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ぼくはヒドリと書いた。宮沢賢治
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年9月15日
- 書店発売日
- 2019年9月7日
- 登録日
- 2019年8月19日
- 最終更新日
- 2019年8月28日
書評掲載情報
2019-10-21 |
中日新聞
夕刊 評者: ジョバンニ |
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紹介
それは一つの論文から始まった。
なぜ︑最後の手帳が公開されても、「ヒデリ」は「ヒドリ」に訂正されることはなかったのか。手帳に記された「ヒドリ」の文字を高村光太郎はなぜ、「ヒデリ」と墨書したのか。手帳のなかから取り出された「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」は作者の意図とは無関係に日本で最も有名な詩の一つとして世界中を独り歩きしている。
果たして「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」の前後に書かれた曼荼羅とこの詩を切り離したことは正しかったのか。そして、本当に愛した人は誰だったのか。
我々は議論しなくてはならない。宮沢賢治が生きていたら、もしかすると今日、「ヒデリ」と伝えられているこのことを「ぼくはヒドリと書いた」と明確に否定するに違いないからだ。
目次
第1章 手帳の中の「雨ニモマケズ」の真実
◉「ヒドリ」と「ヒデリ」をめぐる和田文雄氏の論文から
◉高村光太郎の墨書のナゾと罪業意識
◉切り離された宗教と文学
◉方言を手がかりに
第2章 賢治が愛した人々
◉賢治のセクシャリティと保阪嘉内
◉重なる悲恋、妹トシの自省録
◉斎藤宗次郎とデクノボー論
第3章 賢治と「農」の関係
◉「東北」という背景
◉賢治は農本主義者か
◉山男・縄文・童子・鬼
第4章 最後をどう生きるか
◉雪や雨と同じだと言った賢治の戦争観
◉いのちと向き合い最後に行き着く法華経
前書きなど
「あとがき」に代えて-「賢治」断章-
宮沢賢治は詩人になろうとした
童話作家になろうとした
農業指導者や教師にもなろうとした
宗教者になることをめざしたこともあった
土壌や岩石や天体にも興味をもち
その専門家になろうとした
けれども宮沢賢治はそのどれにもならなかった
なろうとはしなかった
ひょっとすると そのすべてになりたかったのかもしれない
だが そのすべてになろうとも しなかった
宮沢賢治は 生きるために 他のいのちを食べなければならないことに気づいて
苦しみはじめた 悩みはじめた
食うものは食われる
そのことに気がついたとき
宮沢賢治は 人間嫌いになっていたのではないだろうか
そうだ デクノボーになるんだ
デクノボーになろう
デクノボーにしか 脱出の道はないのだ
そう思ったのかもしれない
ただ 最後に 気になることがないではない
あの最後の「手帳」のことだ
その中に出てくる「雨ニモマケズ」の断章のことだ
その詩の断章の最後に このデクノボーの言葉があらわれる
「デクノボーになりたい!」
ところが そのすぐ次の頁に
「南無妙法蓮華経」
の題目の文字が大きく描かれているのだ
宮沢賢治は「雨ニモマケズ」の詩の断片を書いて
それで終りにしているのではない
念仏を唱えるように 題目を唱えているのである だから
「デクノボー」と「題目」は断続しているのではない
切り離されているのではない
連続しているのである
「デクノボー」は「南無妙法蓮華経」とそのまま地つづきで連続している
宮沢賢治の人間嫌いは
「デクノボー」になりたいだけで終わっているわけではない
「デクノボー」と「題目」は二人三脚のかたちで 同行二人のかたちで
表裏一体の姿になっているのである
しかしそのことを 今日 誰もいわない
誰も問題にしない
おそらく宮沢賢治は 今なお あの世で人間嫌いのまま
あいかわらず孤独のままでいるのではないだろうか
あの花巻こけしのように
あの何もいわない花巻こけしのように
静かな笑みを浮かべて 何もいわずにそこに立っているのではないだろうか
宇宙の彼方から 今でも 天の声がきこえてくる
ぼくは「ヒドリ」と書いた。 宮沢賢治
二〇一九年五月十九日
山折 哲雄
版元から一言
宮沢賢治の「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」は東北大震災のあと、日本で最も有名な詩の一つとして、世界中の鎮魂の場で読まれ、世界中を独り歩きしている。
その詩の中の「ヒドリ」は「ヒデリ」と書き換えられ、間違ったまま世界中を独り歩きしている。
では、なぜそうなったのか。
学会も研究者たちも教育の場でも、なぜ間違ったままで、何もしないでいるのか。
これは表現者の良心にかけても取り上げなくてはならない問題ではないのか!
宮沢賢治研究の第一人者である山折哲雄(宗教学者)と『日本の農本主義』を著した思想史家・綱澤満昭が、没後85 年にして、ますます人気の高まる宮沢賢治の実像をめぐって、今日までの宮沢賢治研究の様々を紐解きながら研究史からこぼれ落ちた仮説にも鋭く目をやる出色の対話本。
上記内容は本書刊行時のものです。