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短歌タイムカプセル
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年1月31日
- 書店発売日
- 2018年1月31日
- 登録日
- 2018年3月1日
- 最終更新日
- 2023年7月20日
書評掲載情報
2024-12-07 |
東京新聞/中日新聞
朝刊 評者: 土井礼一郎(歌人) |
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重版情報
5刷 | 出来予定日: 2023-07-10 |
4刷 | 出来予定日: 2021-04-02 |
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紹介
葛原妙子・塚本邦雄・岡井隆から吉田隼人・大森静佳まで
今、読まれるべき現代歌人115人の作品二十首選。
さらに編者による一首鑑賞を収録。
戦後の現代短歌を見渡す決定版アンソロジーの完成です。
【収録歌人】
安藤美保、飯田有子、池田はるみ、石川美南、伊舎堂仁、井辻朱美、伊藤一彦、内山晶太、梅内美華子、江戸雪、大口玲子、大滝和子、大塚寅彦、大辻隆弘、大西民子、大松達知、大森静佳、岡井隆、岡崎裕美子、岡野大嗣、荻原裕幸、奥村晃作、小野茂樹、香川ヒサ、春日井建、加藤治郎、加藤千恵、川野里子、河野裕子、北川草子、木下龍也、紀野恵、葛原妙子、栗木京子、黒瀬珂瀾、小池純代、小池光、小島なお、小島ゆかり、五島諭、小林久美子、今野寿美、三枝昂之、斉藤斎藤、佐伯裕子、坂井修一、笹井宏之、笹公人、笹原玉子、佐藤弓生、佐藤よしみ、佐藤りえ、陣崎草子、杉﨑恒夫、仙波龍英、染野太朗、高野公彦、高柳蕗子、竹山広、辰巳泰子、田丸まひる、俵万智、千種創一、千葉聡、塚本邦雄、寺山修司、堂園昌彦、土岐友浩、永井祐、永井陽子、中島裕介、永田和宏、永田紅、中山明、西田政史、野口あや子、服部真里子、花山周子、花山多佳子、馬場あき子、早川志織、早坂類、林あまり、東直子、平井弘、福島泰樹、藤本玲未、藤原龍一郎、フラワーしげる、干場しおり、穂村弘、前田透、正岡豊、枡野浩一、松平盟子、松村正直、松村由利子、水原紫苑、光森裕樹、三原由起子、村木道彦、望月裕二郎、柳谷あゆみ、山崎郁子、山崎聡子、山下泉、山田航、山中智恵子、雪舟えま、横山未来子、吉岡太朗、吉川宏志、吉田隼人、米川千嘉子、渡辺松男
はじめに
校庭の隅っこで、地面を掘り返すと、土の匂いが濃く立ち込めます。卒業前、クラスみんなでタイムカプセルを埋めるのです。カプセルといっても、それはお菓子の入っていた缶だったり、密閉容器だったりします。その中には、写真、宝物、そして寄せ書きやメッセージ。あなたも、未来の自分への手紙を入れました。
十年後、二十年後、それを掘り起こしたら、あなたは、きっとその当時をありありと思い出すでしょう。でも、長い年月のうち、学校は建て替えられたり、あの校庭は公園や駐車場になったりします。いくら地面を掘り返してもタイムカプセルが見つからなかったら、一体どうなるでしょうか。
もしかしたら一千年後、あなたの全く知らない誰かが、たまたま地面を掘って、タイムカプセルを見つけるかもしれません。
「これは何だ?」
最初はとまどいます。それでも、その人はあなたの手紙を読み、あなたに興味を持つでしょう。あなたの夢、悩み、憧れ。さまざまなあなたを知るでしょう。
一千年の時を経て、知らない誰かが、あなたの友達になるのです。
* * *
五七五七七の音数律をもつ短歌は、一三〇〇年以上も前から現在まで受け継がれている詩形です。教科書に載っている『万葉集』や『古今和歌集』は、タイムカプセルなのです。私たちはそれを掘り返し、開けてみることで、一千年以上も昔の人の思いを知り、その人に心を寄せることができるのですから。
二〇〇〇年代の最初の世紀に入った今、私たちは『短歌タイムカプセル』を作りました。まさに現在、多くの人に愛されている現代歌人の作品を、未来に届けたい名歌を、この一冊にまとめました。
この本が一千年後、タイムカプセルの役割を果たすことを願っています。そして、はるかな未来にいる誰かの笑顔を想像しながら、今、みなさんにこの一冊をお渡しします。
東 直子
佐藤弓生
千葉 聡
おわりに
共有しながら生きていく
東 直子
現代短歌に能動的に関わるようになったのは、二十代半ばのころです。はじめは一人で創作しては投稿していたのですが、きちんと勉強したいと思い始めたころ、プロとして活躍している歌人の方々と歌会等を同席する機会にめぐまれました。そこで一番印象的だったのは、皆短歌を創作すること以上に、他の人の作品を読み、覚え、語りあうことに無上のよろこびを感じている、ということでした。おいしい食事を一緒にして、これ、おいしいね、と語り合いながら咀嚼しつつ、やがてその人の身体の一部となっていくように。もちろん私もその魔術にすっかりはまり、作ることと同時に、短歌を共有することの楽しさにどっぷりはまっていきました。短歌という詩型は、作った人の身体を出ると、他の人の身体を通じて生き続けてゆくのだと思います。
長い間短歌と関わることで知り得たすてきな作品をいろいろな人と分けあいたい。そんな気持ちが高まっていた頃、この本の制作にお声かけいただき、編者として参加することになりました。好きな歌を思う存分集められる、と意気揚々と参加したのですが、いざ始めてみるといろいろ悩むことも多く、もっともっと収載したい歌人、作品がありました。
思いの外時間を要してしまいましたが、なんとか形になり、佐藤弓生さん、千葉聡さんと一緒に編んだアンソロジーとして、短歌の新たな栄養素となる一冊になったのではないかと思っています。
今回は、表紙の絵も描かせていただきました。赤い服の女の子と戯れているのは、マダコの幼いときの姿です。彼らは、海の中でほとんど透明な姿で、真夜中に目覚めたりしているようです。私の知らない、到達することのできないところには、たくさんの未知の生き物がいて、いろんなことをしつつ、いろんなことを考えたり、考えなかったり、するのでしょう。知らない世界を想像することが、とても好きです。それが案外、知っている世界を新しく愛することにもつながる気がします。
誰かの創作した一首一首には、私の知らない世界がぎゅっとつまっています。言葉の海に放たれた一首ごとの世界を楽しんでいただけたら、たいへん幸いです。
「好き」をさがしに
佐藤弓生
以前、子ども向けの短歌ワークブックにたずさわったとき、思いました。短歌のつくり方を学ぶことはもちろん表現のよろこびにつながるけれど、短歌を好きになるきっかけというのは作歌のノウハウを知るより先、ある作品にふと目をひかれたりすることでは?
短歌を好きになる本って、どんな本だろう。
本書の原案を、歌友の千葉聡さんに相談しました。千葉さんがあちこちに声をかけてくれて、東直子さんの賛同、書肆侃侃房の方々の提案と協力があり、こうして形になりました。
前述のワークブックの校正中に、歌人の小高賢さんが急逝されました。小高さんが編まれたアンソロジー『現代短歌の鑑賞101』(新書館、一九九九年)には百一人の作品が三十首ずつ載っていて、それまで知らなかった歌や歌人をあらたに好きになることができました。この本、使いすぎていまでは小口が黒ずみ、背の糊も弱まってページがばらけそうです。
目ざすなら、そんなふうに愛用される本!
と個人的にこころざしつつ着手したところ、百人の編者がいれば百とおりのアンソロジーができることを確信するにいたりました。百人の編者がそれぞれ百回編集すれば、一万とおりになるかも……。
方針が必要です。そこで小高さんの各編著ほか、歴代の各種アンソロジーや、同じく歌人の山田航さんが若手歌人をフィーチャーした『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』(左右社、二〇一五年)等との重複をひかえめにするとともに、あまり知られていなくても私たちが影響を受け、推したい歌人の作品は積極的に取りあげることとしました。
既刊の名アンソロジーがあったからこそ、新世紀ならではの一冊をつくることができたといえます。作業に思いのほか時間がかかり関係者各位をお待たせしてしまいましたが、初期歌集の書影や一首鑑賞といった見どころをもうけることができました。
手にとってくださった方が、それぞれの「好き」をさがしに、本書をひらいていただけるとさいわいです。「好き」が、未来へのお守りとなりますよう。
心の自由を守るために
千葉 聡
桜丘高校で国語を教えている。生徒たちは明るく、授業も部活も楽しいし、バレーボール大会も合唱コンクールも盛り上がり、みんなで泣いたり笑ったりする。「桜丘は世界でいちばんいい学校だ」と思う。文化祭の終わりに、全校生徒が校歌を大声で歌っているのを聞くと、つい涙が出てくる。
だが、学校というシステムには呪文がつきまとう。「規則を守れ」「さらに努力して成績を上げろ」「はやく立派な大人になれ」。教員はどうしても生徒たちを競わせ、成果を求めてしまう。私もホームルームで「提出物は期限までに必ず出せよ」と言い、授業中には「これがわかれば大学入試で点が取れる」と熱弁をふるう。
生徒も先生も、何かに追われ、疲れてしまってはいけない。勉強も、集団生活も、本来は、頭と体と心を豊かに育てるのが目的なんだ。成果や数字を追うことから離れたくなると、私は国語科準備室の前の小さな黒板に短歌を書く。生徒たちが通りがかりに読んでくれる。枡野浩一の一首を書くと「これ面白い」と笑ってくれる子がいる。横山未来子の恋の歌を書くと「この気持ち、わかります」と感想を言ってくれる子がいる。
短歌は心の自由を守ってくれる。作者は自分のことばで表現することで、自分の内に潜む何かを大きく変えることができる。読者は目の前の一首から、さまざまな思いを受け取ることができる。そしていつか読者が、自分のことばで新たな一首を生み出すようになったりする。
ときどき「短歌をもっと読んでみたい」「自分でも短歌をつくりたい」という生徒が現れる。私は嬉しくなって、手もとにある歌集を貸す。それを返しに来るとき、生徒は言う。
「こういう短歌の本は、どこで買えますか?」
多くの歌集は一般の書店に置かれていないし、わりと高価だ。生徒たちの小遣いで買える短歌の本をつくりたい。できれば一冊で、たくさんの歌人に触れることのできる本がほしい。
その願いが、この本で叶えられた。これから短歌の世界に入っていく人たちにとって、心強いガイドとなる一冊である。多くの方が、それぞれの心の自由を守れますように。
ご協力くださったみなさん、本当にありがとうございました。この本を力強くバックアップしてくださった書肆侃侃房の田島安江さん、園田直樹さんに、編者一同、心からの感謝をささげます。
上記内容は本書刊行時のものです。