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中国近代教育の成立
清末民初の「新学」の解明
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年11月1日
- 書店発売日
- 2021年11月11日
- 登録日
- 2021年10月1日
- 最終更新日
- 2021年10月29日
書評掲載情報
2022-11-20 |
アジア教育
16号 評者: 山本一生 |
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紹介
清朝末期から中華民国初期の教育の近代化はいかに実現したのか。
厳修、羅振玉、張百熙など「新学」の成立に関わった人々、さらには王照や伊沢修二といった言語教育に関わった人々の言動と思想を、政治史・制度史・郷土史にもわたる学際的な視点のもとに検討し、中国における近代教育の受容と形成を読み解く。
目次
序文(呉宏明)
はじめに(山本和行)
第1部 「新学」制度の形成
第1章 清末・民初中国における地方学堂の成立過程について―江蘇省・川沙県の場合を中心として
はじめに
一 川沙の社会文化状況
二 私立学堂の存在と公立小学堂の性格
三 興学活動の実際
四 「郷紳」による学堂設立の内在的要因
むすび
第2章 清末における教育宗旨奏折についての試論
一 厳修の日本視察
二 忠君―国体を保つ論述
三 「尊孔」についての論述
四 「尚公」に関する論述
五 「尚武」「尚実」に関する論述
六 結語
第3章 澄衷学堂及び「澄衷蒙学堂字課図説」について
一 澄衷学堂と南北の教育交流
二 『澄衷蒙学堂字課図説』の特徴
三 結語
第4章 天津の近代初等学堂と紳商
はじめに
一 天津の近代学堂に関する数量的把握
二 教育制度上における天津初等学堂の位相
三 清末天津初等学堂の設立過程とその性格
四 天津における民立初等学堂の推進者と留日学生
結びにかえて
第2部 「新学」の実現を目指した人々
第5章 厳修の新学受容過程と日本
一 厳修と清末の天津初等学堂
二 訪日の契機と交遊関係
三 教育視察
四 結びにかえて
第6章 学部時代の厳修とその周囲の人々
はじめに
一 厳修の交友範囲について
二 『厳修日記』からみた厳修の周囲の人々
三 学部の日常業務と厳修の周囲の人々
おわりに
第7章 清末学政考―厳修『蟫香館使黔日記』を通じて
はじめに
一 学政就任事とかかわって
二 学政赴任の関係事
三 学政の地方按臨について
おわりに
第8章 羅振玉と学部
はじめに
一 羅振玉の学部入部について
二 羅振玉と学部への提言
おわりに
第9章 管学大臣張百熙に関する幾つかの問題
はじめに
一 張百熙と康有為「薦挙」問題
二 官職回復後の張百熙の上疏を通じて
三 張之洞の電文が提起した問題
おわりに
第3部 近代教育と言語
第10章 王照と官話合声字母―一教育救国論者の視点を中心に
はじめに
一 王照の略年譜
二 教育救国論
三 官話合声字母について
おわりに
第11章 漢語切韻史上における「官話合声字母」の意味
はじめに
一 「官話合声字母」を理解するには
二 「合声」と「字母」について
三 「喉音」と「喉唇共成之音母」について
おわりに
第12章 伊沢修二の漢語研究
はじめに
一 漢語研究へのプロローグ
二 台湾にたいする文化統合理念及び植民地教育の展開
三 東亞文化統合活動と日中教育交渉の接点
四 厳修との交友関係及び『東亞普通讀本』の特徴
むすびに
あとがき(中純子)
人名索引
中文要約(潘小苑)
英文要約(M・アイナン)
前書きなど
●「はじめに」より
〔前略〕
本書は、一九世紀末から二〇世紀初頭、清末民初の中国における近代教育の形成過程について、いわゆる「新学」の導入・制度形成と、それを支えた人々の言動および思想について検討し、「近代化」という大きな社会変革のもと、長年、中国の人材供給の根幹であり、政治社会制度の基盤でもあった科挙制度の根本的な転換がどのように実現したのかを解明することに焦点を当ててまとめた論集である。
〔中略〕
中国の近代史研究において、孫青が「近年、現代知識の興起という視点から、近代以降に起きた中国の秩序の全体的変化を考察する学者が増加し、新しい知識体系が伝統権力の正当化に与えた衝撃だけでなく、関係する社会と制度の変遷にも関心が寄せられるようになった」と指摘するように、清末民初の「新学」成立をめぐる動向は、中国近代史研究の重要な焦点のひとつとして注目されている。本書に収録された諸論考は、まさに「近代以降に起きた中国の秩序の全体的変化を考察する学者」としての視点から、「新学」の実現過程を具体的に検証したものとして位置づけられる。そのため、これらの論考は教育史という分野歴史学の枠にとどまらず、清末民初の社会変動をめぐる政治史・制度史、とりわけ科挙制度の盛衰・改廃、および科挙制度に支えられた前近代的国家体制・官僚体制の変革に関する学術的な知見を軸に、郷土史や人物・思想史にもわたる学際的な視点を備えたものとなっている。そうした視点が諸論考の連関構造のもとに浮かび上がるというところに、本書の特徴があるといえよう。
また、こうした広範な視点や多岐にわたる検討を支えるのが、近年の中国で整理・公開が進む豊富な歴史資料である。たとえば、《厳修日記》編輯委員会編『厳修日記』(中国・南開大学出版社、二〇〇一年)は、本書の諸論考をつなぐキーパーソンでもある厳修の、五〇年を超える期間の日記を収録した大部の資料集であるが、本資料の解読と分析の結果が諸論考における検討に多く反映されている。また、一九〇二年六月に創刊された日刊紙『大公報』については、朱鵬教授自身が「二〇世紀初頭の中国憲政運動の過程を知りうるうえでの必須資料」であり、「新学堂の設立、留学生派遣、官民の日本視察及びそれらをめぐる地域郷紳層の動向など、清末教育史の変動過程に関する情報も詳細に記録されていて、資料的な価値が極めて高い」と評価しているとおり、清末民初の「新学」の形成過程を検討するためには欠かすことのできない資料であり、諸論考の分析においても各所で活用されている。そのほか、中国第一歴史档案館や天津図書館などの公的機関が所蔵する一次史料も活用されており、歴史資料に基づく堅実な検討のうえに、清末民初の「新学」の形成を捉えようとする姿勢がうかがわれる。同時に、清末民初から現代に至るまでの、中国の学術研究における研究成果もふんだんに踏まえられており、日本における中国近代教育史の研究成果に連なるばかりではなく、近年、着実かつ飛躍的な進歩を遂げている中国における近代教育史研究の成果をも踏まえたものとして、本書に収録された諸論考を位置づけることができるだろう。
もちろん、残された課題も少なくない。先に触れた孫青が指摘する「現代知識の興起という視点」、とりわけ「近代知識の再生産という問題意識に基づく詳細な考察」は、本書のような形で諸論考を収録・構成したとしても、近年の中国近代史研究で議論されているこうした課題に応えることは難しい。また、近年の中国教育史研究において注目されている女子教育への視点は、本書収録の諸論考からは欠けているといわざるを得ない。こうした課題は本書に掲載した諸論考の発表時期とも関係しているといえるが、同時に、本書収録の諸論考で検討されている内容を踏まえて、まさにこれから考察を深めていくべき課題であるともいえる。そうした意味で、ここに挙げた課題も含め、今後、中国近代史・近代教育史への理解をさらに深めるための針路を本書は提示しているといえよう。本書の研究成果に込められた著者の視線が、これからの研究へと活かされることを願いたい。(山本和行)
上記内容は本書刊行時のものです。