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さまざまな一年 金 志成(編著) - 松籟社
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さまざまな一年 近現代ドイツ文学における暦の詩学

文芸
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発行:松籟社
四六判
縦188mm 横128mm 厚さ28mm
重さ 450g
466ページ
並製
定価 4,800円+税
ISBN
978-4-87984-404-0   COPY
ISBN 13
9784879844040   COPY
ISBN 10h
4-87984-404-7   COPY
ISBN 10
4879844047   COPY
出版者記号
87984   COPY
 
Cコード
C0098
一般 単行本 外国文学、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2021年3月31日
書店発売日
登録日
2021年3月11日
最終更新日
2021年3月25日
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紹介

ドロステ=ヒュルスホフ/ゲオルゲ/カフカ/ムージル/バッハマン/ヨーンゾン/ツェラン/ヴォルフから読み解く文学における「一年」の作用

目次

序文(金志成)

第1章 天上の旋律、地上の象徴――暦を巡る思考の冒険(香田芳樹)
 暦の誕生
 戦争、航海、利子が刻む時間
 歪んだ暦
 宗教と呪術の暦
 オヴィディウスからボッティチェリへ

第2章 瞬間と円環――アネッテ・フォン・ドロステ゠ヒュルスホフ『教会の一年』(西尾宇広)
 はじめに――「悪魔的速度」と「教会の一年」
 一九世紀――「迅速化」と「世俗化」の時代
 「迅速化」の世代と「現代の様式」――グツコー
 暦物語と周期的な時間――へーベル
 小括――一九世紀前半における時間意識の振幅と競合
 「現在」と「百年後」のあいだ――ドロステ゠ヒュルスホフ
 未完の円環――『教会の一年』の基本構造
 執筆の中断――「青春の破局」と「親愛なる母」への献辞
 円環の亀裂――「元日」と「一年の最後の日(大晦日)」
 世俗の瞬間――「信仰」と「愛」
 おわりに――円環のなかの瞬間あるいは規範のなかで書く女性

第3章 一回性と反復性――シュテファン・ゲオルゲ『魂の一年』(小野寺賢一)
 初期ゲオルゲにみられるフランス象徴主義の影響と伝統主義的な心性
 ゲオルゲの芸術理念とボードレール受容
 ベンヤミンのゲオルゲ批判とその問題点
 『魂の一年』第二版序文によるゲオルゲの戦略
 『魂の一年』の循環構造――一回性と反復性
 「プラトン的」な愛の「勝利」
 「魂の一年」の詩学――ゲオルゲとヘルダーリン177

第4章 終わらない一年――フランツ・カフカ『訴訟』(川島隆)
 終わる『訴訟』と終わらない『訴訟』
 フェリーツェへの手紙に見る時間感覚
 「もう一つの訴訟」
 引きのばされる訴訟、増殖する物語
 原稿の編集をめぐる議論①ブロート版
 原稿の編集をめぐる議論②批判版
 原稿の編集をめぐる議論③史的批判版
 遷移する小説『訴訟』

第5章 解体していく〈一年〉が形づくる理念――ローベルト・ムージル『特性のない男』(宮下みなみ)
 忘却と再発見
 見失われた大前提――〈一年〉の物語として
 〈一年〉コンセプト形成の軌跡
 「物語の糸」に抗して
 官僚制度と引き延ばしの時間原理
 自然科学的な時間と知覚の変容
 神秘体験の瞬間性
 非完結性と「可能性感覚」

第6章 区切りの前の一年――インゲボルク・バッハマン「三十歳」(山本浩司)
 三十歳――「やんちゃ」と「かたぎ」のあいだ
 〈一年もの〉の系譜における「三十歳」
 「年」「歳」そして「都市」
 戦後文学の「紅一点」
 死後の名声
 ライフストーリーの定型くずし
 待機の構図

第7章 暦に響く倍音――ウーヴェ・ヨーンゾン『記念の日々』(金志成)
 ヨーンゾンの年――『記念の日々』への導入
 表題の二重性――「記念の日々」と「一年の日々」
 プラハの春と「現実」
 物語と書くことの交差――メタフィクション的読解
 一回性と反復性の弁証法
 暦と想起
 「記念日」としての命日
 自動化する「一年の日々」

第8章 「子午線」あるいは円環の詩学――パウル・ツェランにおける日付(関口裕昭)
 ツェランの詩作と日付
 暦から見るツェランの生涯
 二月一三日――「合言葉」、「ひとつになって」
 七月一四日――「コントルスカルプ広場」
 一月二〇日――詩論「子午線」

第9章 習慣としての記録――クリスタ・ヴォルフ『一年に一日』(松永美穂)
 『一年に一日』を読む
 ヴォルフの平均的な一日
 執筆中の作品への言及
 同時代の作家との交流
 ヴォルフの変化――社会主義への態度
 ヴォルフの苦悩――病気について
 書くことへの考察
 家族と幸福について
 本書からアーカイブまで

あとがき

前書きなど

●本書「序文」より(抜粋)

 本書の構成の概観を四つの時代区分に整理しながら示しておく。
 第一章では、古代から中世にかけての暦をめぐる言説およびイメージの変遷を辿る。同章では(ドイツ語圏以外をも含む)文学作品にとどまらず、宗教や哲学、美術史、天文学などの言説を横断しながら、「近現代ドイツ文学における暦の詩学」へのさらなる導入として、包括的な文化史の記述を試みる。

 第二章および第三章では、アネッテ・フォン・ドロステ゠ヒュルスホフ『教会の一年』(一八五一)およびシュテファン・ゲオルゲ『魂の一年』(初版一八九七)という一九世紀の二作品をそれぞれとりあげる。ともに表題からして「一年」というコンセプトを明確に打ち出す両連作詩は、教会暦や古代ギリシアの暦への依拠など、前近代的ないし反近代的な形式を一見持っているが、同時代の「迅速化」言説やボードレールのモダニティー美学の影響など、近代性の契機を確かに孕んでいることが分析される。

 第四章および第五章では、フランツ・カフカ『訴訟』(一九一四―一九一五執筆)およびローベルト・ムージル『特性のない男』(一九三〇/三二)という二〇世紀前半の長編小説にそれぞれ焦点を当てる。前者は主人公が三十歳の誕生日に逮捕されてから三十一歳の誕生日前夜に処刑されるまでを描き、後者は一九一三年八月に始まり翌年夏の第一次世界大戦勃発とともに終わる構想を持っていたものの、ともに物語上の展開においては「一年」という時間的枠組みそのものは後景化し、かつ未完に終わっている点に共通した特徴がある。だが、まさにそれゆえに、ドイツ語圏のモダニズム文学を代表する両作品においては、近代と暦をめぐる逆説的な緊張関係がもっとも先鋭化しているともいえる。

 第六章から第九章にかけては、インゲボルク・バッハマン、ウーヴェ・ヨーンゾン、パウル・ツェラン、クリスタ・ヴォルフの四人の戦後作家をそれぞれとりあげる。中心的な対象となるテクストのジャンルが四者四様であることからもわかるように、この時代の特徴はひとことで言えば多様化ということになるだろう。

 バッハマンの短編「三十歳」(一九六一)は、誕生日を基準にした「一年」を個人の生から切りとるという点でカフカを踏襲している面もあるが、節目の瞬間そのものではなく、それを迎えるまでの時間に照準を合わせることに独自性が見られ、かつこうした「待機の構造」は、彼女の詩作一般に通底する要素であることがわかる。

 ヨーンゾンの四巻本の長編『記念の日々』(一九七〇―一九八三)は、一九六七年から六八年にかけての特定の「一年」を時間的な枠としつつも、暦における「記念日」の反復性を巧妙に用いることによって、主人公の家族史をも含む近現代史の想起が織り込まれる。本書の全対象作品のなかでも、「一年」というコンセプトを最も明確に意識した作品であるといえる。

 これまでに挙げた六作品が「一年」を確たる枠組みとしていたのに対して、ツェランとヴォルフにおいて詩作の重要な動機となるのは、「一月二〇日」や「九月二七日」といった特定の日付である。ただし両者もまた、日付の年ごとの回帰性に重点を置く限りにおいて「一年もの」の変種と捉えることができ、第八章および第九章は本書全体の議論を補完する役割を担う。

 ツェランがビューヒナー賞受賞講演において、すべての詩には「一月二〇日」が刻印されていると述べるとき、この日付はヴァンゼー会議という一九四〇年の一回的な出来事だけでなく、それは死者たちへの繰り返される追憶を示すものとして、円環的な「子午線」を描くことになる。

 一九六〇年から二〇〇〇年までの四十年間を「九月二七日」という定点から観測するというコンセプトを持つヴォルフの『一年に一日』(二〇〇三)は、水平軸で描かれることの多い「一年」を垂直軸に置き換えている点で興味深く、これを取り込むことによって、「一年」が持つ美的な構成原理としての射程がより一層明確になるだろう。

著者プロフィール

金 志成  (キム チソン)  (編著

早稲田大学文学学術院講師(任期付)。主な業績として、著書に『対話性の境界―ウーヴェ・ヨーンゾンの詩学』(法政大学出版局、2020年)、翻訳書にトーマス・メレ『背後の世界』(河出書房新社、2018年)などがある。

香田 芳樹  (コウダ ヨシキ)  (

慶應義塾大学文学部教授。文学博士(広島大学)、Ph. D.(スイス・フライブルク大学)。主な業績として、著書に『マイスター・エックハルト―生涯と著作』(創文社、2011)、『魂深き人びと―西欧中世からの反骨精神』(青灯社、2017)、翻訳書にマクデブルクのメヒティルト『神性の流れる光』(創文社、1999)などがある。

西尾 宇広  (ニシオ タカヒロ)  (

慶應義塾大学商学部准教授。主な業績として、共著・編訳に『ハインリッヒ・フォン・クライスト―「政治的なるもの」をめぐる文学』(インスクリプト、2020年)、共訳にヴェルナー・ハーマッハー「《共に》について/から離れて―ジャン゠リュック・ナンシーにおける複数の変異と沈黙」(『多様体 第2号』月曜社、2020年)などがある。

小野寺 賢一  (オノデラ ケンイチ)  (

大東文化大学外国語学部講師。主な業績として、「マルガレーテ・ズースマンの「抒情詩の私(das lyrische Ich)」概念におけるゲオルゲの影響」(『ワセダ・ブレッター』第27号、2020年)、「ヘルダーリンの頌歌『キロン』における固有名の機能」(前田佳一編『固有名の詩学』所収、法政大学出版局、2019年)、「ベンヤミンの〈凱旋記念塔〉―凱旋記念塔のフリーズの図像分析に基づく読解」(『ワセダ・ブレッター』第25号、2018年)などがある。

川島 隆  (カワシマ タカシ)  (

京都大学文学研究科准教授。主な業績として、著書に『カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟』(彩流社、2010年)、訳書(共訳)に多和田葉子編『ポケットマスターピース01 カフカ』(集英社、2015年)などがある。

宮下 みなみ  (ミヤシタ ミナミ)  (

慶應義塾大学、テュービンゲン大学後期博士課程。主な業績として、共著書に„Grenze-Überschreiten: Analyse der Raumdarstellungen in Die Versuchung der stillen Veronika und Der Mann ohne Eigenschaften“. In: Mechthild Duppel-Takayama, Wakiko Kobayashi u. Thomas Pekar (Hrsg.), West-östliche Raumfigurationen: Wohnen-Unterwegssein. Transcript 2019. „Jenseits des »Seinesgleichen« ―Robert Musils endlose Suche nach der neuen Form von Welt/Literatur―“. In: Japanischen Gesellschaft für Germanistik (Hrsg.), Zäsuren-Welt/Literatur. Beiträge zum 58. und 59. Kulturseminar der Japanischen Gesellschaft für Germanistik. Iudicium 2020.などがある。

山本 浩司  (ヤマモト ヒロシ)  (

早稲田大学文学学術院教授。主な業績として、訳書にヘルタ・ミュラー『狙われたキツネ』(三修社、2009年)、『息のブランコ』(三修社、2011年)などがある。

関口 裕昭  (セキグチ ヒロアキ)  (

明治大学教授。京都大学博士(文学)。主な著書として、『パウル・ツェランへの旅』(郁文堂、2006)、『評伝 パウル・ツェラン』(慶應義塾大学出版会、2007)、『パウル・ツェランとユダヤの傷〈間テクスト性〉研究』(慶應義塾大学出版会、2011)、『翼ある夜 ツェランとキーファー』(みすず書房、2015)などがある。

松永 美穂  (マツナガ ミホ)  (

早稲田大学文学学術院教授。主な業績に、論文「複数言語によるテクストと、その翻訳について考える」『創作システムとしての翻訳』、日本独文学会研究叢書139,2020年。Christine Ivanovic/Miho Matsunaga: Tawada von zwei Seiten - Eine Dialektüre in Stichworten. In: TEXT + KRITIK, 191/192 Yoko Tawada. Hrsg. Heinz Ludwig Arnold, edition text + kiritik, 2011. 訳書にベルンハルト・シュリンク『オルガ』、新潮社、2020年ほか。

上記内容は本書刊行時のものです。