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子どもの性欲の近代 小泉友則(著/文) - 松籟社
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子どもの性欲の近代 幼児期の性の芽生えと管理は、いかに語られてきたか

発行:松籟社
四六判
縦188mm 横128mm 厚さ36mm
重さ 600g
496ページ
上製
価格 4,200円+税
ISBN
978-4-87984-391-3
Cコード
C3021
専門 単行本 日本歴史
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2020年6月30日
発売予定日
登録日
2020年6月3日
最終更新日
2020年6月25日
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紹介

江戸時代は子どもの性に寛容な面ばかりなのか/手淫はいかに問題とされたのか/女児の性を指標とした「文明と野蛮」/性に関する教育の登場/「子どもはどこから来るの?」に大人はどのように向き合ったのか
近世後期から明治期の史料から読み解く「子どもの性欲」への欲望

目次

序章 「子どもの性」の歴史研究における方法をめぐって
 1 問題関心
 2 欧米における先行研究―エリアス、アリエスからデュルへ
 3 日本における先行研究
  3-1 民俗学・風俗史的研究
  3-2 セクシュアリティ研究、性科学史研究、性教育史研究
  3-3 発達心理学や精神分析領域における記述、その他の研究
  3-4 先行研究のまとめ
  3-5 児童観や児童文化に関する歴史研究、教育史研究の新たな領野に向けて
 4 研究方法
  4-1 本書の目的と意義について
  4-2 フーコーの示唆
  4-3 史料記述上の子どもの同定について
  4-4 史料のありようから研究方法を考える
  4-5 採用する研究方法
  4-6 調査対象史料について
5 本書の構成

第1章 近世後期における子どもの色情・色欲に関する学的知識・認識
 1 調査対象史料について
 2 子どもという存在について
 3 性的情報からの隔離を求める主張
 4 子どもの持つ性的欲望・現象は語られているか
 5 医学書に見る子どもの性的欲望・現象―洋学流入による新たな情報の登場
 6 本章のまとめ―欧米の医学知識がもたらしたもの

第2章 明治初中期における子どもの色情・色欲に関する学的知識・認識
 1 対象史料について―性的欲望・現象に関する知識に言及する分野を特定するために
 2 医学書、養生書、衛生書、教育書
 3 生殖論系書籍(「造化機論系」書籍)なるものについて
 4 生殖論系書籍の由来
 5 近世日本において生殖論系書籍と見なせるものはあるか
 6 明治初中期における子どもの性的欲望・現象に関する主張の特徴
  6-1 「春機発動期」の設定と子どもの存在
  6-2 子どもの手淫について
  6-3 子どもの性的早熟について
  6-4 教育的抑制策
  6-5 小括
  6-6 医学書籍との一致
  6-7 まとめ―子どもの性的欲望・現象に関する三つのまとまった主張

補章 3章・4章・5章・6章共通の使用史料群についての補足情報
 1 調査対象図書と明治後期における性研究の進展
 2 使用雑誌の詳細
 3 明治後期における子どもの存在について

第3章 子どもの手淫の問題化
 1 日本における手淫の医療化と教育化
  1-1 医学・教育領域において論じるに値しはじめる手淫
  1-2 明治期における手淫と医療
  1-3 雑誌『衛生新報』から見る手淫の害
 2 子どもの手淫への言及とその意味
 3 子どもの手淫の区分
 4 日本における子どもの手淫の登場
 5 明治初中期における子どもの手淫への言及のあり方
 6 明治後期における子どもの手淫論
  6-1 通俗的な生殖論系書籍、衛生書、教育書から見る子どもの手淫論
  6-2 医学書、医学・教育雑誌など、学術的見解から見る子どもの手淫の害
  6-3 子どもの手淫に関する事例研究
  6-4 子どもの手淫に関する実態調査研究
 7 医学者における認識の差異と乳幼児期の手淫理論の登場―アルベルト・モルの登場とフロイト理論の萌芽
 8 まとめと考察―日本の性科学の発展をもたらした、子どもの手淫論

第4章 女児の性的早熟論とその理論的基盤の展開―子どもの性的欲望・現象が語られていくことに含まれる植民地主義的視点
 1 女児のみが問題化される主張
 2 先行研究
 3 近世後期における早期月経、早婚、早期出産への注目のあり方
 4 明治初中期における女児の性的早熟論と環境要因論の複雑さ
 5 女児の性的早熟論にある環境要因論の様態(総合遅速理論)のまとめ
 6 明治後期にも論じられ続ける女児の性的早熟論
 7 検討・研究の材料となる総合遅速理論
 8 女児の性的早熟論と植民地主義
 9 両性の子どもの性的欲望・現象の問題にも用いられる総合遅速理論
 10 まとめと考察―女児の性的早熟論が残したもの

第5章 性に関する包括的な教育論の登場と展開―性育、性欲教育、性教育
 1 「性欲教育」「色情教育」とは何なのか
 2 先行研究
 3 概念化以前―近世期
 4 概念化の登場
 5 「性欲教育」(性的欲望教育)の登場
  5-1 1900年から1906年の動向―持続する「性育」論
  5-2 1907年以降の動向
  5-3 明治末期の動向
  5-4 そして、「性教育」概念の誕生
  5-5 「性知識を与える」という発想から登場した性に関する包括的な教育論

第6章 「誕生に関する質問」への問題化と「性欲」化
 1 「性欲」と関連するとして問題化される子どもの質問
 2 発端と先行研究
 3 誕生に関する質問と心理学的教育研究
  3-1 前史
  3-2 誕生に関する質問の登場と心理学的教育研究の勃興
 4 児童研究と誕生に関する質問
 5 誕生に関する質問の「情欲」「性欲」化
 6 専門的議論の登場
 7 子どもへの返答法の専門的議論の登場
 8 近代は子どもの好奇心を「性欲」化する

終章 日本近代における子どもの性欲化現象から見えること
 1 本書のまとめ
 2 先行する諸研究を踏まえた結論
  2-1 日本のセクシュアリティの歴史研究への新知見と内発的発展論の考察
  2-2 日本の性科学研究への新たな知見
  2-3 無垢な児童像の並列関係としての子どもの性欲化
 3 「子どもの性」の歴史性に着目するということ


あとがき
索引
参照・引用文献一覧
初出一覧

前書きなど

本書「終章」より抜粋

 先行研究で子どもの性的欲望・現象が歴史記述の対象とされる際、しばしば前近代、あるいは文明化前の時代における子どもの性的な自由さが着目されてきた。そこでは近代化後の性的態度の厳格さと対比して、それより前の社会は性的に寛容で、子どもと性的情報とのつながりは極めて緩やかだったとされる。また、そのような環境は子どもを性的に早熟にしていたとすら言われることがある。そのようなことを、現代の学識者たちは主張してきた。

 ただし、本書は、そのような論調に合わせるものとはなっていない。本書では、前近代の日本の教育・医学史料の、子どもには性的情報に触れさせてはならないとする主張を見てきた。また、近世後期の学識者が、子どもの性的欲望・現象がいかなるものであり、その存在が何を意味するのかということに、特に関心を持っていないさまも指摘してきた。近世後期には、子どもが性的欲望・現象と関連のある存在として具体的な様態を記述することに、学的価値は認められていなかったのである。

 しかし、近代以降の学識者は、子どもには「性欲」があり、それに伴う性的現象があると主張する。そのうえで、子どもの性的欲望・現象は、学術的な研究対象でもあるとする。その際、子どもが手淫をすることや性的関心を持つという「実態」を把握しながら、具体的に研究が進めていった。それに加え、子どもへの性的情報の規制が弱い状態や、子どもが性的に早熟であることが、「未開」「野蛮」「非文明」をあらわすと主張されるようになった。このことからは、子どもに性的欲望・現象があることに着目し、その「実態」を把握し、学的知識として発表する態度は、極めて近代的な営為であったことが理解できる。ただし、その「実態」の把握のありようは、綿密で客観的な科学的観測によって導かれたものでは必ずしもない。

 以上のことは、子どもの性的欲望・現象を歴史記述の対象としてきた先行研究の状況を考えるうえでも、非常に興味深い事実である。すなわち、学識者らが、子どもの性的欲望・現象に着目し、かつ、前近代の社会に焦点を当て、その社会の子どもが性的情報に晒されていた、あるいは性的にふるまっていたと過去の社会を批評する行為は、「前近代で非文明=性的寛容で性的早熟」というような、近代的な観念が先行した客観性を欠いた行為かもしれないのである。そして、この懸念は、本書冒頭で紹介した、ほんの数例の史料を引用し、過去の社会は子どもに対して性的に寛容であったと主張する研究があることを見るとき、真実味を増してくる。我々の社会においては、過去の社会が子どもに性的規制を行っていなかったと多少述べ添えるだけで、難なくそのように理解できてしまう磁場があるようである。このことから、情報を発信する研究者も、その受け手も、子どもの性的欲望・現象をめぐる「言説にとらわれている」可能性を指摘することができる。今後、子どもの性的欲望・現象についての歴史的な研究は、以上のようなことを踏まえ検討を進めなければならないだろう。

 そもそも、「子どもの性」というトピックについては、当事者である子どもは、それについて語る術がないことや聞き入れてもらえないことが多く生じる。それゆえに、子どもの性的欲望・現象は、しかじかのものであるとして大人たちが規定しやすいものである。そして実際に規定される際には、単純な情報の提示以上の、特定の大人の持つ価値観が付随するという現象も見られるのである。これを考えれば、子どもの性的欲望・現象に関する学的知識・認識を大人が語ることは、それがどのような方向性であるにしても、一種の権力性と暴力性をはらんでいると言えるのではないだろうか。本書で見てきたことは、そうした事例の代表と言えるものである。

版元から一言

 本書は、近世後期から明治期における、思春期以前の「子どもの性欲」をめぐる学識者の主張を分析し、「小さな子ども」の「性欲」の問題が学識者によって語られていたことを明らかにしながら、「無邪気で無垢な子ども観」と「性的な子ども観」が同時進行的に近代に生じたことを論じています。
 近代日本においては、「子どもの性欲」という問題をめぐって、これまで考えられてきたよりも非常に数多くの議論が展開されていました。例えば、植民地主義的思想の影響で「女児の性的早熟」という現象が学識者に着目されていました。「わたしはどこから生まれたの?」という子どもの「誕生に関する質問」が、子どもの「性欲」の発生に関わると問題化されていました。また、近代における世界的な「性教育」論のムーブメントが、日本における「子どもの性欲」をめぐる議論の起爆剤の一つとなったことも、詳細な「性教育」の歴史研究の振り返りの中から明らかにされています。
 セクシュアリティの歴史研究、教育史・児童文化史研究に新たな知見をもたらす、著者初の単著です。

著者プロフィール

小泉友則  (コイズミ トモノリ)  (著/文

1987年生まれ。
2012年3月、京都精華大学人文学研究科人文学専攻修了。
2015年4月、日本学術振興会特別研究員(DC2)。
2018年3月、総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本研究修了。博士学位取得(学術)。

 現在は関西大学・立命館大学・京都精華大学・京都文教大学・神戸看護専門学校非常勤講師。また、世界人権問題研究センター登録研究員。
 専門はジェンダー・セクシュアリティと教育研究。
 主な業績に、「校長講話の基礎研究―「校長の職務」における校長講話の「重要性」―」『年報 教育の境界』16号(2019年)、「統廃合によって学校がなくなった都市近郊地域のその後―京都府相楽郡南山城村高尾地区」(共著者:中西宏次)中島勝住・中島智子編『小さな地域と小さな学校―離島、廃校、移住者受け入れから考える』明石書店(2020年)、「お母さん/お父さん、ワタシ/ボクはどこから生まれたの?」への返答法の歴史:子どもの心の観察から性の教育へ」『女性学年報』37号(2016年)など。

上記内容は本書刊行時のものです。