課員。天理大学国際文化学部非常勤講師。台湾文学。主な翻訳に、陳芳明「植民地主義と民族主義―台湾作家葉石涛の苦境、1940~1950」(『台湾文学研究の現在』緑蔭書房、1999)、林瑞明「民族の抗いの血と涙 台湾文学序説」(『天理台湾学会年報』第10号、2001)など、著書に『決戦時期台湾的日人作家与「皇民文学」』(南台湾文學作家作品集第七期、2001)がある
魚住 悦子
(うおず みえつこ) (共訳)
1954年兵庫県相生市生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士前期課程修了。文学修士。国際交流基金関西国際センター日本語教育専門員。日本語教育、台湾原住民文学と言語の研究。訳書に『抗日霧社事件の歴史』『植民地台湾の原住民と日本人警察官の家族たち』『抗日霧社事件をめぐる人々』(日本機関紙出版センター)、本選集第2巻『故郷に生きる』、同第8巻『原住民文化・文学言説集1』ほか、論文に「台湾原住民族作家たちの『回帰部落』とその後」(『日本台湾学会報』第7号、2005))、「原住民族女性作家の誕生―リカラッ・アウーのアイデンティティー」(『台湾原住民族の現在』草風館)ほかがある。その他、翻訳にシャマン・ラポガン「天使の父親」(『新潮』2007年4月号)がある
多田 恵
(ただ けい) (共訳)
1972年東京都生まれ。東京大学大学院人文社会研究科博士課程満期退学。帝京大学、桜美林大学非常勤講師。言語学(ホーロー語)。主な論文に「検証通用_音」(『海翁台語文学』第46期、2005)、「日本的語文教育模式:日本・台湾語言教育e比較」(『母語文学ti母語教育中e角色』台湾師範大学、2006)がある。
橋本 恭子
(はしもと きょうこ) (共訳)
1956年埼玉県生まれ。一橋大学大学院博士後期課程在学中。比較文学。主な論文に「島田謹二『華麗島文学志』における「外地文学論」の形成」(『比較文学』第47巻、2005)、「島田謹二『華麗島文学志』におけるエグゾティスムの役割」(『日本台湾学会報』第8号、2006)がある。翻訳に阮慶岳「曾満足」(『牛王』熊野大学文集、2005)、汪明輝「二二八事件から見たツォウ族の発展と地位」(『高一生(矢多一生)研究』第5号、2007)などがある。
松尾 直太
(まつお なおた) (共訳)
1968年山口県下関市生まれ。台湾国立成功大学台湾文学研究所博士課程在学中。呉鳳技術学院応用日本語学科専任講師。台湾文学。訳書に『経典金門』(金門県政府、2003)、主な論文に「濱田隼雄の「蝙翅」について」(『天理台湾学報』第11号、2002)、「『台湾日報』「学芸欄」及其主編岸東人」(『台湾文学学報』第8期、2006)ほかがある。
松本 さち子
(まつもと さちこ) (共訳)
1961年兵庫県高砂市生まれ。輔仁大学翻訳学研究所卒業。文学修士。真理大学応用日語学系講師。日本語教育・翻訳。共訳に陳水扁『台湾之子』(毎日新聞社、2000)、本選集第四巻『海よ山よ 十一民族作品集』(草風館、2004)、廖朝陽「土地経験と民族空間―『無言の丘』論」(『記憶する台湾 帝国との相剋』東京大学出版会、2005)がある。
山本 由紀子
(やまもと ゆきこ) (共訳)
1970年福井県生まれ。大阪大学大学院博士後期課程中退。文学修士。同志社女子大学学芸学部講師。日本語教育。主な翻訳に、シャマン・ラポガン「海浪の記憶」(『藍』14号、2004)、呉錦発「流砂の坑」(同15・16合併号、2004)、呉明益「虎爺」(同17号、2005)、也斯「超越と、僕のファックス・マシーン」(同20号、2005)、黄錦樹「友人アブドゥラ」(同21号、2006)、ワリス・ノカン「台湾原住民文学から生態文化を再考する」(本選集第8巻『原住民文化・文学言説集Ⅰ』草風館、2006)ほかがある。