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こころの風景
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年6月20日
- 書店発売日
- 2022年6月7日
- 登録日
- 2022年5月9日
- 最終更新日
- 2022年7月1日
紹介
エッセイ巧者、山折哲雄の書下ろしを含む52篇のエッセイと写真家・太田順一の未発表作品を含む52点の作品からなる圧巻のオールカラー218頁におよぶフォトエッセイ集。
目次
まえがき 山折哲雄
●ブッダは若く、カミは老いたり
比叡山に棲む「魔」/歩きに歩き、祈りに祈る千日/姿をかき消した聖空間/上半身は「神」下半身は「仏」/「千本」にこめられた思い/京都人の誇りの核心/ポタラ宮殿/沈黙/カミの声/西本願寺/ひとり旅/ 人さらい/瀬戸内寂聴さん
●見晴るかすこころの風景
散骨/老人と海/老い/翁/鳥葬/ミイラ/沈黙のセラピー/林住期/人生八十年/西洞院通/キレる万能のアーティスト/二十六聖人発祥の地/比較地獄/断食/認知症
●美にひそむ記憶
樹林に沈む三層の楼閣/龍の化身が住むところ/「白い塔」の楽しみ方/隠棲地にはなかった白砂/平家物語/遊ぶ/「個」と「ひとり」/「癒やし」は「イヤシイ」/ジャズ&スタンダード/庭/空き家
●われ、思い、旅する
歩く/路地/京ことば/「永訣の朝」/「ひとり」酒/書く前に、考える/われ、考える/デカルトの時間/一夜秘伝/巌流島/グリーン車1A席/隅田川/花の寺
「あとがき」にかえて 太田順一
前書きなど
「あとがき」にかえて
もう三十年近くも前になりますが、雑誌の仕事で山折哲雄さんを撮影したことがあります。『アエラ』(朝日新聞社)の人物ノンフィクションページの取材でした。講演をおこなった京都府亀岡市の市民ホールや比叡山延暦寺、それに当時勤めていた国際日本文化研究センターの研究室など、いろんな場所で五日ほどカメラを向け続けました。
誌面には使わずじまいとなったのですが、早朝、自宅にお邪魔して座禅を組んでいるところも撮らせていただきました。日課になっていたようで、線香を前に立てて煙をくゆらせ、燃え尽きるまでの小一時間、瞑想にふけるのです。
静寂を乱さないよう細心の注意を払って数回だけシャッターを切り、あとは身じろぎもせずに時間が過ぎるのをじっと待ちました。やがて線香の煙が消えて山折さんは姿勢を崩すと、意外なことを口にして破顔大笑するのです。―浮かんでくるのは仕事のことやら食べ物のことやら雑念、妄想ばかり。無念無想というわけにはいきませんなあ。ハッハハ。
宗教学の泰斗がにわかに身近な人に感じられ、親しみをおぼえた瞬間です。
山折先生のエッセイと写真でコラボをしませんか―海風社の作井文子さんから声がかかり、思いがけなくも長い歳月をへて再び山折さんにまみえることができました。作井さんには感謝、感謝です。
が、正直に言うと、二つ返事で引き受けたのではなく尻込みするところがあったのです。コラボというけれど、九十歳を超えてなお山折さんは旺盛に執筆をなさっている、そこから紡ぎ出される言葉に私の写真が敵(かな)うはずがないではないか、と。
五十余編のエッセイそれぞれと組み合わせる写真を選ぶ際、一体化するのではなく離れて、あるいはずらして、場合によっては写真が異物となるよう仕向けました。あれこれ考えゲリラ戦法で臨んだわけです。
山折さんに初めてお目にかかったとき四十代だった私も七十代になりました。まごうことなき老人です。山折さんによれば、老人は神に最も近い位置にいるとのことですが、自分に限って言えば、とんでもない、聖性からは程遠い体たらくです。老いて地金が現れたとでもいうのか、俗物の度合いは若いころよりむしろ強まっているのを自覚します。
そんな私を捉えて離さない一文が本書にありました。弟子は一人も持たないと明言した親鸞の孤高に触れつつ、山折さんはこう記すのです。
そこにはもはや迷うことのない人間の、静かな「ひとり」が立っている。
(一七七頁「ひとり」酒)
静かに立つ「ひとり」―その万分の一にでも私もなることができたなら……。
太田 順一
版元から一言
エッセイの名手として名高い山折哲雄の書下ろしを含む52編のエッセイと風景や事物のなかに果てしない時間軸を感じさせる円熟の写真家・太田順一の未発表を含む写真作品52点からなる圧巻のカラーフォトvsエッセイのコラボ本。
太田順一の「『あとがき』にかえて」にもあるように、この本の中の写真はエッセイの内容に合わせて添えれらたものではない。
写真は文章と一体化するのではなく、あえて離れてあるいはずらし、場合によっては異物と映るように選ばれ、絶妙に配されている。
文章の後に配された写真を目にするとき、文章は写真に取り込まれ、異世界へ飛び、そこでさらに深みを増す。
読み手の脳内でトリップが起きる瞬間がいくつも仕込まれている。
山折哲雄のエッセイの深い味わいと写真家・太田順一のセレクトのセンスが光る贅沢な一冊。オールカラー。
上記内容は本書刊行時のものです。