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季語になれなかった疱瘡
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2023年3月1日
- 登録日
- 2023年2月4日
- 最終更新日
- 2023年2月20日
紹介
古来、疱瘡は、はしかと共に人びとを震撼させた死に至らしめる疫病であった。その流行の悲惨な有り様は、洋の東西を問わず多くの文芸作品の題材ともなっている。
江戸時代には、松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶を始め、蕉門の人々により疱瘡とそれにまつわる句が詠まれている。しかし現在、植疱瘡、疱瘡痕、はしかは季語として残っているが、疱瘡は季語ではない。
疱瘡という病と、その病と人類の闘いを、多くの資料を元に説明し、なぜ疱瘡は季語になれなかったかという疑問に迫る。
目次
日本史上の疱瘡とはしか
疱瘡の初めての記載と名称の推移
疱瘡は何処から来たのか
わが国の疱瘡の疫史
地方における疱瘡の流行
疱瘡の正体
医学的見地からみた疱瘡とジェンナーの業績
微生物とは
ポックスウイルス科
ウイルスは何処から来たのか
疱瘡とはしかの鑑別
疱瘡予防の歴史
エドワード・ジェンナーの業績
明治・大正・昭和時代の種痘、植疱瘡
ゲノム時代の疱瘡ウイルスと疱瘡ワクチン
疱瘡と文芸作品
文芸作品に書かれた疱瘡
疱瘡の句
疱瘡神の句
疱瘡とはしかの句
はしかの句
季語というもの
まとめ
前書きなど
人類の歴史は疫病との戦いの歴史でもあった。ペスト、コレラ、スペイン風邪、疱瘡、はしかなどその流行の悲惨な有り様は、洋の東西を問わず多くの文芸作品の題材ともなった。江戸時代には、松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶をはじめ、蕉門の人々により疱瘡とそれにまつわる句が詠まれている。
ある時、「はしかは季語ですよ」と教えて下さったのは、知音俳句会代表のお一人西村和子先生である。ならば、疱瘡は如何かと調べ始めたのが本書のはじまりである。確かに、はしかは春、もしくは夏の季語であるが、疱瘡はどの歳時記、季語集にも載っていなかった。これにはどのような経緯があったのであろうか。
古来、疱瘡は、はしかと共に人びとを震撼させた死に至らしめる疫病であった。言うまでもなく病の原因は分からず、予防することも治療の術も知る由はなかった。一度、疱瘡流行の知らせが伝わるや、神仏に祈念するか、呪いに頼るのが常で、時には罹患者、未罹患者それぞれを人里離れた地に隔離し、収まるのを待つ、ただ、それしかなかった。
しかし、時を経て疱瘡は、一七九八年(寛政十)、英国のエドワード・ジェンナー「牛痘種痘法」の報告を端緒に、現代に至る世界的規模の予防措置により、この地球上から姿を消した。
付け加えれば、はしかは一九五四年(昭和二十九)、米国のジョン・エンダースとトーマス・ピーブルスによるはしかウイルスの発見と一九六四年のはしかワクチンの開発という功績により、この世から消滅しつつある。
俳句は季語(季題)を入れた五、七、五の三音(拍)を基本の形とする十七音の詩である。江戸時代の俳諧の一部が発句、つまり俳句になったという。この俳句に必須の季語の成り立ちの歴史には諸説あるというが、その一つを挙げれば、和歌の時代に詠う題目から生まれた季節限定の美しく創られた言葉であり、連歌の時代には詠われる事物の本性が問われ、更に俳諧の時代になると芭蕉自らの旅の体験から、伝統的本意からの脱却と現実回帰の志向になったという。
季語は現在、五千余を数えるという。
本書は「疱瘡は何故、季語になれなかったのか」を主題に、手許の史籍、書誌、史料、資料を参考に学び、問いつつ、稿を進めた。概要は、日本史上の疱瘡とはしか、医学的見地からの疱瘡とジェンナーの業績、疱瘡と俳句の三部からなる。
(「本書「はじめに」より」
上記内容は本書刊行時のものです。