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新装版 バッハ・古楽・チェロ アンナー・ビルスマ(著) - アルテスパブリッシング
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Booksウト

新装版 バッハ・古楽・チェロ アンナー・ビルスマは語る

四六判
304ページ
並製
価格 2,200円+税
ISBN
978-4-86559-226-9
Cコード
C1073
教養 単行本 音楽・舞踊
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2020年6月30日
書店発売日
登録日
2020年5月26日
最終更新日
2020年6月28日
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紹介

音楽は「言葉」。
そして、演奏とは「語る」こと──。

草創期の古楽運動を牽引した
バロック・チェロの巨匠が
日本を代表するチェンバロ奏者と語り合う。
レオンハルト、ブリュッヘンらとの交遊、
「セルヴェ」ストラディヴァリウスなど名器・愛器、
バッハ《無伴奏チェロ組曲》などをめぐる
音楽論・演奏論を語り尽くす!

幼少時代~古楽創世記・現代までの貴重な写真を多数掲載。

2019年7月25日に逝去したアンナー・ビルスマを偲び、
普及版として再出版!

※本書は2016年にCD付き書籍として刊行された
 『バッハ・チェロ・古楽──アンナー・ビルスマは語る』から書籍を独立させ、
 共著者・渡邊順生による序文を追加し、
 その他加筆・訂正をほどこして再出版するものです。

 旧版の付属CDは2020年3月、コジマ録音から
 『アンナー・ビルスマin東京』と題して発売されました。
 http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD1196.html

目次

新装版への序(渡邊順生)

プロローグ(加藤拓未)

第1部 音楽活動、仲間たち、そして人生
 シモン・ゴルトベルク
 父のこと
 ハーグ王立音楽院への入学
 恩師レーヴェン・ボームカンプ
 ネーデルラント歌劇場管弦楽団
 カサルス・コンクール優勝
 スランプ
 ブリュッヘンとの出会い
 音楽家の「キャリア」について
 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 古楽へのシフト
 テレマン《パリ四重奏曲》の録音
 初期の活動──ブリュッヘンとレオンハルト
 ヴォルフ・エリクソン
 オランダ古楽界のこと
 ロンドム・カルテット
 フェラ・ベッツとの出会い
 ラインベルト・デ・レーウ
 マテイス・フェルミューレン
 ブダペストのリスト賞
 バッハの《無伴奏チェロ組曲》に取り組み始めた頃
 ハルモニア・ムンディでの録音
 「セルヴェ」ストラディヴァリウスとの出会い
 旅する音楽家
 日本人の古楽演奏家とその聴衆
 アムステルダム音楽院
 チェロのレッスン
 弟子たち
 鈴木秀美
 ラルキブデッリ
 音楽文庫
 私の病気について
 理想の演奏会

ビルスマのアルバムから

第2部 チェロ、センツァ・バッソ
チェロについて
 所有している楽器
 チェロ・ピッコロ
 「セルヴェ」ストラディヴァリウス
 バロックとモダン──チェロの構造の変化について
  〈エンドピン〉
  〈ガット弦〉
  〈スティール弦〉
  〈弓について〉
  〈楽器本体の変化〉
 音楽は「物語」
 重要な音、重要でない音
 「語る」音楽
 聴衆とともに演奏する
 「線の太い」音楽と「語る」音楽
バッハのセンツァ・バッソ
 バッハの無伴奏楽曲とは?
 3つの通奏低音手法
 アンナ・マクダレーナ・バッハの写本について

第3部 《無伴奏チェロ組曲》の奏法
 「ボウイングの原則」11箇条
 バッハの「エトセトラ」と「ゼクヴェンツ」

《無伴奏チェロ組曲》第1番
 1 プレリュード
 2 アルマンド
 3 クーラント
 4 サラバンド
 5メヌエット
 6 ジーグ
 ◎フランス様式とイタリア様式のボウイング

《無伴奏チェロ組曲》第2番
 1 プレリュード
 2 アルマンド
 3 クーラント
 4 サラバンド
 5 メヌエット
 6 ジーグ
 ◎運指法にかんして

《無伴奏チェロ組曲》第3番
 1 プレリュード
 2 アルマンド
 3 クーラント
 4 サラバンド
 5 ブーレ
 6 ジーグ
 ◎6つの組曲が作曲された順番は?

《無伴奏チェロ組曲》第4番
 1 プレリュード
 2 アルマンド
 3 クーラント
 4 サラバンド
 5 ブーレ
 6 ジーグ
 ◎ヴィオラ演奏説

《無伴奏チェロ組曲》第5番
 1 プレリュード
 2 アルマンド
 3 クーラント
 4 サラバンド
 5 ガヴォット
 6 ジーグ
 ◎ヴァイオリンの名手バッハ

《無伴奏チェロ組曲》第6番
 1 プレリュード
 2 アルマンド
 3 クーラント
 4 サラバンド
 5 ガヴォット
 6 ジーグ

第4部 音楽について、そしてボッケリーニ
 「文化」と「芸術」の違い
 演奏家について──グレン・グールド、パブロ・カサルス
 室内楽
 ヴィヴァルディの音楽
 ベートーヴェン
 モーツァルトの協奏交響曲(未完成)の第1楽章
 ボッケリーニについて
 弦楽五重奏曲の録音
 作曲家ボッケリーニ
 「ボッケリーニのメヌエット」
 ボッケリーニの音楽と時代精神
 ボッケリーニの弱音表示
 「人を楽しませる」音楽
 ハイドン、ベートーヴェンとボッケリーニ
 ボッケリーニの「サウンド」
 シューベルトへの影響
 ボッケリーニの消滅

ビルスマの思い出と彼の芸術(渡邊順生)
 ビルスマの思い出
 ビルスマの演奏
 佐々木節夫メモリアル・コンサート
 ビルスマのレコード
  アンナー・ビルスマ・コレクション
  ヴォルフ・エリクソンとダス・アルテ・ヴェルク・シリーズ(テレフンケン)
  セオンとBASF
  1980年代の録音
  ヴィヴァルテと1990年代
  ベートーヴェンのチェロ・ソナタ
  バッハの《無伴奏チェロ組曲》のDVD

前書きなど

プロローグ(加藤拓未)

 2013年8月20日、私はオランダのスキポール空港に到着した。これから1週間にわたって、渡邊順生氏とともにチェロ奏者のアンナー・ビルスマさんにロング・インタヴューを敢行し、それを翻訳して本にまとめるためである。

 「アンナー・ビルスマ」

 「古楽」ファンであればこの名を知らない人は、まずいないだろう。バッハをはじめとする19世紀以前の音楽を「当時の楽器(古楽器)」で演奏する有効性にいち早く気づき、1960年代から、グスタフ・レオンハルト、フランス・ブリュッヘンらとともに、いわゆる「古楽ブーム」を切り開いてきた、現代の生ける「レジェンド」のひとりだ。彼が録音した、バッハの《無伴奏チェロ組曲》のCDを今でも愛聴しているというファンも少なくない。渡邊順生氏は鍵盤楽器奏者として、ビルスマさんと過去に何度も共演を重ねた旧知の仲であり、その縁あって今回の企画が実現したのである。
 ビルスマさんは、アムステルダムにあるフォンデル公園の付近に住んでいる。そこで、私は空港から移動し、公園の外れにあるアムステルフェーン通り近くのホテルに陣取った。
 フォンデル公園(Vondelpark)はアムステルダムの南西区にあり、市街地のなかでも最大級の面積を持つ公園で、いわば都会のなかのオアシスのような空間だ。1865年に開設され、当時は「新公園(Nieuwe Park)」と呼ばれていたが、後に17世紀の作家ヨースト・ファン・デン・フォンデルにちなみ、現在の名称に変更された。滞在中、ビルスマさんの家とホテルを往復するさい、何度もこの公園を通り抜けたので、すっかりなじみの場所となった。園内では、ピクニックを楽しむ家族連れや、ジョギングをする人をよく見かけ、そうしたのどかな光景に加えて、広大な美しい緑に、いつも癒される思いがした。
 翌21日、コンセルトヘボウの並びにある「スモール・トーク(Small Talk)」というカフェの前で、先に現地入りしていた渡邊氏と待ち合わせた。ビルスマさんの家は、そこから歩いて10分くらいの閑静な住宅街のなかにある。お宅のそばには立派な教会があって、とても印象的なのだが、現在はもう使われていないという。青緑色の玄関の前にたどりつき、ふと玄関の表札プレートに目をやると、こうあった。

 A. Bijlsma
 V. C. Beths

 この玄関の向こうに、あの「レジェンド」がいるわけである。「いよいよか……」と、少し引き締まった気持ちを覚えた瞬間、渡邊氏が玄関の呼び鈴を押した。なかから「入っておいでよ」という声が聞こえ、渡邊氏は手馴れた感じで、玄関のドアを押し開けた。玄関からすぐ右手にある部屋に入ると、そこがキッチン兼ダイニング兼リビングの広い部屋となっていた。そこで歩行器とともに立っていたのが、アンナー・ビルスマさんである。
 ビルスマさんは、ニコニコと穏やかな笑顔で、私たちを歓迎してくれた。かたわらには、奥様でヴァイオリンの名手であるフェラ・ベッツ夫人もいた。われわれは、中庭の見えるリビングに案内され、私を挟むように左側にビルスマさんが、そして右側に渡邊氏が着席した。ただし、ビルスマさんは、ふつうの椅子ではなく、歩行器の上に腰かけている。脚に力が入らないせいか、腰かけたり、立ち上がったりするのに難儀されていたので、そのたびに手伝おうとすると、「ダメ、甘やかしちゃダメだよ」と言って、あくまでも自力にこだわって立ち座りをされていた。こうしたなか、ビルスマさんへの1週間におよぶインタヴューが始まったのである。
 インタヴューは、渡邊氏による質問に対し、ビルスマさんがそれに答える形で進められたが、ビルスマさんは、とても精力的に話してくださった。その受け答えは、すべて英語でおこなわれた。お会いする前は、CDのジャケット写真から連想する「繊細で気難しい巨匠」の印象を抱いていたが、それはまったくの杞憂に終わった。実物は、とても気さくなキャラクターだ。まじめに自分の音楽哲学を語っていたかと思うと、それはいつのまにか脱線し、ジョーク話へと変わった。話のオチはほとんど冗談になってしまう。あの《無伴奏チェロ組曲》を演奏する崇高な姿と、目の前にいる、この「ひょうきんな巨匠」の姿は、ちょっとしたギャップだ。
 要するに、ビルスマさんは、サービス精神が旺盛なのだ。自分と面会する人には、自分と会って話をしたことで、少しでも幸せを感じて帰ってほしいと、日々願っているのだろう。
 それからビルスマさんは、コーヒーがお好きだった。インタヴュー中、よくコーヒーをおかわりしていた。そこで、渡邊氏が近所のコーヒー専門店でコーヒーメーカー(カプセル方式で10種類以上の味が楽しめるという代物)を入手し、ビルスマさんにプレゼントしたところ、とても喜ばれた。そのおかげか、それ以降、インタヴューの内容がいっそう充実したものになった気がする。
 ビルスマさんのお話のなかで、私がいちばん強く印象に残っているのは、彼が「音楽は愛だ」と語ったときである。これは、ビルスマさんの本質そのものではないかと思った。
 ビルスマさんはバッハの音楽を「愛」しているから、「バッハが本当に考えていたこと」を求めずにいられない。そんな彼にとって、現代の音楽界の常識や、伝統的な解釈など足枷にすぎない。というか、バッハの音楽とは、無関係にしか思えないに違いない。だからこそ《無伴奏チェロ組曲》を弾くうえで、市販の楽譜では飽き足らず、バッハがじっさいに手にし、見たと思われる、夫人のアンナ・マクダレーナ・バッハによる写本にこだわり、そこからバッハの本当の創作意図を見極めようとするのである。
 このアンナ・マクダレーナ写本は、現在のバッハ研究では、筆記ミスの多い不正確な資料と見られている。そのため、出版譜の多くは、校訂者が自分なりの解釈をほどこしたものとなっており、またじっさいの演奏でも、ほとんどの奏者が自己流の解釈を加えてしまっている。
 しかし、ビルスマさんはバッハを愛しているからこそ、その「バッハが愛した妻」が一所懸命に書き写した筆写譜を、無下に「間違いだらけ」と退けることができないのである。ビルスマさんも、音楽家である奥様をとても愛しているから、なおのことバッハがどういう気持ちで、自分の作品の筆写を妻に頼んだのか、他人事とは思えないのだろう。
 だからビルスマさんは、ほかの誰よりも律儀にアンナ・マクダレーナ写本に立ち返り、演奏解釈を定めている。そこには、巨匠にありがちな驕りなど微塵もない。彼はじつに厳しく、バッハにもっとも近い資料を尊重した解釈を展開する(その動機は「愛」だ)。楽譜の所々を、ちょこちょこと少しずつ、我流で勝手に書き直している出版譜や演奏より、ビルスマさんの姿勢は、ずっと実直だ。
 今回のインタヴューをとおして、アンナ・マクダレーナ写本のコピーを参照しながら話すビルスマさんの姿にくり返し接した。そして人情味あふれた見方をしながらも、資料をもとにしたその客観的な解釈は真剣に傾聴すべきものだと、あらためて実感した。こうした姿勢は、ボッケリーニやベートーヴェンといった、ほかの作曲家に取り組む場合でも同じである。
さて、ぜひページをめくって読み進めてもらいたい。そこには、ビルスマさんの「愛」がいっぱいにつまった言葉が、数多く並んでいる。そして、この愛すべきレジェンドの言葉をとおして、彼が感じ、表現してきた広大な音楽世界の一端でも、読者のみなさんに共有していただければと思う。

著者プロフィール

アンナー・ビルスマ  (アンナー ビルスマ)  (

1934年2月17日、オランダのハーグに生まれる。コンセルトヘボウ管弦楽団のチェロ奏者カレル・ファン・レーウェン゠ボームカンプに師事し、1957年ハーグ王立音楽院を卒業。1959年にはメキシコのパブロ・カザルス国際チェロ・コンクールで第1位に入賞。1962年から68年にかけてアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団で首席奏者を務めるかたわら、バロック音楽にも積極的に取り組み、特にリコーダーのフランス・ブリュッヘン、チェンバロのグスタフ・レオンハルトとのアンサンブルは「黄金のトリオ」の異名を取った。
1970年代に入ると、バロック・チェロによるバッハ《無伴奏チェロ組曲》を世界各地で演奏し、1979年にセオン・レーベルに全曲録音をおこなう。室内楽にも意欲的で、オリジナル楽器によるフレキシブルな編成の弦楽アンサンブル「ラルキブデッリ」を結成して多様な活動を展開するいっぽう、ピアニストで作曲家のラインベルト・デ・レーウらとともに現代音楽のアンサンブルである「ロンドム・クヮルテット」を結成し、メシアンの《世の終わりのための四重奏曲》などで高い評価を得た。バロックから古典・ロマン派を経て、近・現代の音楽にいたるまであらゆる時代のチェロ音楽を手がけたが、そのいずれにおいてもガット弦を張ったチェロを用い、ニュアンス豊かで生き生きとした演奏をおこなった。
1962年に録音活動を開始し、独テレフンケンを皮切りに、ドイツ・ハルモニア・ムンディ、セオン、BASF、フィリップス、EMIなどのレーベルから多数のレコード・CDをリリース。1990年代からはソニー・クラシカルの古楽専門レーベルVIVARTEを中心に数多くの録音を残し、なかでも1992年にストラディヴァリ作の名器「セルヴェ」(モダン仕様)をもちいておこなったバッハの《無伴奏組曲》の再録音は、世界中の弦楽器界に大きな反響を巻き起こした。
著作に『バッハ──フェンシングの達人(Bach ― the Fencing Master)』(1998)、『バッハのセンツァ・バッソ(BACH senza BASSO)』(2012)、『バッハと特権的少数派(Bach and the Happy Few)』(2014)、『落としもの──バッハ《無伴奏チェロ組曲》の最初の3曲のための練習帳(Dropping ― An Exercise Book for the First Three Cello Suites of Johann Sebastian Bach)』(2015)などがある。
2019年7月25日、アムステルダムで逝去、享年85。

渡邊 順生  (ワタナベ ヨシオ)  (

1950年、鎌倉市に生まれる。チェンバロ、フォルテピアノ、クラヴィコード奏者および指揮者として活躍。2010年度サントリー音楽賞受賞。一橋大学社会学部卒。アムステルダム音楽院でグスタフ・レオンハルトに師事。1977年、最高栄誉賞付きソリスト・ディプロマを得て卒業、またプリ・デクセランス受賞。フランス・ブリュッヘン、アンナー・ビルスマ、ジョン・エルウィスら欧米の名演奏家・名歌手たちと多数共演。ソニー、コジマ録音、創美企画などから多数のCDをリリース。2006年、崎川晶子との共演による『モーツァルト/フォルテピアノ・デュオ』でレコード・アカデミー賞(器楽曲部門)を受賞。著書に、『チェンバロ・フォルテピアノ』(東京書籍)、校訂楽譜に『モーツァルト:幻想曲とソナタ ハ短調』、『モーツァルト:トルコ行進曲付きソナタ』(ともに全音楽譜出版社)などがある。

加藤 拓未  (カトウ タクミ)  (編・訳

1970年、アメリカ合衆国ワシントン州シアトル生まれ。専門はJ.S.バッハを中心とするドイツ宗教音楽史(特に受難曲の歴史)。国立音楽大学大学院修了。明治学院大学大学院博士後期課程修了(博士〔芸術学〕)。NHK-FM「バロックの森」「ベストオブクラシック」に解説者として出演。著作に『バッハ・キーワード事典』(春秋社)など。現在、明治学院大学キリスト教研究所協力研究員、合唱団「バッハ・ゲゼルシャフト東京」代表、NHK-FM「古楽の楽しみ」案内役。

上記内容は本書刊行時のものです。