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在日華燭の典 異民族と異文化のはざまで 辛 榮浩(著) - 海風社
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陶院叢書

在日華燭の典 異民族と異文化のはざまで

発行:海風社
B6判
280ページ
上製
定価 2,000円+税
ISBN
978-4-87616-030-3
Cコード
C0395
一般 全集・双書 日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月
2014年6月
書店発売日
登録日
2014年5月20日
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紹介

短編5編は、在日二世として生き、民族教育に心血を注いできた著者の幼少期からの自伝的小説。
折々に発表してきた評論・エッセイは日韓の関係にも触れ多くを語っている。

目次

目 次
短編
拭えぬ痕跡
コラム/大韓機で良識ある対応望む/憎悪表現の横行心痛める/強制連行問題解決へ英断を
羽〈はばたき〉撃
コラム/認識共有した教科書必要/歴史教科書に「暗黒」を憂う
若狭路の青春
コラム/首相の「不戦」額面通りには/関東大震災を思い出す放言/前空幕長の論文に驚き 
母が遺した手紙
コラム/万景峰号再開在日には切実/祖国統一を果たしたい/在日華燭の典

評論・エッセイ
ウリクル(朝鮮文字)の盛況情報に思う
文芸同京都の歩みと共に
何故小説を書くのですか
「朝・日平壌宣言」一〇周年今(…) 年こそ国交正常化を
浮島丸殉難六八周年の日に
豊臣秀吉の「やきもの戦争」と「耳塚」に思うこと
民族教育の現状と課題
コラム/朝鮮学校との交流門戸広く/日朝関係は未来志向で

あとがき

〈解説〉に代えて 韓丘庸

前書きなど

 あとがき
 喜寿の峠を越え、残り少ない人生を気にし始める昨今であるが、余命の終焉を告げるカウントダウンが聴こえてくるかのようで、身につまされる。
 こんな気分に陥るのは、在日二世の誰もが体験するごく普通のできごとなのか、と思ったりする。しかし、世の中はそれにつけても、何かと不穏な風潮に満ちあふれていることか。
 人々はみんな、二一世紀の輝かしい未来を展望し、世界の繁栄と飛躍を期待していただけに、二〇一三年師走の北の共和国政府粛清事変は、予測できないことであった。祖国朝鮮半島の平和はいっそう遠のくばかりである。最高首脳部政治指導の座を揺がせる事件を、誰が推察しえたであろうか。
 在日朝鮮人として生を受けた私たち二世は、「亡国の民」として、日本植民地支配統治下で苦しみながらも必死に耐え生きぬいた。しかしそんな喜びもつかの間、解放後も祖国統一実現の光明を迎えることなく、米・ソの冷戦機構支配下で呻吟し、同族殺戮する朝鮮戦争の影響をもろに受けた。
 在日同胞たちは、朝鮮半島南北分断のため民団と総聯に分裂対立し、ことごとく相争い協力し合うことはなかった。在日同胞の民族的諸権利は、未だに十分に保障されず、私たちは引き続き民族差別撤廃に向けた活動を続けねばならない。最近東京の新大久保に続き、大阪鶴橋のコリアタウンでも、白昼堂々と在日コリアンに対する聞くにたえない罵声と中傷誹謗を発するヘイトクライムのデモ隊が警察官の護衛の下で強行されている。
 在日同胞社会での民族意識と同胞間の団結心は年々稀薄となり、同胞の価値観は多様化し複雑化してきている。同胞数は毎年減少し、若者たちの国際結婚率が九〇%近くも占める時代に入っている。日本帰化現象がもはや珍しくなくなっている御時勢なのである。その一方、在日同胞子弟の民族教育維持と継続はますます困難をきわめ、朝鮮学校への就学児童数は減少しており、既存の民族学校は統合か廃校へと縮小せざるをえなくなってきている。日本各地の地方自治体の民族学校補助金は多くの地域で中断されたり、打ち切りを告げられている。朝鮮高級学校への「高校無償化」の除外は撤廃されず日本社会の在日同胞に向けられた排外的な動きが顕在化し、民族学校運営は困難をきたしており、在日同胞はまさしく四面楚歌に陥ってしまっている。
 私は若い頃より、長い間文学と関わり、在日朝鮮人二世の一人として、いろんな思いを作品化してきた。それまでの乏しい体験の中からも、在日朝鮮人の根幹である民族的アイデンティティの確立を求め、必死にもがいてきた。そんな中で最も大切に思えるのが、在日朝鮮人としての民族的気概と自負心だと得心したことである。
 現在地球上には七一億五千万人からの人間が生存している。民族別で見ると、朝鮮民族は朝鮮半島の南に四千九〇〇万人、北に二千五〇〇万、中国に二八〇万、米国に二五〇万、日本に八〇万その他海外に数百万人と、おおよそ一億数百万名以上が生存していると推定される。
 決して少なくない民族である。世界の人口の七〇人に一人近くが朝鮮民族の血を継いでいる計算になる。この上もない名誉なことであり恭賀すべきことではないかと思う。朝鮮民族であることを卑下したり在日コリアンであることを隠すことは何一つとてない。民族の誇りを持って堂々と生きねばと思う。
 人は親と民族だけは自分の意志で選択することはできない。それは宿命であって、誰も犯すことのできぬ崇高な聖域の尊厳である。
 在日の今日までの体験から、貴重な教訓がアイデンティティの確立であった。在日コリアンがこれからをしっかりと生き抜く支柱は、まさしく民族心の気概であり、自負心であると思う。

 五編の短編を通して、私は在日コリアンの民族的主体性確立の大切さを、これまでの、体験と実感を振り返り、もう一度照射することで盤石なものにしたいと思った。
 私が常日頃から思い考えていることを、評論・エッセイ・コラムの形式で一緒に収録した。政治・歴史・文化・芸術・教育等と多岐にわたって、思いつくままに展開させているので、一般的な批評に留まり、本質的な理論へと収斂されていないのでは、と指摘されそうだが、それでも在日コリアンの現状は理解いただけるものと思っている。
 日本社会の右傾化が顕著になっている昨今、在日社会への攻勢がいっそう強化されはしないかと憂慮される。朝鮮と日本との相互理解がいつにもまして強く望まれる時である。両国間の友好連帯の絆がより深まり、世界中の人々との共存共栄が確固と築かれ、世界が平和であることを願わざるをえない。

 アンソロジー『在日華燭の典』は多くの方々のご尽力により、どうにか出版の運びとなった。
 韓丘庸先生からは、身に余る解説原稿をいただき、哀心より感謝申し上げたい。作品を深く理解する道標となり、読者がいっそうの関心を示すようになるのではないかと期待している。
 在日同胞がかかえる諸問題解消の鍵は、民族的アイデンティティの確立にあることをもう一度再確認していただきたい。この作品集が、在日コリアンの直面する、民族的な葛藤に対し、少しでもプラス思考に付与できればと願っている。日本の方々には、朝鮮半島が今もなお南北に両断されたままの複雑な背景を理解され、朝鮮の平和的統一と両国間の友好連帯が強まることを期待して止まない。
 『在日華燭の典』を無事出版できたことを慶び、感謝の言葉を重ねて述べたい。誠にありがとうございました。

  二〇一四年五月二五日
著者記す 

版元から一言

学者でもなく、思想家でもない。
政治的発言でもない。
市井の一在日コリアン二世の飾りのないホンネがここに吐露されている。

著者プロフィール

辛 榮浩  (シン ヨンホ)  (

辛榮浩(シン ヨンホ)
1936年 京都市に生まれる(本籍 慶尚北道慶州市)
立命館大学文学部英米文学科卒業
1959年から 1995年まで、民族学校で教諭、教務主任、学校長など
を歴任
主な著書 『蒼い海峡』(新風舎 2007年)、『海鳴り』(新幹社 2008年)、
『故国 未だに遠く』(ウインかもがわ 2012年) など

上記内容は本書刊行時のものです。