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古事記論考
野生と文明の古代
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年3月31日
- 書店発売日
- 2025年4月25日
- 登録日
- 2025年3月19日
- 最終更新日
- 2025年5月2日
紹介
なぜヤマトタケルに魅せられるのか
スサノヲやヤマトタケルがもつ荒々しい野生の力と、アマテラスや天皇の秩序による文明の力。
その相克を描いた古事記は、忘れられた自然や野生の魅力を呼び覚まし、文明や文化の意味を問いかけている。
人間の原点を伝える文学作品として、核心を読み解く。
目次
はじめに
序章 『古事記』の原風景 海へ
1 はじめに
2 葦茂る水辺の風景
3 潮気立つ海辺の風景
4 山野河海に抱かれた暮らしの風景
5 水の源郷、ワタツミの世界
6 おわりに
第1章 モノ神の伝承
1 都市の大物主――崇神朝の祟り神伝承をめぐって――
1 『古事記』の大物主
2 崇神朝の神人分離
3 都市の霊威
4 多層空間としての〈自然〉
2 生成するモノとコトの物語――垂仁記のホムチワケ伝承をめぐって――
1 はじめに
2 反復する国譲り
3 「御諸山」の神
4 大物主の祭祀
5 出雲大神の祟り
6 「事」から「言」へ
7 おわりに
3 記紀神話をどう読むか――神話と歴史 アマテラスと大物主・倭大国魂の伝承をめぐって――
1 崇神朝の「歴史」物語
2 自然の排除と文明の樹立
3 纏向遺跡と魏志倭人伝
4 記紀神話の自然観――「もの」世界の変容――
1 はじめに
2 世界を生成する「もの」の力
3 不気味にざわめく「もの」の力……
4 都市と文明の中にうごめく「もの」の霊威
5 謀反を告げる「さやぎ」
6 自然に君臨する王と国家
7 伝承の表層と古層
8 「もの」世界のゆくえ
第2章 大国主の伝承
1 大国主神話――国譲り神話研究史の一断面――
1 成立研究をめぐって
2 王権神話の〈読み〉
3 葦原中国をめぐって
4 伝承と表現
2 出雲と葦原中国
1 『古事記』の出雲
2 『古事記』の葦原中国
3 出雲と葦原中国
3 オホナムヂの古層と新層――「国作り」の神から「国譲り」の神へ――
1 問題の所在
2 大穴牟遅から大己貴・大汝へ
3 伊和大神との習合
4 おわりに
第3章 自然と文明の神々の伝承
1 カグツチの神――〈ケガレ〉の力――
1 問題の所在
2 〈ケガレ〉の力
3 異郷の霊威
2 日本神話の女神たち――自然と文化を繋ぐ母性の伝承――
1 「女神」への問いかけ
2 地母神イザナミと大地の性
3 大地自然の女神たち
4 自然の霊威を受胎する女たちの物語
3 記紀には何柱の神が登場するのか
1 豊饒たる神々の世界
2 名のある神の総数
3 亦の名、別名の問題
4 統合する国家の力、逸脱する物語の力
4 高木神論
1 はじめに
2 高御産巣日神と高木神
3 返し矢の話型と弓矢の呼称
4 高城の神
5 おわりに
5 土蜘蛛
1 記紀の土蜘蛛
2 異境のモノ
3 異境と王権
第4章 言葉・王権・祭祀の伝承
1 〈チ〉と〈タマ〉の〈モノ〉語り――火遠理命神話の口誦性――
1 はじめに
2 語りの文体
3 〈チ〉と〈タマ〉の〈モノ〉語り
4 おわりに
2 カシヒ考――仲哀記の神話的モチーフ――
1 『古事記』の訶志比宮
2 香椎廟由来
3 橿原憧憬
4 おわりに
3 身体と空間の神話学――古事記の「ト」をめぐって――
1 はじめに
2 古代飛鳥の空間
3 身体の境界
4 神話の空間
5 事戸、置戸、詛戸
6 おわりに
4 祭祀の文法――上代語マスについて――
1 はじめに
2 神を見る眼
3 「マス」の視覚
4 おわりに
5 宴と王権――古事記・日本書紀の事例から――
1 はじめに
2 ウタゲとトヨノアカリ
3 『古事記』の宴
4 おわりに
6 揺らぎ響とよむ大地――上代日本の共感覚――
1 〈トヨ〉の世界
2 ユラ・サワ・サヤの世界
終章 ヤマトタケルの野生と文明
1 ヲウスの文明
2 タケルの野生
初出一覧
あとがき
索引
前書きなど
アマテラスや天皇も、本来はその内部に大いなる自然の力を宿していたはずである。皇祖神として抽象化する以前のアマテラスは光り輝く太陽を身体とした。天皇もまた稲の化身であった。ただ、アマテラスが抽象化して皇祖神としての超越性を獲得し、天皇が「日の御子」としてそれを継承しながら国家の最高の統治者へと昇り詰めていく過程で、荒ぶる自然は支配すべき対象となる。……疎外された野生や自然を生きたのが、スサノヲでありヤマトタケルにほかならない。
アマテラスと天皇の文明が疎外した野生や自然は、しかし同時に、人間としての本質に消えることなく刻まれている。だから、それは排除すべき負の領域であると同時に、それなくしては生きることができない人間の根源でもある。野生や荒々しい自然を忌避しながらも同時にそうした文明以前の世界に魅了されてしまうのは、そこに人間の原点があることを私たちが知っているからだ。『古事記』はそうした人間の野生と文明の相克をさまざまに語り伝える文学である。
――「終章 ヤマトタケルの野生と文明」
上記内容は本書刊行時のものです。