書店員向け情報 HELP
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
1冊でわかる ピアノのすべて
調律師が教える歴史と音とメカニズム
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年3月20日
- 書店発売日
- 2021年3月25日
- 登録日
- 2021年2月19日
- 最終更新日
- 2021年11月23日
紹介
聴く人にも、弾く人にも、調律を志す人にも!
ベテラン調律師が長年の経験と研究成果のありったけを注ぎ込み、
豊富な図版を駆使してレクチャーします!
ピアノの中を覗いて見たこと、ありますか?
ピアノの音がどうやって鳴り響くか、知っていますか?
調律師だけが知っている「魅力的な音色をつくるワザ」、伝授します!
ドイツのピアノメーカーにも招聘されたピアノ調律師が
長年の経験と研究成果のありったけを注ぎ込み、
自ら作成した詳細な図版をもちいてピアノの歴史・音・仕組みを徹底解説。
「モーツァルトがびっくりしたピアノ」「ショパンの弾いたとんでもないピアノ」
「信長とピアノ」といった知られざる歴史エピソードから、
誰もが悩むさまざまな音律の問題、演奏者が知っておきたい内部構造、
打鍵やペダルのメカニズムまで、痒いところに手が届く紙上レクチャー。
用語集も兼ねた索引や、グランド・ピアノ、アップライト・ピアノそれぞれの各部名称図も完備。
聴く人にも弾く人にも、調律を志す人にもおすすめの1冊です!
目次
はじめに
第1章 ピアノの歴史
1.ピアノの誕生
1 ピアノの原点
2 ピアノは名詞それとも形容詞?
3 ピアノ誕生前の楽器
4 ダルシマーを知っていますか?
5 イタリア人は天才!──クリストフォリ
6 もうひとつのピアノ史
2.ピアノの変遷
1 ジルバーマンはすごい!
2 モーツァルトがびっくりしたピアノ
3 「ウィーン式」と「イギリス式」メカニック
4 ショパンの弾いたとんでもないピアノ
3.近代ピアノの成立
1 戦争とピアノ──産業革命からフランス革命へ
◎七年戦争/産業革命/アメリカ独立戦争/フランス革命
2 フランス万歳!
3 近代ピアノの規範──アメリカの栄光と挫折
4.日本のピアノ
1 日本のピアノの夜明け──寅楠と虎吉
2 信長とピアノ
3 シーボルトとピアノ
4 ピアノは浜松それとも横浜?
第2章 ピアノの音と音律
1.ピアノの音
1 弦の振動
2 ピアノの音色
3 弦の性質と音程
4 ピアノのピッチと音律
2.ピアノの音律
1 音律の歴史──ピタゴラスにはじまる
2 覚えておきたい音律と用語
◎セント/ピタゴラスコンマ/シントニックコンマ/
ピタゴラス音律/純正律/中全音律(ミーントーン)/
ヴェルクマイスターIII音律/ヴァロッティ音律/平均律
3.調律に挑戦!
1 調律とは?
2 調律の工具
◎チューニングハンマー/ミュート類(ウェッジ)/
音叉・チューナー
3 調律を始める前に
◎うなり/ユニゾン/割振り
4 調律の実践
◎インハーモニーシティ
5 コンピュータとIMSLP革命
6 グイードの手からハンドサインへ
7 モノコード
第3章 ピアノの機能と構造
1.ピアノの機構──ピアノの中をのぞいてみよう
1 ピアノの機構
2 ピアノの名称
◎アップライト・ピアノの名称/グランド・ピアノの名称
3 ピアノの材料
◎木材/木材の加工工程(木材の含水率)/金属/
合成樹脂/繊維・皮革
2.発音機構──ピアノの響きを知る
1 振動体
◎弦/チューニングピン/ピン板/鉄骨(フレーム)/
ベアリング(支点)/アリコート・システム
2 共鳴体
◎響板・響棒/響板と駒
3.打弦機構──ピアノ・テクニックの基本
1 アクションの成立
◎ダルシマー/クラヴィコード/チェンバロ/ピアノ/
クリストフォリのピアノ/イギリス式ピアノ/
ウィーン(ドイツ)式ピアノ/ウィーン式ピアノ/
ダブルエスケープメント
2 鍵盤
◎鍵盤の材料/鍵盤数/ピアノを超えたピアノ──ムーア・ピアノ/
あがき──鍵盤の深さ
3 アクションの動きとダブルエスケープメント
4 ハンマー
5 ダンパー
◎グランド・ピアノのダンパー/ダンパーの数/
ダンパーフェルトの形状/フォルテピアのダンパー/
アップライト・ピアノのアクションとダンパー
4.ペダル機構──上手に使って表現しよう
1 グランド・ピアノの場合
◎ダンパーペダル/ソステヌートペダル/シフトペダル/
ピアノとダルシマー
2 アップライト・ピアノの場合
◎ダンパーペダル/シフトペダル/弱音ペダル
3 ペダルの歴史──ペダルのなかった時代
◎足で操作する「ペダル」はいつ、どこで?
5.外装──さまざまな工夫
◎側板/大屋根/支柱
おわりに──御礼とともに
事項索引
外国人名索引
邦人名索引
グランド・ピアノの各部名称図
アップライト・ピアノの各部名称図
前書きなど
はじめに
ピアニストへの登竜門として有名な日本音楽コンクールは、とくに音楽大学の学生には、あこがれであり、また目標のひとつです。かつて私の受講生のひとりが、このコンクールに挑戦し、みごとに本選まで駒を進めました。東京の先生宅のピアノを借りて、彼女は最後の練習に余念のない日々を送っていました。そんな日の夜更けに、私の携帯が鳴りました。「練習中に、ピアノの中にペンを落としてしまいました! ヤマハなら蓋を外せるのですが、スタインウェイはぜんぜん取れません……」。
私は音楽大学で「ピアノ構造論」という講義を20年間、担当しました。簡単なピアノの歴史、機能と構造などを、技術者としての経験と立場からお話しする社会人講師によるユニークな授業です。講義で大人気だった「解体授業」では、ピアノの蓋の外し方や取り付け方、ピアノ・アクションの出し入れまでをクラス全員がトライしました。演奏技術がすばらしいだけでなく、私の講義の成績も良かった彼女は、電話だけのアドヴァイスでみごとに蓋を外し、中にあったペンを取り出すのに成功しました。ただ、ペンは1本ではなく、他に3本もあったそうです……。
講義で使っていた教科書はずいぶんと古いものでした。がんらいはピアノ技術者を養成する機関で使用するために編纂したもので、そのためにじっさいの演奏に役立つ記述が少なく、必要なものはプリントして補足していました。本書はそうした経験を踏まえて、大学の定年を機に新しく書き直したものです。ピアノの歴史にかんする記述を増やして、学生だけでなく一般のピアノ愛好家にもわかりやすくて、楽しく読め、演奏やレッスンにも活用していただけるよう心がけました。
ピアノとの関連で取り上げられることのあまりなかった「ダルシマー」などについてはとくに記述を繰り返しています。ピアノの成り立ち、ピアノの原点としての重要性を理解していただくためです。弦を叩いて音を出す原理、複数弦の響きの妙、あるいはペダルへの発展などが、近代ピアノの完成に結びつく過程は、まるでドラマのように面白く、ピアノやピアノ音楽を理解するうえで欠かせない項目だと思っています。「ダルシマー」から生まれた初期のピアノにつづくフォルテピアノの知識や学習は、昨今のピリオド楽器によるコンサートやコンクールへの関心や理解にも役立つと思います。
ピアノから音が出るのは、指の延長である鍵盤がシーソー運動をし、そこからはじまるアクションの動きが、歯車のような機械的なものでなく、フレンジと呼ばれる部分の軸を中心に回転運動をし、最終的に遠心力をともなってハンマーが弦を叩く仕組みにあります。この時のスピードが音の強弱や音色のポイントになるのです。ピアノの学習はとかく演奏技術の熟達に重きが置かれていますが、美しい音を出すためには、ピアノの仕組みの理解やイメージがとても大切だと思っています。黒い壁(板)に囲まれたピアノの内部をイメージすることはたいへん難しいことですが、ぜひこの本のページを開いて理解を深めてください。練習に疲れたら、第1章の「ピアノの歴史」を訪ねてみてください。プリミティヴな楽器の中にこそ、光り輝く新しい音の世界、無限に広がるピアノの可能性があったことに共感していただけることと思います。
ピアノが栄華を極めた時代は、革命や植民地戦争が繰り広げられ、専制政治や帝国主義が擡頭した時代でもあります。自由で平和な時代を生きる私たちが、ピアノをそして音楽を享受できることに感謝したいと思います。明治のはじめに島崎藤村は東京音楽学校に入学しました。そのきっかけになったのは、かつての恋人の佐藤輔子が音楽学校をめざした理由は、「演奏家や音楽家になるためではなく、音楽を学ぶことで人格を高めたい」という、そんな彼女の想いに影響されたからだと聞いています。
私はピアノの学習が、人生や人格形成に役立つものと思っています。そんな思いからこの本では歴史を楽しく学んで、現代のピアノをやさしく理解できるように、作図やレイアウトに工夫を凝らして書き上げました。いままで気づかなかった事柄や新しい発見がみなさんを愉しいピアノワールドへといざない、豊かなピアノ人生に寄与することができれば、望外の喜びです。
2021年3月 青山一郎
上記内容は本書刊行時のものです。