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翰苑 2017.10 vol.8 姫路大学人文学・人権教育研究所 - 海風社
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翰苑 2017.10 vol.8

発行:海風社
A5判
194ページ
並製
価格 1,200円+税
ISBN
978-4-87616-048-8
Cコード
C3030
専門 単行本 社会科学総記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月
2017年10月
書店発売日
登録日
2017年9月26日
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紹介

【特集】柳田国男と民俗学

日本を代表する宗教学者 山折哲雄による「柳田國男の魅力」講演録
思想から民俗学を捉える綱澤満昭の「柳田民俗学と風景論」
柳田が、特赦事務において実際に見聞した凄惨、悲愴な奥美濃山中 の子殺しの事件について、後の柳田の民俗学のあり方とどのように関わっているかを論考した永池健二「柳田国男と『特赦の話』」
異類婚姻譚から柳田民俗学を投射した渡瀬茂「かぐや姫の結婚」
など渾身の論考ずらり!!

目次

巻頭エッセイ
地獄を覗く/綱澤満昭

【特集】 柳田国男と民俗学
講演録 柳田國男の魅力/山折哲雄
柳田民俗学と風景論/綱澤満昭
柳田国男と「特赦の話」―民俗の思想の「根」を求めて/永池健二
かぐや姫の結婚―柳田國男の異類婚姻譚説を学ぶ/渡瀬 茂

【論考】
慶応期における播州三日月藩の「農兵隊」「農兵別隊」について/竹本敬市
二〇世紀後半以降からの障害児(者)福祉と幼児教育及び学校保健の変遷からみえてくる課題/上田ゆかり明治・大正期における子どもの歌―唱歌「蛙」と童謡「青蛙」の音楽的比較/白石愛子

【連載】
道徳教育と人権教育の方法論的関連性/和田幸司

前書きなど

 編集後記

 今年はある政治問題を機に「忖度(そんたく)」という言葉が、一躍注目を浴びることとなった。国会の議論でも日々飛び交い、外国人特派員を混乱させたこの言葉、いったいどういった意味があるのだろう。『日本国語大辞典』によると、「他人の心中やその考えなどを推しはかること。推量。推測。推察」と記されている。平安中期の漢詩集『菅家後集』では「舂韲由造化忖度委陶甄」、福沢諭吉の『文明論之概略』では「他人の心を忖度す可らざるは固より論を俟たず」と使用されている。現在は「上役の意向を推し量る」といった意味で使用されているように思うが、歴史的にはどうなのだろうか。
 数年前に、江戸時代元禄期の朝廷事情を西本願寺を中心として検討したことがある。朝廷に参内した西本願寺門主寂如の下乗位置をめぐって、霊元上皇と関白近衛基煕の確執へと発展した事件である。朝廷復古をめざしていた霊元上皇はその制度化のひとつとして西本願寺の下乗位置を制限した。一方、親幕派であった基煕は唐突な治定による混乱を懸念していた。基煕は事件が東本願寺を巻き込んでの争論となっている点、西本願寺門徒が騒動を起こしかねない状況、京都所司代の意思などを踏まえ、上皇に諫言を行う。しかし、上皇は政務移譲を引き換えに、誓詞血判を命じるなど朝廷内掌握力を強める政治的戦略に出る。こうした状況下において、本事件解決は基煕に一任されていく。基煕は上皇の納得のいく形で、幕府と朝廷の関係が悪化しないように事態を収束させる必要があった。
 このような状況は『基煕公記』という近衛基煕の日記に詳細に記されている。所蔵されている陽明文庫文庫長である名和修先生のご高配によって、史料閲覧を行うことができた。事件の状況から鑑みても、「忖度」が当時において現在的意味として使用されているならば、日記に「忖度」という文言が散見されてもよいはずだが、今一度、読み返してみても見つけることはできなかった。それよりも「叡慮(えいりょ)」という文言が数多く記述され、いかに「叡慮」を尊重しながら、上皇の権威を傷つけることなく、解決を図っていくかという並々ならぬ努力が文面から理解できた。もしかすると、現在使用されている「忖度」と近世や中世で使用されていた「忖度」とは若干の違いがあったのかもしれない。
 さて、基煕の「叡慮」を傷つけずに、幕府と朝廷の関係悪化が起きないように収束させた方法について付言しておこう。それは「今度之願も西本願寺自身之願にて無之、門徒之輩御歎申候時義ニ候ヘ者、御憐愍之御沙汰一筋ヲ以テ被仰出候様ニ、幾重ニも御詫申上候」(「基煕公記」元禄四年五月一七日条)というものであった。門徒の歎きに対する上皇の憐愍によって解決をしたのである。つまり、民衆たちの力である。基煕はこの間のことを「連日辛苦心神如無」と述べているが、朝廷はこの事件をきっかけに徐々に基煕を中心とした合議制に移行することになる。
 私たちは、歴史から学ばねばならないことがもっとあるのではないだろうか。民衆たちが本事件において対置させられていたように、「忖度」の局面が合議制へと変化していったように、今を変革していく何かを私たちは見つけることができるのではないだろうか。私たちはその努力をしていないだけなのではないだろうか。
 閑話休題。今号は山折哲雄先生の講演録をはじめ、「柳田国男と民俗学」という形での特集記事を組むことができた。ぜひ、ご味読いただきたい。また、論考も今年度より研究所員になられた先生方、研究所外の先生方からの玉稿も所収することができた。八号をむかえ、ますます充実した内容となっている。これも学校法人弘徳学園の援助、協賛広告を頂戴した企業様のお力添えによるものである。この場をお借りして、お礼を申し上げたい。また、海風社作井文子様には編集へのご示唆ご助言を頂戴し、刊行へのご尽力を頂戴した。心から感謝の意を申し上げたい。ありがとうございました。(和田幸司)

著者プロフィール

綱澤 満昭  (ツナザワ ミツアキ

姫路大学学長 人文学・人権教育研究所所長
専門は近代日本思想史
主な著書 『日本の農本主義』(紀伊國屋書店)、『未完の主題』(雁思社)、『柳田国男讃歌への疑念』(風媒社)、『日本近代思想の相貌』(晃洋書房)、『鬼の思想』(風媒社)、『愚者の精神史きれぎれ』(海風社)、『思想としての道徳・修養』(海風社)、『宮沢賢治の声』(海風社)、『異端と孤魂の思想』(海風社)など

山折 哲雄  (ヤマオリ テツオ

宗教学者、評論家
専攻は宗教史・思想史。
主な著書『仏教とは何か ブッダ誕生から現代宗教まで』中公新書、『悪と往生 親鸞を裏切る「歎異抄」』中公新書、『愛欲の精神史』小学館、『法然と親鸞』中央公論新社など

永池 健二  (ナガイケ ケンジ

日本古典文学(歌謡史・歌謡文芸の研究)及び柳田国男論専攻。
主な著書『柳田国男-物語作者の肖像』、『逸脱 の唱声 歌謡の精神史』梟社、『梁塵秘抄詳解神分編』八木書店(編著)など

渡瀬 茂  (ワタセ シゲル

姫路大学教育学部 教授
専門は国文学、国語学、日本文化
主な著書 『王朝助動詞機能論 あなたなる場・枠構造・遠近法』、『栄花物語新攷 思想・時間・機構』和泉書院など

竹本 敬市  (タケモト ケイイチ

姫路大学教育学部 特任教授
専門は日本近世史 地方史
主な著書 『上郡の古文書 大鳥圭介書簡集』上郡町、『三日月藩文書』三日月町、『自由民 権運動家 田峰楳吉関係史料集』(共著)兵庫県揖保郡新宮町、『国指定史跡 赤松氏城跡白旗城跡』(共著)上郡町教育委員会など

上田 ゆかり  (ウエダ ユカリ

姫路大学教育学部 講師、博士(社会福祉学) 専門は、養護学、看護学、社会福祉学

白石 愛子  (シライシ アイコ

姫路大学教育学部 助教
専門は声楽、音楽教育

和田 幸司  (ワダ コウジ

姫路大学教育学部 教授、博士(学校教育学) 専門は日本近世史、人権教育
主な著書 『近世国家における宗教と身分』、『浄土真宗と部落寺院の展開』法藏館〈第 1 回日本法政学会賞優秀賞〉、『日本の民主的基盤形成の探求』共著、法律文化社など

上記内容は本書刊行時のものです。