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神奈川から考える世界史
歩いて、見て、感じる歴史
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年12月10日
- 書店発売日
- 2021年12月10日
- 登録日
- 2021年10月6日
- 最終更新日
- 2021年12月20日
紹介
2022年から始まる高等学校学習指導要領の地歴科の新しい歴史科目の根底を流れるコンセプト「地域から考える世界史」を念頭に、20人の高校・大学の教員チームが、生徒・学生に向けて、足元の地域から歴史を身近に感じるために編んだ副読本。執筆者たちが問題意識をもって、地域を歩き、収集した史実には「地域から考える世界史」の根幹となる日本史と世界史をつなげることの面白さが満載。新視点からの歴史散歩読本。
目次
第1章 近世の神奈川と世界史(幕末・維新)
第2章 近代の神奈川と世界史(明治~太平洋戦争)
第3章 戦中・戦後の苦難の神奈川と世界史
第4章 現代の神奈川と世界史
第5章 神奈川の中にある世界、 神奈川から見える世界
特 集 ケイ素のリトル・ビッグヒストリー
―地球史と人類史、そして神奈川の歴史
目次
第1章 近世の神奈川と世界史(幕末・維新)
第2章 近代の神奈川と世界史(明治~太平洋戦争)
第3章 戦中・戦後の苦難の神奈川と世界史
第4章 現代の神奈川と世界史
第5章 神奈川の中にある世界、 神奈川から見える世界
特 集 ケイ素のリトル・ビッグヒストリー
―地球史と人類史、そして神奈川の歴史
前書きなど
監修者はしがき
かつて生徒から「先生、なぜ、本を読まなければならないのですか」とたずねられ、返答に窮したことがある。彼は、「本を読む必要は分かります。しかし、読んでいてもあまり楽しいとは思えない」と続けた。では、どのようなジャンルの本なら読めるかと尋ねてみた。すると、歴史に関する本ならと答えるので、『戦国日本と大航海時代』(平川新著、中公新書、2018 年)を渡した。
なぜ、本を読まなければならないのか。この問いは難しい。私にとって、日々の暮らしで本など活字に触れるのは至極あたりまえのことだからである。生徒に「読解力を鍛えるためだ」「論理的思考力を高めるためだ」などともっともらしい理屈を並べても、私の本心ではないので、偽りの言葉となってしまう。
私が本を読む偽らざる理由は、本を読むことが好きだからであり、「へー、そんなこともあるのか」と驚くような新しい発見ができるからである。歴史を学び、歴史を教えることを生業としてきた私にとって、「歴史の面白さを伝えることが好きだし、生徒に私の思いが伝わった時の感動を味わいたいから」ということも大きな理由である。しかし、これらを生徒に言っても、果たして真意が伝わるだろうか。
日本史と世界史をつなぐことを面白いと思ったのは、1973 年、杉並区立井荻中学校の2 年生の時であった。社会科の歴史の授業でK 先生が「平賀源内は、獄中で病死しました」という言葉に対し、生徒T 君の手が即座に挙がった。そして、「先生、平賀源内は、気球で牢屋を脱出してフランスへ行き、フランス革命に参加しましたとNHK の『天下御免』で言っていました。NHK ですよ」と言い返したのである。K 先生は、ちょっと間を置いて「昔のことだから、そういうことにしときましょう」と応じた。
1973 年当時、NHK の『天下御免』は、山口崇扮する平賀玄内の生涯を描いた時代劇で、老中田沼意次とのやりとりや、更にはアメリカ独立といった出来事も登場した。放送当時、世間では田中角栄首相の金権政治批判で騒いでおり、こうした社会的風潮とあいまって『天下御免』はお茶の間の人気番組となっていた。私も毎回欠かさず見ており、T 君の発言の元となった最終回の結末には驚かされていた。そのため、T 君とK 先生のやりとりは今でも強く印象に残っている。
これがきっかけとなり、日本史を学んでいる時でも世界を意識するようになった。日本の過去の出来事が世界史とつながっていることを発見するたびに、興味と関心を掻き立てられ、どういうことだろうかとさらに深く探るようになった。
1999 年8 月、教員になって16 年目の夏であった。当時、私は山口県立徳山高校の地理歴史部顧問をしていた。活動の柱に据えたのは「地域から世界を考える」というテーマであった。その年はF・サビエル来日500 周年にあたっていた。新聞を読むと、サビエルの姉の子孫にあたるM 神父
が徳山のカトリック教会に奉職されていることを偶然知った。そこで、地理歴史部の生徒を引率し、
教会を訪問してサビエルの話を聞かせて頂くことになった。
約束の日は8 月9 日であった。この日は暑かった。さらには、約束の時間に遅れるという失態を演じてしまった。教会に着き、挨拶を終えるとM 神父は、「今日は皆さんに話しておきたいことがあります」と厳粛に語られた。そして、国会で国旗国歌法が制定されたことに触れ、「日本はこれから戦争に向かうのでしょうか。それが気になります」と述べられたM 神父の戦争や平和への思いに初めて触れた瞬間だった。その時、私の脳裏を「スペイン内戦」という言葉がよぎったので、恐る恐る神父に尋ねてみた。すると、「私の父親は、カトリック系の労働組合の弁護士をしていたため、フランコ軍につかまった」と言われた。話の中には、人民戦線の兵士がフランコ軍の兵士を海岸で処刑している様子もあった。身近な外国人から世界史の体験が聞けた瞬間であった。
私事をつらつらと述べたが、私はこうした経験を通じて、「地域から考える世界史」の内容や方法論を見つけてきた。それは第一に、「地域から考える世界史」の根幹となる日本史と世界史をつなげることの面白さであり、第二に、自分たちの身近な人たちが味わった体験から世界史を学ぶことに他ならない。
2022 年度から実施される高等学校新学習指導要領に定められている「地理歴史科」の「歴史総合」第1 章「歴史の扉」には、「歴史と私たち」という小項目がある。ここには、「私たちの生活や身近な地域などに見られる諸事象を基に、それらが日本や日本周辺地域及び世界の歴史とつながっていることを理解する」と記されている。この視点は、2 年次以降の選択科目の「日本史探究」や「世界史探究」でも生かすこととされている。
この「監修者はしがき」の執筆と並行して、この1 か月間は各出版社から出されている来年度の「歴史総合」教科書を見てみた。いずれの教科書も「歴史の面白さを伝えたい」との熱意が込められており、その中から1 冊を選択するのは困難な作業だった。教科書執筆者も、そして教壇に立つ教員も、「歴史は暗記科目」というレッテルをはがしたいという思いがあり、こうした情熱が新しい教科書に反映されていた。
本「神奈川から考える世界史」もこうした教育的風潮の中で出版されることとなった。本書に収められた論考は、いずれも執筆者たちが問題意識をもって、地域を歩き、収集した史実の数々である。その時、彼らは、いつも見慣れた神奈川の風景に、まったく違った景色を見たものと思われる。神奈川の地が、鎌倉の昔から今日に至るまで、連綿と世界とつながってきた歴史を持っていたこと、その中で人々は、悲喜こもごもの生活を営みながら人生を送っていたことに気づくであろう。
歴史教育の大家大江一道氏はかつて「歴史は人間を考えるための宝庫だ。世界史は、まさに人間学と言ってもいい」と言われたことがある。歴史を学ぶことは、まさに太古の昔より人類がたどってきた道を考えることであり、まさに人間を考えることだと言っても過言ではない。
最近の中学や高校では、「歴史は暗記すればいい」というレッテルを払拭したいがために、教員は日々考えている。しかし、暗記科目から脱するためだとはいえ、グラフや資料の読み取り作業に時間を費やす授業も多いと聞く。これにも課題があるように思う。
「問題を解く」という行為は、たしかに歴史的思考力を涵養するであろう。しかし、これに傾注するばかりに、人々の日々の営みに関心を持たない態度は避けるべきであろう。グラフや資料を読み取ることも大事だが、さらにはその向こうに人々の暮らしや営みまでも見出す努力をすべきであり、そこまで思考を重ねて初めて歴史的思考力を涵養できるといえる。
歴史では「考える」ことが大切である。「なぜ、この年にこの地でその史実がおきたのか」を考えることも必要だ。しかし、もっと追求すべきは、史実を通して、「自分の立ち位置」に気づくということであろう。この問いに向き合うとき、本書は必ず助けになると考える。 本書が人々を豊饒な歴史の海に誘うことを切に願っている。
はじめに(編者)
「日本に住む限り世界のことは関係ない」といった考えは無効であり、時に有害ですらあります。
日本は世界の一部であり、私たちが日常生活を送る地域も世界の一部だからです。この当たり前の事実を、私たちは新型コロナウイルスによって痛烈に思い知らされました。コロナ禍は多くの尊い命を奪い、世界の主要都市をロックダウンに追い込み、人々にステイホームを強いました。国際線は欠航し、外国人観光客は「蒸発」しました。空港や駅、街やお店からは人影が消えました。
しかし、人々は交流を続けました。コロナ禍を機に普及したテレワークなど、新たな交流の形を発展させました。そのインパクトは私たちの想像を超え、今では仕事や生活のあり方までも変えつつあります。
変化といえば、たとえばDX(デジタル・トランスフォーメーション)や脱炭素化の加速は、世界の産業構造や企業の行動に大きな軌道修正を迫っています。一方で、歓迎できない変化もあります。世界では貧富の差がさらに拡大しました。人権侵害や民主主義の後退といった人類の幸福を踏みにじる動きも再び顕著となってきています。
コロナ禍をはじめ、世界を突き動かした変化の震源地は、すべて日本の外でした。しかし、瞬く間に地球の隅々まで到達し、日本に住む私たちの生活や仕事、そして価値観すら揺さぶりました。このような時代に住む今、改めて日本と世界を一体的に捉え、私たちも世界史の一員であるという視点、すなわち「地域から考える世界史」がもつ意義を痛感します。このコンセプトは桃木至朗監修・藤村泰夫・岩下哲典編『地域から考える世界史― 日本と世界を結ぶ』(勉誠出版、2017 年)
にて詳述されているので重複は控えますが、この書の「監修者はしがき」の末尾には「全国津々浦々の『地域から考える世界史』が続々と出版されることを祈る」とあります。この呼びかけに手を挙げたのが本書です。
本書の舞台は神奈川です。神奈川は世界の一部であり、神奈川の歴史は世界史の一コマであるこ
とを示すことが本書の目的です。本書で取り上げられている歴史の舞台に読者が立ち、足元が世界史と繋がっていることを実感していただきたいとの想いから、フィールドワークの参考になる情報にも力を注いでいます。
本書は高校・大学の教員チームが議論を重ね、学生や生徒に語りかけるように容易な記述を心がけました。しかし編者としては、官公庁やビジネス、そして非営利団体など、社会の第一線で活躍する方々にも手に取って頂きたいと考えています。地域という足元を世界史につなぐことを通じて新たな歴史教育のありかたを提示する本書は、今という時代を理解するためにも多くの示唆があると信じるからです。
版元から一言
「地域から考える世界史」のコンセプト
これまで世界史といえば、自分たちの地域とは無縁のものと考えられてきた。しかし、今日、アジア諸国との歴史認識をめぐる対立のなかで、もはや自国だけの歴史を知っていればことたりる時代ではなくなった。自国の歴史の相対化、他国との相互交流の歴史、つまり世界史のなかでとらえる日本の歴史が必要とされる時代となったわけである。それは、2022 年から始まる高等学校学習指導要領の地歴科の新しい歴史科目の根底を流れるコンセプトとなっている。
世界史のなかで日本をとらえるといっても、日本列島の各地で起こっているできごとを見ていくことが原点であり、私たちの住んでいる地域がその対象になる。そして、地域から世界史を考えるということは、地域のなかに生きる自分の存在を世界史というフィルターにかけて考えることであり、その結果、自分が世界史と密接なかかわり合いをもちながら存在していることに気づく。
また、地域の過去を見つめることは、その延長線上にある現在や未来を考えることであり、そこに、世界史を学ぶ意義を見いだすことができるのである。
上記内容は本書刊行時のものです。