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桜人伝説
桜をめぐる作家たち
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2025年4月21日
- 登録日
- 2025年4月1日
- 最終更新日
- 2025年5月4日
書評掲載情報
2025-05-10 |
信濃毎日新聞
評者: 信州×本・雑誌 |
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紹介
――日本人はみな死ぬ前に桜狂になる。
桜にかかわった作家や文化人の私生活を探ると
多くの人が桜をめぐって絆綱を深めている事が判る。
人はみな還暦を迎えると桜に目覚め、
それまで囚われていた出世欲や、金銭欲から解き放される。
目次
第1章 成城学園の桜人たち
―― 水上勉、大岡昇平
第2章 那須高原の別荘に集う桜人
―― 里見弴、水上勉、宇野千代
第3章 鎌倉の桜大人
―― 小林秀雄(西行と本居宣長)、吉井長三、今日出海
第4章 民俗学者と桜の俳人たち
―― 柳田國男、折口信夫、山本健吉、岡野弘彦
第5章 野口雨情と「雨情しだれ」
―― 日光植物園久保田秀夫
第6章 桜校長高松祐一をめぐる桜人
―― 牧野富太郎、佐野藤右衛門
など、桜秘話が満載です。
前書きなど
人によって早い遅いはあるが、桜の花を心から美しいと思うようになるのは、やはり還暦を過ぎてからだ。美しいと思うだけでなく、いとおしいとさえ感じる。それは満開に咲いた桜も間もなく散ってしまうことを知っているからである。そして同じように自分の命も、もうあまり長くない事を悟る。人生に黄昏の季節が来たことを初めて自覚させるのだ。この悟りを迎えることによって、人は、今まで囚われて来た俗世間の出世欲や、名誉欲、金銭欲などの邪心から解放される。桜によって目覚めさせられるのである。仮にこれを「桜記念日」としよう。あるいは「桜花忌」と言ってもいい。今までの自分が一度死に、別の人間に生まれ変わるからである。人間はこれを早く迎えるか、遅く気が付くかで、その後の人生がおおいに違う。
(中略)本居宣長は死ぬ前に毎晩布団の中で、桜に思いを巡らせて歌を詠んだ。最初は百首つくる予定だったが、なかなか死なないので、次第に増えてしまいには三百首におよんだという。それから時を経て、百八十年後、文芸評論家の小林秀雄は死ぬ前の二十年間、狂ったように桜を見て歩いた。しかも多くの作家たちを誘って一緒に歩いた。目的の桜の、花の見ごろに合わなかったときは、次の年に再びトライした。桜は、見れば見るほど奥が深いことが分かる。水上勉も宇野千代も大岡昇平も、さらに里見弴から川端康成まで、画家は梅原龍三郎、中川一政、東山魁夷も、小林はみんなを桜の信者にした。菩提樹の下で釈迦が悟りを開いたように、人は桜の樹の下で悟りを開くのであろう。こうして「桜人」はあちこちに「桜旅」をしながら、まるで感染者を増やすように、桜菌を撒いて歩き、また多くの桜人を生んでいくのである。
上記内容は本書刊行時のものです。