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メキシコの悲哀
大国の横暴の翳に
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2010年11月
- 書店発売日
- 2010年12月10日
- 登録日
- 2010年12月14日
- 最終更新日
- 2010年12月14日
目次
第一章 テキサスからカリフォルニアまでの領土喪失
一.メキシコの独立と米国の西漸
二.テキサスへの米国人の入植
三.テキサス独立戦争
四.米国によるテキサス併合と米墨開戦
五.メキシコ敗戦と領土喪失
六.「天国から斯くも遠く」
第二章 国境の移動に翻弄されたメキシコ人
一.「メキシコ野郎を吊るしちまえ」
二.メキシコ人に法的庇護なし
三.テキサス・レインジャー
四.コルティーナの叛乱
五.サンディエゴ計画
六.サンディエゴ計画とメキシコ、そしてドイツ
第三章 フィリバスターのメキシコ北西部侵蝕
一.フィリバスター
二.米墨戦争後のメキシコ北西部
三.ソノラを狙ったフィリバスター
パンドレおよびラウセ=ブルボン / ウォーカー / クラブ
四.フィリバスター去って
五.ソノラ残ったれど
第四章 フランスよ、お前もか
一.メキシコにとってフランスとは
二.フランスのメキシコへの侵攻、ケーキ屋戦争
三.マキシミリアン帝政
四.クリッパトン島をめぐる墨仏両国の争い
五.フランスよ
第五章 ブラセロ・プログラムに見る米国によるメキシコ人労働力の利用
一.北に流れるメキシコ人
二.ブラセロ・プログラムの導入
三.ブラセロ・プログラムの継続と廃止
四.米国にとってのメキシコ人労働力
第六章 アリゾナにおけるメキシコ人への凌虐から
一.ハニガン事件・裁判
二.ハニガン事件に見出されるもの
三.米国におけるメキシコ人の地位
前書きなど
……ロスアンジェルスのみならず、サンフランシスコ、サンディエゴ、サクラメントと、カリフォルニア州の著名な都市名はスペイン語起源である場合が珍しくない。それはとりもなおさず、同州がメキシコ領であったればこそである。カリフォルニアに限らず、ネバダ、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサスなど、米国南西部はかつてスペイン領であり、メキシコの独立後はメキシコ領であった。
しかし、これらのメキシコ領は、ペリー提督率いる、いわゆる黒船が浦賀沖に現れ、江戸幕府に開国を迫る頃までには、全て米国領となっていた。米国は、陸続きの範囲での勢力拡大を果たして海に乗り出し、太平洋の対岸にまでやってきたのだった。そのことは日本の行く末に多大な影響を及ぼしはしたが、日本はメキシコのように領土を蝕まれることはなかった。メキシコはといえば、米国に領土を大幅に譲ることを余儀なくされ、両国間の国境は西に、そして南に移動し、メキシコの国土面積は独立時の半分以下となったのだった。その移動の殆どが戦争の結果であり、メキシコの望まぬものであった。望まぬ国境の移動に抵抗したメキシコ人もいた。メキシコの領地をさらに侵蝕しようとの米国側からの試みもあった。さらに、メキシコの憂いは米国に起因するものばかりではなく、大西洋の彼方から押し寄せる侵蝕の波もあった。また、十九世紀末以来、メキシコ人は米国に働きに行っているが、そこは、以前は自国領であった。かつて自分の国だった土地で、多くの場合、不法入国者として、底辺労働に甘んじさせられているのである。
米墨戦争史を著書にまとめたアイゼンハワーは、そのタイトルを『天国から斯くも遠し』としているが、その源は「哀れなるかなメキシコ、天国から斯くも遠く、米国に斯くも近し」と嘆いたメキシコ人の言葉である。アイゼンハワーは、著書のタイトルのとおり(天国から遠い)メキシコの運命は酷なものだったとしながらも、米国ばかりが責めを負うべきでないとも記している。彼の記述にあるように、メキシコ国内の問題や他国(イギリスなど)の思惑も考えなければならないとはいえ、「米国に斯くも近し」がメキシコの最大の災いであったというのが本書の立場である。今日、陰りが指摘されているとはいえ、まだまだ世界をリードする超大国たる米国。その南の隣国は、それゆえ、即ちそのような大国と隣接していたがゆえに、大いなる悲哀に塗れてきたものであった。
本書は大国に蹂躙されてきた国、メキシコの、悲哀の歴史の一面を、あくまでもメキシコの立場から辿ろうというものである。アイゼンハワーはその著書を、資料上の制約もあってのことと、ことわってのことながら、「米国側の視点で」書いたとしているが、彼の「米国側」以上に、本書は「メキシコ側」からのものであろう。……
上記内容は本書刊行時のものです。