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求むマエストロ。瓦礫の国の少女より ポール・マカランダン(著) - アルテスパブリッシング
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求むマエストロ。瓦礫の国の少女より (モトムマエストロ ガレキノクニノショウジョヨリ) イラク・ナショナル・ユース・オーケストラの冒険 (イラクナショナルユースオーケストラノボウケン)
原書: UPBEAT ― The Story of the National Youth Orchestra of Iraq

芸術
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四六判
440ページ
並製
価格 2,500円+税
ISBN
978-4-86559-195-8   COPY
ISBN 13
9784865591958   COPY
ISBN 10h
4-86559-195-8   COPY
ISBN 10
4865591958   COPY
出版者記号
86559   COPY
Cコード
C1073  
1:教養 0:単行本 73:音楽・舞踊
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2019年5月31日
書店発売日
登録日
2019年4月23日
最終更新日
2019年6月12日
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書評掲載情報

2019-07-27 日本経済新聞  朝刊
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紹介

17歳のイラク人少女の呼びかけに応えたスコットランド人指揮者のポール。
彼を待っていたのは、楽器もなく技術もない、熱意だけは一人前の若者たちだった──
音楽の奇跡に心躍る感動のノンフィクション!

風変わりな冒険に放りこまれた
クルド人、アラブ人、アメリカ人、イギリス人が、
おずおずと最初の一歩を踏みだした。
誰もがおたがいをちょっと警戒し、でも少しだけ信頼していた──

本書の主人公はスコットランドの指揮者ポール・マカランダン。
2008年、バグダッド在住の17歳のピアニスト、ズハル・スルタンが「マエストロ求む」と呼びかけた新聞記事に目を留めたことをきっかけに、イラク・ナショナル・ユース・オーケストラの音楽監督に就任する。
オーケストラの設立に尽力し、YouTubeでオーディションをおこない、ファンドレイジングにかかわり、イラク国内はもとよりヨーロッパ各地に招かれて演奏ツアーを敢行。
2014年にISIL(イスラム国)の台頭にともなう国情の悪化によって解散するまで、ともすれば不安定な政情や他国人の無理解、民族間の感情的軋轢などによって迷走しながらも、世界に向けて高らかに「音楽の力」を謳い上げたイラク・ナショナル・ユース・オーケストラとポールの7年間を克明に描き出す。

解説=樋口美治(中東音楽研究家)

目次

序文(サー・ピーター・マクスウェル・デイヴィス)
はじめに

1 イラクの若者、マエストロを求む
2 五万ドルのつぶやき
3 スレイマニヤでキックオフ
4 一触即発
5 そして壁は崩れた
6 暗闇に住まわせておくれ
7 傷心のオーケストラ
8 ドイツへの扉が開く
9 友だちってそういうもの
10 ありえないミッション2011
11 ダモクレスの剣
12 イラクの外交使節
13 イギリス礼賛
14 エディンバラの端っこで
15 スコットランドとの和解
16 呼吸と死
17 パラドックス
18 渇き
19 活動の頂点
20 エクサンプロヴァンスの十字路
21 火星へのミッション
22 エルジンの解決策
23 イラクとの和解
24 熱意
25 イラク人とは

解説(樋口美治)

前書きなど

序文

サー・ピーター・マクスウェル・デイヴィス CH CBE

 二〇〇三年、アメリカとイギリスによるイラクへの軍事介入がいよいよ気配濃厚になると、世界中の人びとが憤り、街頭に繰りだして怒りの声をあげた。私もそのひとりだった。だが抗議活動もむなしく、三月一九日、侵攻は始まった。
 抵抗はむだだったかもしれない。だが、倫理的に許せないという義憤に国境はなかったし、自分たちが誰に、どんなふうに支配されているのかじっくり見つめなおすきっかけにもなった。イギリスの『ニュー・ステイツマン』誌には、私のこんなコメントが掲載された。「民主主義は、イギリスでは正しい理念のはずだが、それが実行された証拠がどこにもない。作曲家として、私はこの時代を証言しなくてはならない」
 軍事作戦が終了し、サダム・フセイン政権が倒れ、イラクは占領下に入った。ともかく膿は出しきったのだから、たとえ事態が悪化してもいずれ傷は治るはず。関係者はそう信じていただろう。
 私は音楽を通じて表現を続けており、このころはナクソスからの依頼で弦楽四重奏曲第三番に取りくんでいた。さりげないかたちで戦争に言及し、どこまでも寒々としている―それが私の証言だった。偏狭な民族意識に毒されたイラクには、思いやりや慈悲の心はどこにも残っていないと思われた。だが人間の精神がそれほどやわではないこともまた事実。アラブ人とクルド人が対立するイラクでも、詩人W・H・オーデンが書いたように、正義が「言葉を交わす」ところでは、「皮肉な光の点」が「まぶしく輝いて」いたはずだ。
 正義とはイラクの若きクラシック演奏家たちのことだ。その光はインターネットを通じて輝いた。彼らのクラシック音楽への愛と果てしない向上心は、けっして減じることはなかったし、そうなるはずもなかった。イラクにいながらにしてアメリカやヨーロッパの教師のリモートレッスンを受け、CDを聴いて耳からも学ぶ。乾燥した気候のなかで楽器の手入れを怠らない―ただ彼らは、程度の差こそあれ孤独だった。
 そんな孤独に風穴を開けたのが、ズハル・スルタンというひとりの女性だった。彼女はイラク・ナショナル・ユース・オーケストラをつくろうと思いたった。
 ズハルはインターネットを駆使してあちこちに働きかけ、コネをたどりにたどって、ついに指揮者のポール・マカランダンとつながることができた。信仰心のある人なら、神のみわざと思いたくなるような展開だ。まさに適役の人物が、人生のどんぴしゃのタイミングで、心をかきたてられる直球のメッセージを受けとったのである。
 ポールはがぜんその気になり、昔のつきあいやごぶさたの人、会ったことのない人まで、人脈を総動員した。オークニー諸島に暮らす私に電話がかかってきたのは、ポールとは昔からの親しい友人だったからだ。私はすぐに協力を約束した。こういう話は、全部を聞く前から心が歌を歌いはじめる。イラクの若い人たちが音楽によって荒廃から立ちなおろうとする姿勢はすばらしいし、ずっと若者と音楽にかかわってきた自分にとっては、人生の原点であり、続きであり、延長でもあった。
 「超越」は安易に乱発されている言葉で、新生(ボーンアゲイン)を錦の御旗にする連中や、回心による救い、ワンステップ救済とやらを唱える連中がなにかと使いたがる。だが超越はたしかに存在するし、変化を起こすうえで必要なものだ。その手段のひとつが音楽であることは、これまでいくどとなく示されてきた。イラク・ナショナル・ユース・オーケストラの場合、孤立した生徒たちと、遠く離れた教師たちのあいだで「超越」が起きた。新しく誕生したユース・オーケストラは、新しい指導陣を得ることができた。メンバーに直接教えるために、教師たちがイラクに足を運んだ。新しい指揮者も就任した。そしてマカランダンが本拠地としているドイツをはじめ、イギリス、フランスの聴衆に迎えられた。さらにはアメリカとも強いつながりができるところだったが、最終的には頓挫してしまった。
 私はこのオーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスとなる栄誉に浴し、管弦楽のための《一巻の波しぶき、空》という七分の曲を提供した。イラクとは正反対のオークニーの気候と文化を表現しつつ、若い演奏者の技術を無理なく高めることをめざした作品だ。
 オーケストラをつくっていく作業は簡単ではないし、安全でもなかった。楽員や家族には、危険も少なからずあった。変化に対応しながら一年、また一年と活動を続けることは、けっして容易ではなかったはずだ。ポール・マカランダンは個人的に難しい状況にあったにもかかわらず、目覚めている時間のすべてをこのプロジェクトに捧げ、心血を注いだ。いや、きっと夢のなかでもがんばっていたにちがいない。
 イラク・ナショナル・ユース・オーケストラの偉大な挑戦は、どんな災厄が降りかかろうと本質は損なわれないことの実例であり、だからこそ後世に伝える意味がある。本質があればこそ、悲嘆に満ちていた場所にも喜びが生まれ、混沌から秩序が形成されていった。あまりにも多くの喪失から、生命が息づく新しいものが誕生した。文化の壁を乗りこえて友情が結ばれ、生涯忘れえぬ経験が共有された。ここからもしイラクの未来の指導者が出てくれば、この国にも協力と合意と秩序の精神が深く根をおろし、すこやかに育っていくことだろう。
 ポール・マカランダンがこの本につけた「アップビート」というタイトルには、このオーケストラのこれまでの歩みと、個性豊かな楽員や教師、支援者たちの経験が込められている。彼らは力を合わせて輝く光をつくりだした。そして強さと決断力を発揮する音楽監督であり、豊かな知識と感受性をもつ音楽家であり、明快にものごとを語れる書き手でもあるマカランダンの才能も、この本を彩るもうひとつの光といえるだろう。
 イラク・ナショナル・ユース・オーケストラについて私が書くのはこれぐらいにして、ここから先は、ポール・マカランダン自身の貴重な証言を読んでいただくとしよう。

オークニー、サンデー島にて

* この本の制作が大詰めに入っていた二〇一六年三月、サー・ピーター・マクスウェル・デイヴィスはサンデー島の自宅で世を去った。八一歳だった。彼の死によって音楽界はもちろんのこと、オークニーの人びとも深い悲しみに沈んだ。

著者プロフィール

ポール・マカランダン  (マカランダン ポール)  (

スコットランドのアバディーンに生まれる。サリー大学、ヨーク大学、オープン大学で修士・博士課程を修了。
スコットランド室内管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団にてピーター・マクスウェル・デイヴィスのアシスタントを務め、1993年からプロの音楽家として活動を始める。それ以来、ニュージーランド交響楽団、デュッセルドルフ交響楽団、スコットランド・ナショナル・ユース・オーケストラなど多くのオーケストラで指揮者や客演指揮者を務めた。
イラク・ナショナル・ユース・オーケストラでは6年間にわたって音楽監督を務める。英語、ドイツ語ともに堪能。

藤井 留美  (フジイ ルミ)  (

翻訳家。訳書は『レッド・アトラス』(日経ナショナルジオグラフィック社)、『私はすでに死んでいる』(紀伊国屋書店)、『フルトヴェングラー グレート・レコーディングズ』(音楽之友社)など多数。アマチュア室内オーケストラを20年以上にわたって共同運営した経験を持つ。

上記内容は本書刊行時のものです。