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フィクションとしての家族
近現代ドイツ語圏における家族の文学史
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年3月15日
- 書店発売日
- 2024年4月15日
- 登録日
- 2025年3月18日
- 最終更新日
- 2025年3月26日
紹介
ゲラート/ゲーテ/レンツ/ブレンターノ/グツコー/シュトルム/トーマス・マン/ザルテン/ツュルン/イェリネク/ヴォーディン。18世紀から21世紀までのドイツ文学が描いた家族という虚構を読みほどく。
目次
はじめに(吉田耕太郎)
第1部 家族の黎明:18世紀
第1章 感情とカップル―ゲラート、ゲーテ、レンツの小説を例に(吉田耕太郎)
第2章 「子殺し女」の文学―十八世紀末におけるケア領域の浮上(菅利恵)
第3章 希求され、拒まれる家族―クレメンス・ブレンターノの『ゴドヴィ』を中心に(宮田眞治)
第2部 家族の危機:19世紀
第4章 母親たちの女性解放―19世紀の家庭雑誌とカール・グツコー『家のかまどの団欒』誌(西尾宇広)
第5章 シュトルムの『白馬の騎手』における家族の幻影(藤原美沙)
第6章 良き家族の恵まれた犠牲者たち―トーマス・マン『ブッデンブローク家の人びと』にみる家父長主義的家族(坂本彩希絵)
第3部 家族をめぐる闘争:20世紀から現代へ
第7章 ザルテン『バンビ』に見る家族像―異性愛と父子愛の緊張関係(川島隆)
第8章 近代家族とセクシュアリティ―ウニカ・ツュルンの『暗い春』について(田丸理砂)
第9章 ジェンダー、痛み、悼み―エルフリーデ・イェリネク『スポーツ劇』における「家族」(福岡麻子)
第10章 ナチズムとの対決の場としての「家族」と移民の「家族」(徳永恭子)
おわりに(藤原美沙)
前書きなど
本書「はじめに」より
本書の各論文は、こうした家庭/家族のもつ虚構的な機能というものを強く意識している。それゆえ本書は、歴史人口学としてはじまった、家庭/家族の実証的な家族史研究からおこる批判、例えば「恋愛結婚は、文学作品がつくりあげた理想であり、市民が獲得すべき理想的なプログラムにすぎない」という批判[Burkart: Soziologie der Paarbeziehung, Wiesbaden 2017]に対しては反論するどころか、まさにその通りと引き受ける立場をとることになる。文学が歴史史料たりえないとするこうした批判は、文学テクストのなかに描き込まれた家庭/家族は、作品が執筆された時代の理想的な家庭/家族像、家庭/家族を通して見えてくる社会の変化の兆し、家庭/家族が本質的にはらむ矛盾や問題を描き出すという、文学的テクストのもつ可能性を間接的に示唆するものではないだろうか。例えば、恋愛結婚やそれで結びついた家庭/家族の姿が、文学作品だけでなく、戯曲や映画など様々なメディアを通じて流布することで、恋愛というもののポジティブな価値が形作られ、誰もが恋愛結婚の当事者になるかもしれないという可能性を与え、そして実際に結婚するカップルもでてくるという具合に、文学テクストが構築するフィクションは、一定の具体性をともなった社会的価値をつくりだす制度化の一翼も担っているとわたしたちは考えている。
上記内容は本書刊行時のものです。