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アマミゾの彼方から
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年6月20日
- 書店発売日
- 2023年5月25日
- 登録日
- 2023年4月19日
- 最終更新日
- 2023年5月18日
紹介
奄美の海で、嵐に遭い、父が行方不明になった。
その時から、言葉を失い、心が壊れてしまった少年が、シマでの生活のなかで、少しずつ立ち直っていく再生の物語。
物語は奄美大島の伝統的な祭りを軸に、ノロやユタ、ケンムンなどが登場し、「生と死」、神様を身近なものとして生活のなかに豊かに取り込む精神世界を時々に織り交ぜながら、印象深く進んでゆく。
目次
序章
第一章 奄美のシマに帰って
シマに帰って/ノロの照おば/ユタとコウマブリ/シマの友達/シマの助けあい
第二章 不思議なシマの生活
芭蕉布の祈り/ケンムンの悲しみ/高潮に襲われて/アラホバナのお祭り/宝貝の『生』と『死』/七夕さま
第三章 僕のマブリが強くなった
浩がハブに襲われた/アダンの海辺/ニライカナイゴウナ/母さんがシマにやって来た/父さんと母さんの出会い/僕が生まれて
第四章 父さんと会って
父さんのマブリ/アラセツのお祭り/シバサシのお祭り/ネリヤの国から/ドンガのお祭り/ネリヤの国へ
終章
あとがき
前書きなど
あとがき
私は三九歳の時に、幼い頃から私を可愛がってくれ、大好きだった兄を、病気で亡くしました。私は悲しみの底にありました。その中から、人間の生と死の問題を、文学研究を通して、追究しようという気持ちが芽生えました。
翌年、母校の大学院に入学して、福永武彦の作品について勉強をしました。修士論文に、彼の『ゴーギャンの世界』を取り上げました。
執筆が進むに連れて、ゴーギャンが求め続けたという、タヒチの死後の魂を信じる不思議な世界に、私自身も引き込まれていきました。
博士課程では、島尾敏雄の妻であるミホさんの作品を知り、日本の南の島奄美に、タヒチと通じるものがあることを見出しました。
それから六年間、私はミホさんに会いに、毎年奄美を訪れました。ミホさんの作品を理解するために、奄美の民俗学も学びました。また、奄美の祭りを体験したり、ノロやユタの方々ともお会いすることができました。
それらを通して、ネリヤカナヤの神様を中心とした、生と死が混在する奄美の奥深く、尊い精神世界に触れ得ることが叶いました。
ある日、ミホさんを訪れると、「今朝は、島尾と楽しく話ができました」と、ニコニコ笑って言われました。ミホさんにとって、亡くなった島尾敏雄と交流することは、ごく自然なことのようでした。ああ……、私も亡くなった兄と、こんなふうに語り合えることができたら、どんなに幸せなことかと思いました。
私がいくら努力しても、島んちゅ人の心にはなりきれません。でも、私が知った奄美の、もう一つの大切な側面である神秘的な心の世界を、この『アマミゾの彼方から』を通じて、日本国中の方々にお伝えできればと願っております。それも、次世代に受け継つ
がれるべき世界遺産だと思うのです。
海風社の作井文子さんが、この『アマミゾの彼方から』を自社の南島叢書に入れてくださいました。奄美を憧憬し続けてきた私にとって、この上ない喜びです。この場をお借りして、深く御礼申し上げます。
また、南海日日新聞の松井輝美さんには、奄美の深層からの帯へのお言葉や、作品に
ついての丁寧で細やかなアドバイスを、いただきました。
イラストレーターのyukamさんは、奄美に心を寄せた絵を描いてくださいました。奄美出身の黒川さんからは、色々な奄美の生活や言葉について教えていただきました。
この『アマミゾの彼方から』が、たくさんの方々のご尽力により、刊行されますことに、心より感謝いたします。
ゴーギャンは、『我われ々は何処から来たか、我々とは何か、我々は何処へ行くのか』
という大作を遺しました。これは、彼にも、たどり着けなかった人間の謎でしょう。
でも今私は、それを真剣に考え、追い求めていくプロセスの中に、意味があるのではないかと考えるようになりました。
二〇二三年 春
鳥居 真知子
版元から一言
世界自然遺産に登録された奄美大島は世界に誇れる自然環境に加え、島尾敏雄のヤポネシア論にあるように、かつての日本の村々にあって、今は失われてしまった豊かな精神世界が息づいているところです。
人と自然、自然に宿る神々とをつなぐシャーマニズムが生活に溶け込み、「生」と「死」が非常に近い形で感じられる稀有な場所といえます。
その奄美を舞台に、著者は一人の少年のこころの再生の物語を描いています。
民俗学に寄りすぎず、読者が奄美の精神世界を自然な形で感じられるよう、あえて平易な表現にこだわり幅広い世代に届くようにしました。
奄美大島に伝わる様々な祭祀が普段の生活のなかで印象深く描かれ、ハブやケンムンが当たり前のように登場します。
奄美大島の精神世界を知る入門書だと思います。
上記内容は本書刊行時のものです。