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ワーグナーシュンポシオン 2018
特集 ワーグナーの呪縛(2)
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年7月
- 書店発売日
- 2018年7月20日
- 登録日
- 2018年6月11日
- 最終更新日
- 2018年8月6日
紹介
日本のワーグナー研究の最新動向を伝える年刊誌。
飯守泰次郎氏ほかが故三宅幸夫氏への追悼文を寄稿、
特集ではワーグナー作品がピアノ編曲、映画、文学などに与えた影響を明らかにする。
『ワーグナーシュンポシオン』は、わが国におけるワーグナー研究の成果やワーグナー芸術にかんする多様な情報を発信する年刊誌。
「シュンポシオン」とは、古代ギリシャで酒を酌み交わしながら行われていた議論のことで、プラトンの対話篇『饗宴』の原題でもあります。
本誌を、ワーグナーについて真摯かつ自由闊達に語り合う場にしたいとの願いが、この誌名にこめられています。
本号では、巻頭に2017年8月に逝去した日本ワーグナー協会前理事長・三宅幸夫氏への追悼文集を掲載。特集は昨年にひきつづき「ワーグナーの呪縛(2)」と題して、リストのピアノ編曲、F.ラングの映画『ニーベルンゲン』、O.ワイルド、W.B.イェイツ、J.ジョイス、T.S.エリオットなどイギリスで活動した「亡命者」たちの文学と「ワーグナーの呪縛」とのかかわりを論じる。バイロイト音楽祭や国内の上演報告、内外の文献紹介ほか最新情報も満載。
目次
■追悼──故 三宅幸夫先生
かけがえのない理解者(飯守泰次郎)
ことばの魔術師(伊藤綾)
音楽の二刀流(佐々木喜久)
三宅幸夫先生追悼(小鍛冶邦隆)
三宅幸夫さんとのこと(池上純一)
まえがき(杉谷恭一)
■特集──ワーグナーの呪縛(2)
ワーグナー=リストのオペラ編曲(上山典子)
映画『ニーベルンゲン』とワーグナー(江口直光)
故郷なき者たちの拠り所─イギリスの「亡命者たち」が求めたワーグナー(高橋宣也)
[連載『ワーグナースペクトラム』誌掲載論文]
指揮の実践と解釈の方策─生産的破壊戦略としてのワーグナーの論争的メンデルスゾーン像(ハンス=ヨアヒム・ヒンリヒセン/吉田真訳)
■エッセイ
ヴァーグナーに魅せられて(今尾滋)
■上演報告
バイロイト音楽祭報告 二〇一七──バリー・コスキーによる新演出《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(吉田真)
国内ワーグナー上演 二〇一七──《指環》への執着(?)が目立った一年(東条碩夫)
カールスルーエ歌劇場《指環》チクルス前半の報告(森岡実穂)
■書評
国内ワーグナー文献 二〇一七(佐野隆)
海外ワーグナー文献 二〇一七(フランク・ピオンテク/松原良輔訳)
執筆者紹介
■海外ワーグナー上演 二〇一七(曽雌裕一)
日本ワーグナー協会二〇一七年度活動記録
前書きなど
まえがき
皆様もご承知のとおり、昨年の八月一四日に本協会理事長三宅幸夫氏が永眠されました。そのあまりにも早いご逝去は、協会のみならず、わが国の音楽評論と音楽学にとって大きな痛手となり、また多くの音楽愛好家に哀惜の念を呼び起こしました。編集委員会は、本号の巻頭に三宅氏在りし日の写真とともに、同氏とゆかりの深い飯守泰次郎氏、伊藤綾氏、佐々木喜久氏、小鍛冶邦隆氏、池上純一氏による追悼文を掲載することにいたしました。それぞれ異なる立場で三宅氏との接点をおもちだった筆者の皆様からお寄せいただいた文章によって、多方面に大きな足跡を残した三宅氏の活躍ぶりが浮き彫りとなったと思います。筆者の皆様には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
さて、本号は前号に引き続き「ワーグナーの呪縛(2)」という特集テーマを立て、強い呪縛力を発するワーグナー芸術との関わり方(促進、利用、回避、屈服、対峙など)、あるいはワーグナー自身による呪縛力の行使をめぐる論文四編を掲載しました。冒頭に掲げた上山典子氏(音楽学)の「ワーグナー= リストのオペラ編曲」は、リストによるワーグナー・オペラのピアノ編曲全一五曲を、ヴァイマル宮廷楽長時代の七曲と宮廷楽長辞任後の八曲に分類して、リストの音楽活動、ワーグナーとの人間関係、編曲に対するワーグナーの関心などを背景に考察・分析し、これらの編曲に具現化されたリストの芸術理念を追究するものです。次に江口直光氏(ドイツ芸術文化史)の「映画『ニーベルンゲン』とワーグナー」を掲載しました。江口氏は、中世叙事詩『ニーベルンゲンの歌』を主要な典拠とする無声映画『ニーベルンゲン』が、ワーグナーの《指環》を典拠の一つとしつつも、「脱構築」や「異化」を通じて単なる模倣となることを回避している点とともに、人物造形や表現手法において《指環》と通底していること、また、映画公開時のマーケティング戦略が「ワーグナーの呪縛」を利用したことを指摘しています。続く高橋宣也氏(英文学)の「故郷なき者たちの拠り所│イギリスの「亡命者たち」が求めたワーグナー」は、「亡命者」が政治的な意味ではなく、「根こそぎにされた人、外に飛び出す人」という含みであると述べたうえで、アイルランド出身のイェイツ、ジョイスとG・B・ショー、アメリカ出身のT・S・エリオット、そしてイギリスからドイツへの「亡命者」であるH・S・チェンバレンとヴィニフレート・ワーグナーを取り上げ、彼らが「ワーグナーの世界に拠り所を求めた」様態について論じています。特集の結びとして掲載したのは、『ワーグナースペクトラム』誌二〇一六年号、第二冊の特集「ワーグナーとメンデルスゾーン」に掲載された、ハンス= ヨアヒム・ヒンリヒセン氏(音楽学)による「指揮の実践と解釈の方策│生産的破壊戦略としてのワーグナーの論争的メンデルスゾーン像」(吉田真氏訳)です。概要については「訳者まえがき」をお読みください。
続くエッセイとして、声楽家(テノール)、今尾滋氏の「ヴァーグナーに魅せられて」を掲載しました。ここで今尾氏は、ご自身がバリトンからヘルデンテノールとなった紆余曲折を闊達な筆致で綴っていて、読者を大いに楽しませます。
吉田真氏による「バイロイト音楽祭報告二〇一七」では、ヴィーラント・ワーグナー生誕百年記念行事への言及に引き続き、バリー・コスキーによる《マイスタージンガー》新演出について報告されます。第一幕を一八七五年のヴァーンフリートに、第二幕を一八七〇年のトリープシェンに、第三幕を一九四六年のニュルンベルクに設定し、意味深長な意匠を凝らした演出を、吉田氏は明快に解説し、また歌手陣と指揮者については、おおむね肯定的な評価を下しています。
「国内ワーグナー上演二〇一七」では、東条碩夫氏が、三月の《ラインの黄金》(びわ湖ホール)から一〇月の《神々の黄昏》(新国立劇場)まで、演奏会形式を含む七つの全曲公演と、「わ」の会による《神々の黄昏》ハイライト(八月、北とぴあつつじホール)、《ワーグナー× ホルン》~N響メンバーと仲間たちによるホルン・アンサンブル(三月、東京文化会館小ホール)について、簡潔にして充実した批評を記しています。
本号では、さらに森岡実穂氏による「カールスルーエ歌劇場《指環》 チクルス前半の報告」を掲載しました。二〇一六~一七年に南西ドイツのカールスルーエ歌劇場で上演された四人の演出家による分担方式の《指環》四部作について、森岡氏はまず四人の演出家の経歴を紹介したうえで、ヘアマン演出による《ラインの黄金》とシャロン演出による《ヴァルキューレ》の斬新にして刺激的な舞台を、文章によって克明に再現しています。
「国内ワーグナー文献二〇一七」では、佐野隆(本誌編集委員)により、《ニーベルングの指環》等を論じた著作二点、コジマの日記の訳書の他、学会誌等に掲載された論文三点が取り上げられています。また、「海外ワーグナー文献二〇一七」では、フランク・ピオンテク氏(松原良輔氏訳)により、ワーグナー『書簡全集第二五巻』、ワーグナーの反ユダヤ主義を扱った著書二点、ワーグナーにおける所作を論じた著作、そしてバイロイト祝祭劇場を設計した建築家オットー・ブリュックヴァルトを扱った研究書の紹介と批評がなされています。
また巻末には、例年どおり、会員の曽雌裕一氏作成になる上演データ「海外ワーグナー上演二〇一七」を掲載しました。
さて、日本ワーグナー協会が一〇年を一区切りとして刊行している年刊誌の第四シリーズである本誌も、二〇一二年の発刊以来、本号で七巻目となります。二〇二一年の最終号まで余すところわずかとなりましたが、編集委員会は今後も内容の充実にむけて全力を傾注する所存ですので、忌憚のないご意見やご要望をお寄せくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
編集委員を代表して 杉谷恭一
上記内容は本書刊行時のものです。