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シンガポールの基礎知識 田村慶子(著) - めこん
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アジアの基礎知識 2

シンガポールの基礎知識

発行:めこん
A5判
縦215mm 横153mm 厚さ17mm
重さ 414g
220ページ
上製
定価 2,000円+税
ISBN
978-4-8396-0294-9
Cコード
C0330
一般 全集・双書 社会科学総記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2016年4月
書店発売日
登録日
2016年8月26日
最終更新日
2016年8月26日
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紹介

その国のことを知りたいと思う人が最後まで一気に読めて、基本的なことがすっと頭に入るというシリーズです。
・読みやすい・・・各国の研究者がひとりで執筆→全体のまとまりがある。
・理解しやすい・・・各節2~4ページ。写真・図版・地図を多用。
・必要最小限の知識……詳しくなりすぎない。固有名詞より流れや構造を重視。各国を代表する人物10名のコラムがユニークで役に立つ。
・読者の立場に立ったレイアウト・・・細部まで気を配り、親切に。

目次

1シンガポールはどんな国?

2都市国家の様々な顔

チャイナ・タウン、リトル・インディア
シティ・ホールとパダン
オーチャード
歴史を刻む地名
数多くの貯水池
ジュロン
本島以外の小島-セントサ島とセント・ジョーンズ島
コーズウェイ・リンク
シンガポールの「顔」リー・クアンユー

【人物コラム リー・クアンユーと妻、子どもたち】

3歴史-都市国家の誕生と独立

中世のシンガポール
イギリス植民地時代
アジア自由貿易ネットワークの拠点に
移民社会の成立―中国人(華人)、マレー人、インド人
日本軍政期-「昭南島」の人々の生活
ロウムシャ、「粛清」、強制献金
軍政下の住民生活とナショナリズムの芽生え

4独立への道

マラヤ共産党と「マラヤの春」
独立の担い手-英語派と華語派
人民行動党(PAP)の結成
マラヤ連邦への統合による独立
単独の共和国へ

【人物コラム スタンフォード・ラッスルズ、タン・カーキー】

4新たなる国民国家の創造

「生き残りのイデオロギー」
「未来のない都市国家」
「生き残りのイデオロギー」と開発
言語の管理と「英語国家」への誘導
二言語政策
「華」の排除-南洋大学の興亡
能力主義社会とエリートの養成
宗教と文化の管理
公団住宅
国軍と徴兵制
創られなかったシンガポール文化

【人物コラム リム・チンシオン】

5政治と行政

人民行動党(PAP)一党支配体制の構築
「政府がPAP、PAPが政府」
批判勢力の封じ込め
与党有利の選挙制度
治安維持法
「草の根」の管理体制
2011年総選挙-「シンガポール政治史の転換点」
国民の不満-急増する外国人労働者
国民の不満―拡大する所得格差
政治意識の変化
2011年総選挙
「リー・クアンユー時代」の終わり
労働者党

【人物コラム ジャヤラトナム、ロー・チィアキアン】

6産業・経済・労働

外資系企業の誘致
投資環境の整備
「厳格な法支配」の魅力
基幹産業と外資の貢献
政府機関の役割
IT産業―21世紀の成長戦略
地場企業

【人物コラム ゴー・ケンスイ】

7対外関係

マレーシア-共存と競争という愛憎の仲
インドネシア-東南アジアと自国の安定の要
中国
「国内に残る中国」との葛藤
アメリカ-経済と安全保障を依存
日本―「親日」は変わる?
アセアン(東南アジア諸国連合)―小国シンガポールが対等に発言できる外交の場

【人物コラム リー・シェンロン】

8発展の「影」
保守的な国民
貧困層の拡大と社会階層の固定化
外国人居住者への不満と反発
発展から取り残されるマレー系

【人物コラム ゴー・チョクトン】

9社会の変動

女性の社会進出と出生率の低下
進む高齢化
増大する華人キリスト教徒
活発化するNGO活動

文献案内
参考文献

前書きなど

豊かで安全な都市国家


 シンガポールはマラッカ海峡を臨むマレー半島の南端に位置する小さな都市国家で、大陸部東南アジアと島嶼部東南アジアを結び、インド洋と太平洋をつなぐ十字路に位置する。地震や台風という自然災害の心配はほとんどない。
 赤道直下の熱帯モンスーン気候に属しているため一年中高温多湿だが、雨季の一〇月から三月はスコールが多くて気温も下がるので、夜は肌寒い。四月から九月は乾季で雨が少なく、空気も比較的乾燥している。五月から八月はかなり暑く、連日三〇度を超える日が続く。ただ、乾季であっても短時間のスコールにはたびたび見舞われる。スコールは雷を伴うことが多く、数メートル先の建物さえ見えないくらいの豪雨と、強烈な雷鳴と落雷の光が続くこともある。しかし近年は地球全体の異常気象のせいか、スコールの時間が以前よりも長くなり、雨季と乾季の区別が曖昧になってきた。
 シンガポールは豊かな国である。『グローバル・ファイナンシャル』誌によれば、二〇一三年のシンガポールの一人あたり国内総生産(GDP)は、ルクセンブルグ、カタールに次いで世界第三位にランクされた。ちなみに日本は第二二位である。
この国がいかに豊かなのかは、空の玄関口チャンギ国際空港でまず実感できる。この空港は年間六六〇〇万人の収容能力を持つ三つのターミナルを持ち、世界六〇ヵ国二八〇都市を結ぶ航空便が乗り入れているという巨大なハブ空港である。空港内にはトランジット客のために、映画館やプール、シャワールーム、さらには無料の市内ツァー(五時間以上待ち時間があれば利用可能で無料)も行なわれている。さらに、数多くの飲食店や免税のブランドショップが並び、宿泊施設も充実している。チャンギ空港は旅行雑誌のアンケートで「二〇一五年世界で最も優れた空港」に三年連続で選ばれ、さらに空港内のバーラウンジ、プール、ホテルなどの娯楽施設が評価され、「空港内のレジャーや娯楽施設が最も整っている空港」にも七年連続で選ばれている。
 チャンギ国際空港からタクシーで約三〇分走ると、最大の繁華街オーチャード通りに着く。ここは世界有数のショッピング通りで、伊勢丹や高島屋などの日系百貨店やアルマーニ、ルイ・ヴィトンやシャネルといった高級ブランド専門店、高級ホテルが軒を連ね、お洒落なレストランやカフェもひしめき合っている。都心だけではなく、郊外の拠点地区にも大型のショッピング・モールがオープンし、新しい高層の公団住宅や病院もある。わざわざショッピングのためにオーチャードまででかけなくても、ほぼすべてのことが郊外の拠点地区でも可能となっている。
 水道水がそのまま飲めることも、この国が豊かで安全であることを示している。水資源に乏しいシンガポールは、原水をマレーシアから購入し、国内で浄水して上下水道として使い、さらにその浄水をマレーシアに売却している。この浄水技術が優れているために、水道の水を(けっして美味しくはないが)飲むことができる。
 治安は日本よりも良いと言えるかもしれない。犯罪発生率は一〇万人あたり一六七件で、殺人事件だけに限ると〇・二件、日本よりも低い。犯人検挙率は五〇%を超える。
また、都心から郊外に至るまで林立する高層団地群の眺めも、豊かなシンガポールを象徴する風景の一つであろう(写真1)。 
 二〇一二年でシンガポール人の八二%がHDB(Housing Development Board 住宅開発庁)フラットという高層の公団住宅に住む。HDBフラットには日本の1DKにあたる一部屋タイプから、4DKにあたる五部屋タイプ、およびエクゼクティブ・タイプと呼ばれる五部屋以上のゆったりしたタイプがある。価格は新規分譲と中古、また場所によって大きく異なるが、フラットの広さは日本のアパートやマンションよりもかなり広い。HDBフラットに住む世帯の四〇%が四部屋タイプに、三一%が五部屋およびエクゼクティブ・タイプに住んでいる。
 なお、HDBフラットは分譲(九九年リース)が原則である。購入せずに賃貸フラットに住むためには厳しい所得制限があり、一定以下の低所得者しか賃貸フラットに入居することはできない。したがって、多くの人々はHDBフラットを購入せざるをえないから、フラットの九三%は分譲(持ち家)となっている。
一方、世帯平均月収が約一万シンガポールドル(一シンガポールドルは約九二円)以上の高所得者は公団に住むことができないため、価格の高いコンドミニアムや一戸建て住宅に住まなければならないが、このような高所得者はこの五年間で一六・五%から一七・八%と増加し、豪華な一戸建てや最新デザインのコンドミニアムの売れ行きは好調である。国内の高所得者に加え、海外の富裕層や海外投資家も購入しているため、住宅価格は高騰している。一戸建てやコンドミニアムの値段は日本よりもかなり高い(写真2)。
 ただ、このような豪華な一戸建てに住む富裕層と賃貸フラットに住む貧困層の所得格差はものすごく大きい。富裕層が高級車を見せびらかすように自宅車庫に何台も並べる一方で、生きていくのがやっとという貧困層の暮らしは悲惨である。シンガポールには失業保険も公的な年金制度はなく、政府の社会的な支援は短期的一時的なもので、政府は貧困者や障がい者のような恵まれない人々には雇用機会を与えて自立を促し、また「多くの援助の手」(募金やボランティア)が支援を行なうことを奨励している。

著者プロフィール

田村慶子  (タムラケイコ)  (

福井県生まれ。津田塾大学大学院国際関係学研究科修士課程修了。九州大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在は北九州市立大学法学部政策科学科教授。
専攻は国際関係論、東南アジア地域研究。シンガポール国立大学客員研究員(2011~12年)を含めて、数多くのシンガポール滞在経験(長期、短期)を持つ。
主要著書 『「頭脳国家」シンガポール─超管理の彼方に』(講談社、1993年)、『シンガポールの国家建設─ナショナリズム、エスニシティ、ジェンダー』(明石書店、2000年)、『多民族国家シンガポールの政治と言語─「消滅」した南洋大学の25年』(明石書店、2014年)、『東南アジアのNGOとジェンダー』(共編著、明石書店、2004年)、『現代アジア研究第1巻─越境』(共編著、慶應義塾大学出版会、2008年)、『東南アジア現代政治入門』(共編著、ミネルヴァ書房、2011年)、『シンガポールを知るための65 章』(編著、明石書店、2013年)など。

上記内容は本書刊行時のものです。